Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演「通し狂言 東海道四谷怪談」』 特別席前方センター

2015年12月19日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演「通し狂言 東海道四谷怪談」』 特別席前方センター

良かった、面白かった。6日に観た時より断然芝居が締まって密になっていました。今回はラスト、討ち入りで終らせるのもありかなと思いました。裏忠臣蔵としての光と影の陰影がハッキリした。

染五郎さんのお岩さまは崩れてなお美しかった。人としての矜持をボロボロにされ闇のなかに落とされ狂気に触れてなお女として、母としての悲哀を底辺に止めそこだけは崩れなかった。染五郎さんのお岩さまって品があって綺麗だけど存在自体は地味。真面目でちょっと生き方が不器用な長女体質というか親の言う事きちんときいて女は親や旦那に尽くすものと信じて生きてきたんだろうな~って。何か才能を持っているわけでもなくただひたすらに生きてきたであろう女の一人。だから哀しい。

染五郎さんの5役はそれぞれ役が進化していました。それと影響を受けてる人がふわっと滲み出ていた。今日は南北に勘三郎さんが少し見えた。口調とか含み笑いのとことか。あと由良之助には播磨屋のおじが。台詞廻しにそれがありました。次世代の鬼平いけるかも?とか(石投げないで~~)。与茂七は義士の部分がハッキリしつつどこか柔らかな色気があって素敵でした。やっぱり「地獄宿」が観たかったな。小平は小心ものながら粘着質な忠義ものとしてやっていることの不気味さを正義に転換してしまう独特な存在。

今日の戸板返しのお岩様と小平への早変わりが早すぎてビックリ。ここは昔のやり方から進歩させて身体全部での早変わりになってるのに昔の単純なやり方より早いのですよ。

そうそう、鶴屋南北作・河竹繁俊校訂版『東海道四谷怪談』を読んだ(再読)んですけど、今月の『東海道四谷怪談』は思った以上に手を入れていて序幕と大詰めを足しただけではなく中身もかなり脚色していました。削ったり増やしたり復活させたり。また視覚的なケレンの部分も場面を変えるわけではなくかなり手直し。『東海道忠臣蔵』のなかに『四谷怪談』を入れ込み表裏、光と影をみせ、たっぷり見せるところは見せながらスピーディに展開させ視覚的なケレンの部分を洗い直し、案内役(南北)も出してよりエンターテイメントとしても見せた。2回目の観劇でようやく気が付いたことが。小平宅内は原作でも南北が忠臣蔵のくすぐりというかパロディと入れている場だけど、今回はプラスアルファがあった。元々は六段目のパロディを入れ込んであるんですが今回は三段目も入っててより忠臣蔵を連想させるように作ってました。