Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 昼の部』2回目 1等席前方センター

2013年09月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 昼の部』2回目 1等席前方センター

個々の役者が役にハマってきただけでなくアンサンブルがよくなってきて全体的に締まってきてたと思う。やはり日々進化し変化するんですよね。花形だし勿論、課題もあるけど「あ、これなら大丈夫」って思わせてくれただけで私は嬉しい。

『新薄雪物語』
満足度高し!初日比べかなり密度が高くなっていました。花形だけでこれだけのものを見せていたのは大手柄だよなあとしみじみ。全員が良かったしそれぞれ役にしっかりハマってきていた。それと古典の強みも感じました。でも花形がそこをきちんと表現できていたってこと。場としてはやっぱり『合腹』が芝居として一段抜けていたと思う。

今月の花形の三人笑いは子を想う親心の悲哀が強い。ベテランだと哀しみのなか無理に笑う切ない梅の方とは対照に兵衛・伊賀守の男性には悲哀だけでなく男同士、やれることはやった感というか少しばかり解放感があるんだけど今月の兵衛・伊賀守は子ゆえの犠牲の部分が強くでてた。たぶん、若いせいかな。達観がないんでしょうね。その気持ちの余裕のなさの部分に緊迫感が出てた。反対に梅の方はひたすら「母」のたっぷりした哀しみがあって対照的。それぞれが苦悩を抱えてる感じでそのバランスがまた花形ならではの場として成り立っていたように感じた。

兵衛@染五郎さん、緻密に積み重ねた芝居なかに感情のリアルさを表現していく。詮議の間はまだ若々しすぎるきらいはあるものの初日に比べたら立場ゆえの苦悩、左衛門の父としての存在感は出てた。でもやはり三幕目からが断然本領発揮。怒り、悟り、覚悟、子への、妻への想いが丁寧に緻密に積み重ねられていく。表情の変化、台詞の緩急で場を表現していく。梅の方@菊之助さんの心からの「母」の想いをしっかり受け止めて表現するところまできていた。真面目な武士像のなかの愛情がしっかりみえました。初日は父・叔父成分多め仁左衛門さんmix的だったのに今日は「ニザ様だろ、それ」って感じでした。声も顔も連想させるとこはまったくないのに。今回は表情の作りと緩急の間が仁左衛門さんソックリで驚きました。

梅の方@菊之助さん、声の使い方がここ数年で一気に上手くなっていますよね。あと武家の女を演じるうえでの格がついた。その武家の女という範疇のなかでの母としての情愛と夫への信頼、それがしっかり表現。そして泣き笑いでの戸惑いや悲しみが本当によく伝わってきました。また情味の部分、今まではどこかクールな部分がみえた菊之助さんですが気持ちを相手にぶつける、そこの部分の芝居を突っ込んでできるようになったなあと。今回は玉三郎さんに稽古つけてもらっていますよね、な玉三郎さんの凛質の部分が透けてくるのと女性としての柔らか味をしっかり表現しているんですがそれだけじゃなく菊之助さんの義太夫をかなり訓練しているという素地の部分で自分の色を付けてきてる段階ですねえ。

兵衛@染五郎さんと梅の方@菊之助さんの夫婦間の愛情や信頼が今回しっかりみえた。それゆえに懐の大きさのある伊賀守夫婦に比べて兵衛・梅の方夫婦はかなり真面目で若い夫婦なんだなっていう対比がきちんと見えたのもよかった。初日はそこまでの対比は出てなかったように思う。夫婦の愛情あってこその子のための犠牲なので。

伊賀守@松緑さん、幸四郎さんに稽古つけてもらったというだけあって陰腹を切った後の体の使い方が良い意味でリアルな説得力。細かい部分に神経がいっているし、押せ押せの一本調子なところがある松緑くんだけど緩急が効いて存在感がある。ただ初日より台詞が若干よれてる部分が…。試行錯誤中なんでしょうね。

左衛門@勘九郎さん、今回、ぐんと良くなったと感じたのは勘九郎さんの左衛門。柔らか味が出てきて二枚目風情がより出ててとてもよくなっていました。とことん真面目なところがまた良いのです。

薄雪姫@梅枝くん、序幕はもう少しおっとりたっぷりした左衛門らぶ感が欲しいなあ。詮議の場以降は芝居が的確だし可愛らしい。

籬@七之助さん、まずは腰元のなかでも指示する立場にいるという格が落ちないのがいい。おせっかいなほどの世話焼きも何より姫のためという凛としたところでかえって可愛らしさに繋がっている。間の上手さを感じる。ただ妻平らぶ度が薄い。恋人同士に見えないんだよな~。なぜかしらん。

妻平@愛之助さん、初日から言うことなし。こういうのを本役というのだろうな。一番無理のない配役だし美味しい役ではあるけど落ち着きのなかにほんのり茶目っ気をのぞかせて存在感がありました。立ち廻りの芯としてもいつもより大きさが出てたと思う。

大膳/民部@海老蔵さん、大膳はまだもう一つ。似合う拵えなのですがなぜか大きさが出てない。役柄として似合うはずなんですけどね。台詞に凄みが足りない感じ。声の出し方をもう少し研究してもらいたいです。民部は初日は大膳が化けてるのか?的な暗さがありましたけど今回はきちんと温情ある捌き役になっていました。おっとり感があるのがお父様に似てまたよし。ここでも声が安定しないのは相変わらずでしたけどだいぶ改善されてて感涙。やれば出来る!

団九郎@亀三郎さん、かなり存在感があってよかった。小悪党なのにカッコイイんですよね。海老蔵さんと対峙して負けてない。芝居の地力が表に出てきたように思います。大きな役をもっとつけてもいい役者さんです。


『吉原雀』
前の幕が緊迫感のある重い狂言ですのでこういう軽めの舞踊で追い出しはいいですね。

勘九郎くん、七之助さん、爽やかで綺麗なカップル。この舞踊に必要な軽みというか洒脱さはまだまだ。真面目な踊りになってしまっていましたが、若い二人なのでこれからというところでしょう。