読書日記

いろいろな本のレビュー

二十世紀の10大ピアニスト 中川右介 幻冬舎新書

2012-01-06 08:12:54 | Weblog
 ピアニストはいつの世にもいるが、世紀を代表する巨匠と呼ばれるにふさわしい存在は稀である。しかし、戦争で世界が混乱した20世紀に輩出したことは注目すべきことである。本書で取り上げられた巨匠は、ラフマニノフ、コルトー、シュナーベル、バックハウス、ルービンシュタイン、アラウ、ホロビッツ、ショスタコーヴィチ、リヒテル、グールドの10人である。このうち何人かのCDは持っているが(後ろの5人)、ショスタコーヴィチがピアニストだったとは知らなかった。作曲家だとばかり思っていた。
 この10人を時系列に並べて、歴史の流れの中で彼らの歩みを俯瞰できるように記述している。第一次世界大戦からヒトラーのナチスドイツの勃興、ソ連のスターリンの共産主義独裁と第二次世界大戦、そしてユダヤ人問題と激動の二十世紀を生きた音楽家の姿が鮮やかに捉えられている。彼らの中の何人かはユダヤ人であるが、迫害を逃れながら音楽家の道を貫こうとしてさまざまな苦難に向き合わざるを得なかった状況を見るにつけ、今の平和な時代のありがたさが身にしみる。またスターリン独裁の中で、ショスタコーヴィチがその音楽性を批判されながら生き延びた話も興味深い。彼の書いた交響曲第4番がスターリンの気に入らなかったが、その理由を側近たちが「形式主義に堕している」と批判したエピソードを紹介しているが、スターリンの気まぐれを側近たちはそう理由づけしたらしい。独裁者に仕える音楽家の苦悩がひしひしと伝わって来る。共産主義と芸術の関係の具体化されたものと言えよう。イデオロギーに縛られる芸術家がそこから逃れて自由を得ようと格闘する姿は感動的である。
 本書はそのような音楽家の姿がさまざまなエピソードと共に描かれる。力作と言えるだろう。また同じ著者の近著で『第九(ベートーヴェン最大の交響曲の神話』(幻冬舎新書)
も面白い。1824年のウイーンでの初演(ベェートーヴェン指揮)から200年の受容史を書いている。よくこれだけ調べられたものだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。