Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

金丸座『第三十回記念 四国こんぴら大芝居 第二部』 A枡席 2回観劇分

2014年04月20日 | 歌舞伎
金丸座『第三十回記念 四国こんぴら大芝居 第二部』 A枡席 2回観劇分

第二部『女殺油地獄』A枡席前方センター(4/19(土))A枡席花道寄り(4/20(日))

『女殺油地獄』は19日と20日続けて二回観ました。この芝居は役者たちのちょっとした演じ方で印象が変わる芝居なので細かい部分を書こうと思えば別に書いたほうがいいと思いますがとりあえず今回は同じ主演の染五郎さん与兵衛でも2011年2月のル・テアトル公演の時とは違い表現しようとする方向性は一緒だと思ったので2日分として書いてしまいます。

二日とも「大当たり」という大向うが飛びましたがまさしく大当たりな芝居になっていたと感じました。この演目のリアルさ、歌舞伎としての様式美のバランスがよく、また物語に強い説得力がありました。染五郎さんが目指す『女殺油地獄』は与兵衛とお吉の二人の物語というだけではなく、親子の物語であり、家族の物語であり、そこにあるコミニュティの物語として、「人の情」を描いていくことなのではないかと思います。ル・テアトルで演じられた時にもその部分がみえましたが今回そこをしっかり見極めてきたかなと。

与兵衛@染五郎さん、今回拝見して染五郎さんはこの演目は完全にモノにしたと思いました。もちろんまだ完成系ではなく、どんどん変化はしていくだろうし続けてみた二日観ただけでも同じ与兵衛ではなかった。でも方向性が固まってきたというかやりたいものが見えたんじゃないかと思う。この演目、染五郎さん何が何でも、これからも続けて演じていくだろうと思う。そして「逮夜の場」は出来うる限り付けて上演していくと思う。それだけの説得力を今回持たせた。

テアトルでの「逮夜の場」はやはり少し浮いていたと思うしテアトルという小屋のせいもあったけど物語主義のほうに向かい歌舞伎味は薄くなっていた。それが面白みでもありましたが。でも今回、「逮夜の場」もきちんと歌舞伎だった。歌舞伎としての『女殺油地獄』の世界としてハマってた。それとテアトルでは演じ方も解釈の変えようだけでなく仁左衛門さんの与兵衛から違う方向に行こうとしすぎてた。役の解釈も極端にコロコロと変えてましたし実験的な、と言っていいほどだった。でもテアトルでの試行錯誤のあれが無ければ、染五郎さんは「歌舞伎」としてみせるにはというところまで行きつかなかったんだと思う。歌舞伎としてみせる、義太夫ものとしての与兵衛と自分が表現したい与兵衛を今回はきちんと重ねてこれていました。細やかな芝居に大胆さが加わり与兵衛という人物を立ち上げてきました。その場その場の感情の赴くままにしか行動できないどうしようもないアホぼんであり、それでもどこか可愛げで切ない、哀れな哀れな与兵衛。

たぶん染五郎さんは与兵衛の、そして家族の、小さいコミュニティの、そのなかでの「人」との関係性や人としての情の物語として「芝居」を昇華しようとしている。その成果が今回は出たと思う。たぶん純粋悪のまったく後悔という概念のない与兵衛は「歌舞伎」としてもう演じないのでは?と思う。でも単純に後悔する与兵衛でもない。ねじれてしまった性根のなかに愛することを知らず、ただただ愛されることだけを求める小さい子供がいる、そんな与兵衛。だから殺しに対して心底後悔できてるのではなくようやくただ「悪いこと」が何かを気づき、自分が「愛されてなかったのではなく愛されていた」と気づいただけの与兵衛だと思う。最後まで家族に甘え、家族も最後まで甘やかす。 染五郎さんの与兵衛は小さい子供のような可愛らしさと色っぽさが同居するアンバランスさが特徴だと思う。純粋でからっぽで寂しくて冷たくて。

与兵衛の友人に種之助くんと廣太郎くん。役としては与兵衛と同じ30歳前後のはずだけど今回は彼らの実年齢そのままな感じ。いかにもぼんぼん育ちの悪ガキでした(笑) そこに実年齢ではかなり離れてる与兵衛@染五郎さんがそんな若い悪ガキ二人の間に入って違和感なし。表情や素振りで若い。今回の与兵衛は性根の部分で「子供」。染五郎さん与兵衛は甘やかす親の上にあぐらをかく与兵衛ではなく、親の愛情を絶えず試すタイプ。感情の赴くままのとても未成熟なガキんちょ。前楽ではどちらかというとワガママな横暴さのなかに愛されてる実感がなくてもっと愛してよと叫ぶ子供がいて、千穐楽ではモロく傷つきやすいがために虚勢を張っている、愛されてないという不安にかられてるような小さい子供がいたように感じました。

お吉@壱太郎さん、風情がきちんと人妻だった。さすがに「母」ではまだなかったけど(笑)まだまだ若妻な色気で三人(歌舞伎じゃ二人だけしか出てこないけど)の娘の母らしさはまだなくて姪を世話してる感。でもその分ちょっとガードが甘いだけに色気のある、つい世話やきをしてしまう隙のあるお吉。どこかウキウキしてる感じなのよね。子供にはとっても優しいんだけど、与兵衛を目の前にしたり旦那を目の前にするとそちらに注意が全部いく。なので、殺し場が「女」として必死なのでエロかった。染・亀(当代、猿之助さん)の時はひたすら凄惨な殺し場だったけど、染・壱は凄惨さのなかにsexの匂いがする殺し場でもあった。染五郎さん与兵衛の目の据わり具合が前回より怖いし動きが様式のなかに動物的なものがあったというのもそれを増幅させた感じ。様式に昇華されてるのに白い肌の絡み合い的なエロさ。にしても金丸座の薄闇のなかの殺し場はあまりに臨場感ありすぎて怖かった。そういえば、壱くんは赤ちゃんをちゃんと抱けてなかった。それじゃ、赤ちゃん安定してなくて苦しいよ、ああ、落としそうってハラハラした(笑)今まで赤ちゃんをちゃんと抱っこしたことないのかも。

おさわ@吉弥さん、元は武家出の商家のお内儀らしい凛とした強さがありつつ内に母としての強い愛情と甘やかすもろさを抱えるおさわでした。どこか愛情を表現するの部分で不器用さも感じさせ、またそういう母が再婚したという生な部分が出る。だからこそ甘えん坊の与兵衛が小さい時に両親の愛情に対して不安感を抱いてしまったのかな?とも思わせた。凛とした風情があるおさわだからこそ、与兵衛を見捨てられないその甘さと母としての切なさが際立ったように思います。

徳兵衛@橘三郎さん、かなり真面目でしっかりしているだけに義父として元は使用人だったという遠慮が強すぎてしまう、そんな徳兵衛。与兵衛に対しどう接したらいいか生真面目に悩みすぎてすれ違ってしまったようだった。親になりきれない、そんな哀しさのある徳兵衛。でも、最後の場で父としての想いは与兵衛に伝わったんだと確信できたのは救いかも。だから最後あんな態度に出られたんだろう。でもようやく対等に親として対峙できたのは運命の歯車が完全に狂ってしまった後なのよね…。

おかち@米吉くん、とても健気で可愛かった。あんな兄でもお兄ちゃんとしてどこか甘やかしちゃうしっかりものの妹だった。

七左衛門@松也さんはいかにも若い感じなので嫉妬するとこがわかりやすい。目端のきく商人的な感じもありました。

森右衛門@亀蔵さん、生真面目で気のいい伯父さんぶりでよかった。どこか情にもろい部分をみせるので妹家族のために奔走するという部分に説得力がありました。

兄太兵衛@宗之助さんはやっぱおかちのほうがしっくりきますね。どことなく兄ぽくない。気のいい友人ぽくみえたかな~。でも真面目でとても真っ当な人という部分はしっかり出ていました。

小菊@高麗蔵さんテアトルのときよりはジャラジャラをみせてきたけどやっぱり江戸の芸者以外なにものでもないかな(笑)小菊できる人、今あまりいないですよね…。

この金丸座でやったことを今度は歌舞伎座でどうできるか。そこに興味がいきました。染五郎さん、歌舞伎座でやらせてもらえないかな~。