Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 1等1階センター上手寄り

2008年09月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階センター上手寄り

今月の歌舞伎座昼の部はなんだかとっても楽しい。

『竜馬がゆく 風雲篇』
今回はラストでじわ~っと涙が出てきちゃいました…。だってあそこで生き延びられた竜馬だけど、「生きとるっちゅうことは、ありがたいのう。生きとるちゅうことは、楽しいのう」と生きてることの嬉しさを語るだけに結局は道半ばで殺されちゃうんだよなってつい思ってしまって…。完結篇になるであろう第三部は絶対観たいけど暗殺シーンのこと考えるとなんだか切ない。

『竜馬がゆく』は幕見をしたので3回目ですがやはり後半にくると芝居の纏まりやメリハリが良くなりますね。特に海軍塾でのやりとりがすごく良くなっていたように思います。

竜馬@染五郎さんは飄々としているし熱いけど、やっぱりどこか孤独感を漂わせてるように見える。自身の考えを簡単に飛翔させることのできる柔軟で軽やかな心が彼の魅力だ。新しい世界を作る情熱を持ち、その時代に「日本人」という確固たるアイディンティティを勝ち得ようとする信念の人。だけどその信念をどう伝えればわかってもらえるのか いつも歯噛みしているようなところがある。あまりの激動の時代、価値観がまだ揺らぎきっていない血気に逸る仲間たちへ、これからの未来を作っていくうえでの価値観をただ自身で体現するしかない竜馬。それでも相手の懐に飛び込んでいき、なんとかしようと必死になる姿が印象的だ。少しづつ少しづつ、先へ向かっていく。染五郎さんはその竜馬にスコンと入り込んでいる。軽やかな情熱、そんなものが立ち上ってくる。また台詞も聞かせたいところをたっぷり言うようになって、より心情をストレートに伝えてきたなと思う。

中岡慎太郎@松緑さんがとても良くなっていた。一本気で熱い性格のなかに芯が通ったという感じ。また竜馬との信頼関係の部分で認め合って、お互いを必要としている、という部分がきちんとみえてきた。竜馬と中岡はこういう仲じゃないとね。お髭は薄めに書いていたけど中日頃の髭の形と微妙に違う…日替わり?

西郷吉之助@錦之助さんも大きさがかなり出てきていて、懐の深さが垣間見ることができた。外観、銅像に似せなくてもいいのになあ。

おりょう@亀治郎さん、変わり者具合が少々強くなってきてる気はするけど、やはり可愛くていい。こういうパキッとした現代風の女を演じられるのは亀ちゃんくらいなものだろう。芝居のメリハリがの部分が本当に上手い。

今回の『竜馬がゆく』、いちおう司馬遼太郎原作だけど、キャラクター造詣は竜馬に限らずそれぞれだいぶ違う。役者のニンの部分もあるけどあえて変えてる気がする。きちんと通しでみてみたいなあ。ぜひ最終章まで造りこんで、いつか一気に見せてください。まずは第三部も上演できますように!

そうそう、昨年の『竜馬がゆく立志編』で流れた時はシンセサイザー加工した録音音源を流していたのだけど、今回は生演奏だった主題曲、き乃はちさんの『宙へ』がいたく気に入ってしまいました。生演奏の力って大きいですよね。絶妙なタイミングで入るし、歌舞伎座の舞台にはやはり生音がしっくりきます。


『ひらかな盛衰記』「逆櫓」
この芝居をここまで面白くみせたのってすごいと思う。主役の吉衛門さんがいいというだけでなく脇の揃いぶりも見事だと思う。


樋口@吉右衛門さんがまずほんとに今ノッていて、しかもニンに合っているのが一番。世話と時代の切り替えも上手いし、なによりやはり台詞がいい。きっぱりした部分の大きさと情味のバランスが良い。

個人的に殊勲賞は源四郎@歌六さん。源四郎の心情を余すことなく伝えて本当に見事。 この源四郎がいて樋口@吉右衛門さんが際立った。

お筆@芝雀さんの造詣も見事だった。初日はちょっと物足りなかったのだけど、今回、お筆の立場での苦渋がしっかり伝わってきた。ノリ地の台詞がこのところ際立って良くなっていると思う。また全体の動きや姿もかなり綺麗になってきた。

およし@東蔵さん、出はちょっと老けてみえるのだけど演じていくうちにどんどん若い雰囲気になってくる。 漁師の女房のくだけ加減とか母としての立場とかとても明快。東蔵さんはなんでもこなす役者さんだけど女形さんのときのほうが好きだなあ。

漁師仲間の歌昇さん、錦之助さん、染五郎さんの三人組はやっぱり贅沢。でもおかげで場面の意味が明快になったのだからこのやりかたのほうが良いと思う。

でも染ちゃんは今回完璧に素だった…。初日はしっかり船頭さんだったと思うんだけど…。もう、おじさんの樋口をしっかり覚える気満々というか、樋口の動きをマネしそうになってない?台詞言いそうになってない?という場面多々。こらこら(^^;)


『日本振袖始』
楽しい、とにかく楽しい。よくぞここまで徹底して派手派手にしてくれました、玉三郎さん。

岩長姫&八岐大蛇@玉三郎さんは人外の役がほんとに似合う。酔っていくうちにどんどん怪しい雰囲気を纏っていく。そのなかにちょっとばかり男子な部分を見せてくれちゃうのも楽しいし。男と女の狭間の中性的な雰囲気がとても素敵だ。実は酔いの振り付けの部分はちょっと好みじゃないとこもあるんだけど、でもまあいいや。玉さまも楽しそうだし。後半の隈取した姿はほんとなんだか蛇みたい。口が顔の半分まで本当に裂けているかのよう。そのギャップも見事。

素盞鳴尊@染五郎さんはも綺麗だしかっこいい。染五郎さんの踊ってる姿はほんとひとつひとつの形が良くて、惚れ惚れしまう。初日にくらべ大きさもだいぶ出ていました。

八岐大蛇の尻尾軍団の立ち回りが非常にきれいに纏まっていて見応えありました。群舞って感じですね。