読書日記

いろいろな本のレビュー

ジェノサイドの丘 フイリップ・ゴーレイヴィッチ WAVE出版

2012-01-08 13:03:33 | Weblog
 副題は「ルワンダ虐殺の隠された真実」。ルワンダはアフリカの貧困国でベルギーの植民地であった。「アメリカのヴァーモント州より小さく、シカゴよりわずかに人口が少なく、隣り合うコンゴ、ウガンダ、タンザニアに押し込まれているので、読みやすさを求めた結果、国名はたいていの地図で国境線の外に記されている。国際社会にとっての政治的、軍事的経済的価値という点からすれば火星並みだった。実を言えば、火星の方が戦略的価値は高いだろう。だがルワンダには、火星と違って、人間が住んでおり、ジェノサイドが始まっても国際社会はルワンダを放置した」と著者が言うように、ルワンダの悲劇の原因はここにある。国連加盟の先進諸国にとってはどうでもいい国だったのだ。
 ルワンダ問題については、2004年公開の『ホテルルワンダ』によって世界中に知られることで、衝撃を与えた。事件後十年経過していた。ルワンダにはツチ族とフツ族という二つの民族集団があり、1962年ベルギーからの独立後も民族紛争が続いた。1973年に多数派のフツ族が政権を握り、ツチ族を支配し、ツチ族はルワンダ愛国戦線を組織してこれに抵抗した。1994年にフツ族のハヴェリマナ大統領の飛行機撃墜死をきっかけに内戦が再燃、政府軍と暴徒化したフツ至上主義党のフツ族によって、三ヶ月間に100万人のツチ族と穏健派のフツ族が殺害された。武器はマチェーテ(山刀)とマス(釘を埋め込んだ棍棒)で農民が農民をころしたのである。体制順応に慣れたほとんど教育を受けていない、貧しい、無知な人々に武器を与えて、『お前の獲物だ。殺せ』とフツ至上主義党のメンバーが命令するのだ。またラジオ放送で、『ツチのゴキブリどもを殺せ』というメッセージが幾度も繰り返され、これをまた無批判に実行した。その混乱の中でホテル・ルワンダの一人のマネージャーがホテルに逃げ込んできた1000人以上のツチ族を命がけで暴徒から守ったというのが、『ホテル・ルワンダ』の内容だ。
 本書はこの虐殺の詳細をレポし併せて国連が結局、加害者側のフツ至上主義党を被害者と勘違いしてジェノサイドを助長し、ツチ族の被害を甚大なものにしたことを明らかにしている。また、紛争後の責任追及についても誰をどう裁くか、皆目方法がないというジレンマも述べられている。教育のない農民がしたこと故、お互いこのことは忘れましょうというあり得ない解決策が提示されているという。ナチスのユダヤ人のジェノサイドでは、永久に忘れないようにしようと言われているのにだ。ことほど左様にアフリカの紛争は軽視されがちなのだ。したがって、今後我われはスーダンの動向に注意すべきだろう。第二のルワンダにならないことを願うばかりだ。

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