Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

青山劇場『髑髏城の七人 ソワレ』 S席前方上手

2011年10月06日 | 演劇
青山劇場『髑髏城の七人 ソワレ』 S席前方上手

7年ごとに上演されてきた劇団☆新感線『髑髏城の七人』を観てきました。今回はキャストが若いので通称ワカドクロ。その名の通り色んな意味で若かった…。彼らにはエピソード0を新たに書き下ろしてあげたらよかったのにと思いました。今回の役者陣は『髑髏城の七人』の設定に少々そぐわない感じなんですよね。当初、今回の役者陣が発表された時に『髑髏城の七人・零』とありました。私はてっきり新たに前日譚を書き下ろすのかと思っていました。そして実際に拝見してやはり彼らには前日譚にするべきだったかなと。

今回は捨之介と天魔王の一人二役を別々な役者に分けてきました。しかし二人に分けた意味を見出せなかったです。分けたおかげで登場人物たちの関係性が薄くなってしまっていました。捨之介と天魔王は表裏一体というか合わせ鏡のような存在であるからこそなんじゃないかなあとつくづくと思いました。そして捨之介と天魔王の関係からくる色んな複線が無くなったことで、人が繋がっていく過程が見えずらくなり、虫けらと言われた存在が権力に立ち向かっていくカタルシスもなくなった。

それと後半の場面での私の捨之介の好きな台詞「もう、目の前で無駄な人死にを見るのは、御免こうむりたい気分なんだよ。」が削られ、そしてそれに伴う敵も峰打ちで倒していく殺陣から普通に殺していく殺陣に変わってたのが私にとって改悪以上のなにものでもない。なぜここ削ったの?仲間が殺されていった悲しみとか、生きるために人を殺していかざるおえなかった哀しさとか、そんなものが凝縮されてたと思うんだけど…。

また、少し手直ししただけの脚本なのになぜか今回のキャストで演じられた『髑髏城の七人』は日本の話じゃなくどことも知れぬ国のお話のようになっていたのも不満。なぜだろう?私としてはアカドクロの「歴史の流れのなかにそっと埋もれていく名も無き彼ら」、アオドクロの「歴史を作っていこうとする未来の風を纏う名も無き彼ら」がそこにみえてくるのは「日本の歴史」のなかの一こまとして描かれてるから、だと思うんですよ。私としては『髑髏城の七人』のそこが気に入ってるわけで…。その雰囲気が薄れたのも残念。過去~未来の時間の流れが見えなくなっていた。

なんというか今回、全体的に薄かったんですよね。劇団☆新感線のいのうえ歌舞伎には濃い空間と濃い人物と濃い人間関係を求めてしまうので、今回のその薄さゆえ、物語の破綻のほうに目が行ってしまった感じかなあ。個々のキャラが突出していない分、せめて立ち向かう側の結束力の強さというか縁の部分を強調させるとかしてほしかった。とにかく関係性の薄れっぷりが一番の不満だ。細かい部分でいえば捨と狭霧は最初に出会わせるべきでしょう。最初に救ってこそ、狭霧が捨を慕うきっかけになるんだし、あの場面の捨の「女は殺さない」が後に繋がるのになあ。う~ん、やっぱ今回は捨之介と天魔王を二人に分けたことのマイナス面が強調されちゃってたと思う。

脚本だけでなく演出も不満…。アオドクロ7割、アカドクロ3割風味の演出。新しいとこが全然ない。これじゃ比べてくださいって言っているようなもんだし、新たにエピソード0を書き下ろしができないのであれば、演出の部分でまったく新しくしていって欲しかった。そもそも設定が今回の若いキャストに合わないし、演出もキャストの柄にハマっていなかった。そして期待してた三人の化学反応も無かった。むしろお互いを向いてない感じにみえた。その余裕がなかったのかしら?

それに従来の『髑髏城の七人』を踏襲すると天魔王・捨之介・蘭兵衛の対峙がほとんどないんです。そりゃ、今までは一人二役ですから。でも今までは役者の強烈な存在感でそれを感じさせなかったってだけで。今思うとそれって凄いことなんですが…。で、今回はせっかく、小栗旬、森山未來、早乙女太一という三人を揃えたんですからやっぱり三人を対峙させる場面を増やすべきだったかと。本筋を変えなくても、天魔王が天魔王であることの存在を最初隠していいと思うんですよね。天魔王に蘭兵衛と同様に表向きの名前を持たせて、髑髏党の探っている風情にさせ図らずも三人がそれぞれの立場で出会い最初に昔の関係性を見せつつ互い腹の探りあいをさせるとか。殿がもしや生きていたのか?くらいな方向で。そうすれば蘭兵衛が、殿に似たものを求めて天魔王に付くという理由付けがなくても、いくらでも無界屋を裏切る状況を作ることができると思うし。今回、殿の影武者という設定を無くしたことで、蘭兵衛の裏切りもいまひとつ納得がいかないので。

とりあえず脚本、演出にどうにも不満が出てしまって乗り切れず。残念です。

役者さんたちも中途半端な脚色・演出ゆえに役者たちも今までの『髑髏城の七人』の芝居の型というものに囚われてしまった感。単なる型に嵌り過ぎると幅がなくなる、薄くなる。なんだろ脚本も演出も杜撰だったけど、役者たちももう一歩、役に気持ちが入りきってないようにみえた。。

捨之介@小栗旬さん、爽やか青年な捨之介でした。背も高いしスタイルもいいしカッコイイですね。でも思ったほどはキャラが立っていなかったかも。『蜉蝣峠』の堤さんを参考にしたんでしょうかね?色々と髣髴させましたが小栗旬さん自身の個性というものがみえず人物造詣が薄く感じてしまった。皆を引っ張っていくという感じがしないんですよね。かといって浮世を捨てた寄る辺なさみたいな部分もないし。う~ん、若者として真っ当すぎる感じというか。殺陣が事前に聞いていたよりは頑張っていたかと。刀に振り回されていたところもありましたが全体的に大きく動いて見栄えするようには動けていました。着物の所作が出来てない分、はだけっぷりが凄かったのでファンは喜んだでしょう(笑)100人切りでの衣装は足を捌くために脇スリット入りでした。着物での殺陣は難しいんですね。

天魔王@森山未來くんは面白い天魔王だった。型に嵌らないで自分でキャラを作りこみオリジナリティがあった。独自の世界観があって役者として面白い存在。存在感もありました。ただし、設定と合わないかも…。天魔王の得たいの知れない気持ち悪さとか卑怯者な部分の表現はお見事でしたが曲がりなりにも人が付いてくるキャラでなかったかな。天魔王は卑怯者で心根が狭くても人に夢をみさせるという能力には長けてるからこそ、髑髏城を作るまでになりえたと思うんですよね。未來くん天魔王はそれがない。自分だけで遊んでる。う~ん、捨や蘭に対する捻じ曲がった感情とかそこら辺も必要だと思うんだけど、眼中にない感じにみえました。殺陣は上手いですが完全に洋舞ですね。

蘭兵衛@早乙女太一くんは、ゆ~らゆ~らと物憂げ。どういう蘭兵衛でありたいのかがよくわからなかった。捨に対しても天魔王に対してもどう思ってるのかわからないし、殿への気持ちも見えずらい。無界屋に対しても。まあここは商人の部分の見せ場がなかったせいかも。それでも感情表現がまだ弱いかなあ。キャラに雰囲気があるのでそこでカヴァーしてる感じ。動きは相変わらず綺麗。太一くんの殺陣は剣舞。殺陣にも芝居(命のやりとりというところまで見せて欲しい)も入ると最強なんですけど。まだ若いのでここまで見せてこれたら十分かなと思いますが台詞はもっともっと磨いてほしい。

兵庫@勝地涼くんはちょこまかと良く動いていました。台詞の通りも良い。ただ関東荒武者隊のリーダーに見えない。たんなる仲間の一員ぽい。もっと暑苦しいくらいに一途なほうがよいのでは?とか。まあ、アカ&アオの兵庫が濃すぎたってことでしょうか。どうもインパクトがなかったかも。それゆえ男の矜持の部分がたってこなくて残念。あと兄さとの関係もなんかねもうひとつ足りない。もしかして兵庫の台詞、結構削られていましたかね?

極楽太夫@小池栄子さん、余計な気負いがなくて気風のいい女をさらりと演じていて良かったです。艶やかな存在感もありました。蘭兵衛との関係の部分でもう少し女の矜持がみえると良かったんだけど、そこは脚本がやはり弱かったかな。

沙霧@仲里依紗さんは声が潰れてましたね。そこを気にさせないほどの押し出しがなかったので狭霧としての存在感が弱かった。どことなく杏ちゃん踏襲な沙霧でしたけど、もう少し仲里依紗さんの個性がでてると良かったのかも。どういうタイプの女優さんか知らないのでなんとも言えないんですが。

贋鉄斎@高田聖子さん、一歩引いてたかな。脇というか裏に徹する感じで。さすがにしっかり聖子節で笑わせてきてくれるとこはあったけど、全体的に七人のなかの一員としては薄かった。今回は思いっきりサポート役だけな贋鉄斎だったので仕方ないんですがもったいない使い方だなあと思いました。

河野さんの三五と磯野さんのあにさは芝居の仕方は変わってないのにアカドクロでみせたインパクトがなかったかも。なぜなんだろう??