タイトルの横に「ラストベルト再訪」とある。トランプが大統領になってから3年、その後の「ラストベルト」はどうなったかというルポである。そのトランプは今、下院から弾劾訴追を受けて、苦境にある。上院では否決される可能性が大だが、歴代3人目の不名誉な事態となった。来年の大統領選に勝てるのかどうか、世界が注目している。ビジネスマンが大統領になって、「アメリカフアースト」を標榜し、自国中心主義を前面に押し出した結果、世界の秩序は乱れつつある。これ以上、この人物に政治を任せてもいいのかという疑念が自国のみならず、世界各地に起こりつつある。
そもそも、アメリカのような民主主義国家でこのような独裁的な人間性に疑問を抱かせるような指導者が生まれること自体、今の民主主義の限界が露呈していると言える。選挙を実施してこれだから、選挙なしの独裁国家の指導者と余り変わらないというのは、皮肉な話である。民主主主義(デモクラシー)はもともと、つまらない人間の意見を聞くという政治形態だが、民度の高低にによって大きく左右される。ここで大きな力を発揮するのがポピュリズムである。市民にとって心地良い政策をがんがんアピールして票につなげようという手法である。これにはメディアの力が大きく関わってくる。トランプは不況に苦しむ地方在住の非高学歴白人労働者の支持を得て当選した。これには都市生活者の民主党支持者たちも驚いた。「なんでこんな人物が」と。しかしこのルポを読むと、田舎の人間にとって、都市のインテリはある種憎しみの対象であることが分かる。この格差の問題が大きいとジャーナリスト、バーバラ・エーレンライクが指摘している。
民主党の課題はという著者の質問に、「階級の違いや、広がった経済格差に対処できていないことです。(勝ち組である)株式への投資で儲けている人やハリウッドの側にいつまでもいる。彼らは、そんな人が大好きで、より支援を必要としている労働者階級や貧困層のことを考えていない。ヒラリーは多額の現金をウオール街から集めていた。これらの献金者が、最低賃金を時給15ドルに引き上げる大統領を支持するわけがありません。民主党は、階級の問題について妥協し過ぎたのです。民主党にあるエリート意識が、縮図となって現われていたのです」と答えている。
首肯すべき意見である。この格差問題は今や世界的な課題になっている。わが国でも、「上級国民」という言葉が出てきているくらいだから他は推して知るべしだろう。
「ラストベルトベルト」を再訪してどうだったかと言えば、それほど劇的な景気回復は実現しておらず、がっかりしたという人がいる一方で、トランプのお陰で楽になったと喜ぶ人もいる。とにかく、民主党では見向きもされなかったこれらの地方の白人労働者の生活に目を向けてくれただけでも有難かったというのが実感であろう。我々外国人もこのようなルポがなければアメリカの庶民の実相を知ることができなかったであろう。その点で貴重なルポである。第五章の「帰還兵とアメリカ」第六章の「バイブルベルトを行く」もアメリカの現状を知る上でためになった。
南部のバイブルベルトというのは、エバンジェリカル(福音派)のキリスト教徒が多いところで、彼らは聖書を字義どおりに解釈するのが特徴だ。ここでは、ラストベルトの雇用問題とは違って、キリスト教の価値観や習慣が弱まったことへの不満が大きい。例えば、同性婚、妊娠中絶への批判等々。宗教国家アメリカを彷彿させる所である。彼らによれば福祉政策は宗教が担うべき領域で政府の仕事ではない。まずは自助努力が大切であるということらしい。自助努力、自己責任の世界だ。共産主義がこの地に根付かない理由はここにあるのかと思ったりする。彼らにとってトランプは大切な理念(生活、家族や信教の自由の擁護等)のために貢献してくれる大統領と評価されていたのである。
ところが12月になって、福音派の雑誌『クリスチャニティ・トウデイ』(発行部数13万部 毎月のウエッブサイト閲覧数430万人)で、社長のティモシイー・ダルリンプル氏が大統領の罷免を要求したのだ。それは大統領の権力の乱用を指摘し、信者に対して大統領に対する忠誠心についてよく考えるよう促したものだ。すなわちトランプを評価する一方、福音主義者がトランプを受け入れることは「過激なまでの不道徳、強欲、汚職、軋轢を生む言動、人種攻撃、移民や難民に対する残酷さや敵意」に縛りつけられることを意味するという内容である。この宗教側のコメントはもっと早くに出されるべきものだったと思うが、満を持してということだったと善意に解釈しておこう。トランプがこれで反省すればよいが、もし今のままだとバイブルベルトから見捨てられかねない。そうなると来年の大統領選は混戦になるだろう。
そもそも、アメリカのような民主主義国家でこのような独裁的な人間性に疑問を抱かせるような指導者が生まれること自体、今の民主主義の限界が露呈していると言える。選挙を実施してこれだから、選挙なしの独裁国家の指導者と余り変わらないというのは、皮肉な話である。民主主主義(デモクラシー)はもともと、つまらない人間の意見を聞くという政治形態だが、民度の高低にによって大きく左右される。ここで大きな力を発揮するのがポピュリズムである。市民にとって心地良い政策をがんがんアピールして票につなげようという手法である。これにはメディアの力が大きく関わってくる。トランプは不況に苦しむ地方在住の非高学歴白人労働者の支持を得て当選した。これには都市生活者の民主党支持者たちも驚いた。「なんでこんな人物が」と。しかしこのルポを読むと、田舎の人間にとって、都市のインテリはある種憎しみの対象であることが分かる。この格差の問題が大きいとジャーナリスト、バーバラ・エーレンライクが指摘している。
民主党の課題はという著者の質問に、「階級の違いや、広がった経済格差に対処できていないことです。(勝ち組である)株式への投資で儲けている人やハリウッドの側にいつまでもいる。彼らは、そんな人が大好きで、より支援を必要としている労働者階級や貧困層のことを考えていない。ヒラリーは多額の現金をウオール街から集めていた。これらの献金者が、最低賃金を時給15ドルに引き上げる大統領を支持するわけがありません。民主党は、階級の問題について妥協し過ぎたのです。民主党にあるエリート意識が、縮図となって現われていたのです」と答えている。
首肯すべき意見である。この格差問題は今や世界的な課題になっている。わが国でも、「上級国民」という言葉が出てきているくらいだから他は推して知るべしだろう。
「ラストベルトベルト」を再訪してどうだったかと言えば、それほど劇的な景気回復は実現しておらず、がっかりしたという人がいる一方で、トランプのお陰で楽になったと喜ぶ人もいる。とにかく、民主党では見向きもされなかったこれらの地方の白人労働者の生活に目を向けてくれただけでも有難かったというのが実感であろう。我々外国人もこのようなルポがなければアメリカの庶民の実相を知ることができなかったであろう。その点で貴重なルポである。第五章の「帰還兵とアメリカ」第六章の「バイブルベルトを行く」もアメリカの現状を知る上でためになった。
南部のバイブルベルトというのは、エバンジェリカル(福音派)のキリスト教徒が多いところで、彼らは聖書を字義どおりに解釈するのが特徴だ。ここでは、ラストベルトの雇用問題とは違って、キリスト教の価値観や習慣が弱まったことへの不満が大きい。例えば、同性婚、妊娠中絶への批判等々。宗教国家アメリカを彷彿させる所である。彼らによれば福祉政策は宗教が担うべき領域で政府の仕事ではない。まずは自助努力が大切であるということらしい。自助努力、自己責任の世界だ。共産主義がこの地に根付かない理由はここにあるのかと思ったりする。彼らにとってトランプは大切な理念(生活、家族や信教の自由の擁護等)のために貢献してくれる大統領と評価されていたのである。
ところが12月になって、福音派の雑誌『クリスチャニティ・トウデイ』(発行部数13万部 毎月のウエッブサイト閲覧数430万人)で、社長のティモシイー・ダルリンプル氏が大統領の罷免を要求したのだ。それは大統領の権力の乱用を指摘し、信者に対して大統領に対する忠誠心についてよく考えるよう促したものだ。すなわちトランプを評価する一方、福音主義者がトランプを受け入れることは「過激なまでの不道徳、強欲、汚職、軋轢を生む言動、人種攻撃、移民や難民に対する残酷さや敵意」に縛りつけられることを意味するという内容である。この宗教側のコメントはもっと早くに出されるべきものだったと思うが、満を持してということだったと善意に解釈しておこう。トランプがこれで反省すればよいが、もし今のままだとバイブルベルトから見捨てられかねない。そうなると来年の大統領選は混戦になるだろう。