読書日記

いろいろな本のレビュー

小さいおうち 中島京子 文藝春秋

2010-09-25 09:11:38 | Weblog
 本年度直木賞受賞作。中島氏はすでに作家としての著作が複数あり、新人ではない。戦前の東京の上流階級の平井家に家政婦として仕えた女性を主人公として語られる、家族史・社会史である。戦争にいやおうなく巻き込まれていく人びとの不安・焦躁が淡々と述べられて行く。その中で起こる事件とは、平井家の妻・時子と平井家ゆかりの板倉正治の不倫だ。戦争末期、赤紙召集され入隊直前の板倉に時子が逢引の誘いの手紙を出すが、偶然見つけた主人公が手紙を板倉に渡すことを断念させるというストーリー。戦後年老いた時子の一人息子が母の手紙の存在を知らされ、灌漑にひたるというものだ。戦時下の不倫は成就しかかったが、阻止した家政婦の判断はそれでよかったのかどうかという問いかけで終わる。そんなの放っておけばいいのにという人も多かろう。でも小説としては面白い。
 これが直木賞で芥川賞でない所以は何か。ついでに芥川賞受賞作『乙女の密告』(赤染晶子)読んでみた。こちらはバリバリの新人で、『アンネの日記』をもとにした学園物。文章力は並みではない。京都人の特徴がうまくとらえられている。蓋し通俗的かどうかではなくて、発行部数が多そうなのが「直木賞」で、少なそうなのが「芥川賞」か。でも通俗的なものはよく売れるので同じことか。芥川龍之介は短編が得意で、典故を入れて構成力が優れていたので、何か仕掛けがあって起承転結がはっきりしている作品が選ばれるのか。今年の場合、『アンネの日記』が『今昔物語』や『宇治拾遺物語』に相当するのかも知れない。赤染氏には、処女作が最高傑作とならないように願いたい。芥川は結局これで苦しむことになったのだから。

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