Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落壽初春大歌舞伎 夜の部』  1等A席前方センター

2014年01月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落壽初春大歌舞伎 夜の部』 1等A席前方センター

『仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居』
今月は昼夜通してやはりこの演目が一番の面白さ。終始、緊迫した緻密な空間での見応えのある素晴らしい芝居でした。4日に拝見した時は後半の男の芝居のほうが際立った印象でしたが今回は前半の女の芝居もかなり濃密で見応えがありました。1階前方で拝見したのも良かったのかもしれませんが、役者それぞれの役者の息遣い、間合いの取り方、受けの芝居が見事でした。

戸無瀬@藤十郎さん、まず風情の美しさに目を奪われます。そして台詞の見事さといったら。声がやはり衰えてる部分がありますが台詞の一言一言に戸無瀬の心持ちが表現され、また芝居自体の流れを気持ちよいほどに決めていきます。さすがだなあと感心するばかり。

お石@魁春さんが戸無瀬@藤十郎さんの芝居に見事に受けて立つ。台詞の応酬が際立ちました。ここまで密な間合いで台詞をこなす魁春さんを拝見してしみじみ、一段役者の格をあげられたなあと思いました。きっぱりと受け、攻めしても冷たい女にならない。

小浪@扇雀さん、前回拝見した時よりこなれて小浪の可愛らしい心情がしっかり伝わってきました。

加古川本蔵@幸四郎さん、やはり素晴らしい出来。本蔵という役は幸四郎さんによく似合う。家老という立場で家のこと、そして人として家族のことを様々に考え考え抜きながら生きてきた人物像というのが伝わってきます。それゆえの苦渋、哀しさがありました。台詞もいつ以上に丁寧な運び。ほんと良かったです。

由良之助@吉右衛門さん、さりげなくドラマを際立たせる。存在感だけに頼らない巧さを今回感じました。そうはみせないけど芝居が緻密なんですね。本蔵と由良之助の人物像の表裏一体を見事に感じさせました。

力弥@梅玉さん、なんでこの役がこんなに似合ってしまうんだろうと思うほどしっくり。ほんに若いんですよ。若者らしい佇まいと気持ちの高ぶりが手に取るようにわかりました。芸というものはこういうものなんだなと。


『乗合船惠方萬歳』
お正月らしいにぎやかな舞踊。それぞれのキャラクターがより鮮明になって楽しかったです。孝太郎さんの踊り、好きです。あと児太郎くんがほんとよく頑張っていました。


『東慶寺花だより』
座組みのアンサンブルがよく芝居がとても密になり脚本の粗を感じさせない勢いのある楽しい舞台になっていました。とにか楽しく笑い、気持ちがどこかほんわかする芝居。細かい部分で演出が変わっていました。また役者さんたち自身も日々、変化してさせていったんだろうなと。役者さんたちが皆、気持ちよくキャラクターを体現して芝居をしているのが伝わってきました。なんだろう、楽しいというのが伝わってくるんですよね。そうすると観てる側も自然と楽しい気持ちになる。そういう役者と観客との繋がりを感じさせるものでした。

前回拝見したときはまだ役に入りきってないかな?と思っていた信次郎@染五郎さんが、愛されキャラの信次郎にうまく嵌って中心にいたのがこの芝居が成功した一因かと思います。狂言回し的役とはいえやはり主人公として中心にいないと物語がボケてしまいますから。軽妙に柔らかい空気感で芝居のトーンを決めていっていました。だから周囲の濃いキャラクターたちがなおのこと活きた。周囲の人物、役者たちに見事にもれががなく、それぞれが愛すべき人としてそこにいました。

そして、やはりお陸@秀太郎さんの強烈で可愛い女がほんとに際立っていました。かなりはっちゃけているのに品位が落ちない。なんて素敵なんだろう。

惣右衛門@翫雀さんも見事でした。この役をあくまでも明るくキュートに演じられるのはかなりの強み。

他の役者さんたちもますます良くなっていました。脚本の部分は少し手直しが必要かなという部分もありますが再演してほしいなあ。