Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落二月花形歌舞伎 昼の部』 3等B席前方下手寄り

2014年02月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落二月花形歌舞伎 昼の部』 3等B席前方下手寄り

『通し狂言 心謎解色糸』

   序 幕  深川八幡の場
        二軒茶屋松本の場
        雪の笹藪の場
   二幕目  本町糸屋横手の場
        同   奥座敷の場
        元の糸屋横手の場
   三幕目  大通寺墓所の場
   四幕目  深川相川町安野屋の場
        同 洲崎弁天橋袂の場
   大 詰  小石川本庄綱五郎浪宅の場
        同  伝通院門前の場

1810年に初演された四世鶴屋南北の世話物。41年前に国立劇場で復活上演されて以来、歌舞伎座では初めての上演とのこと。41年前は白鸚さんと梅幸さんが中心になって復活したとのことで、今回は孫の染五郎さんが中心になり、菊之助さんも出演という所縁のある役者の手で再度復活。かなり入り組んだ物語をわかりやすく整理して新作に近い形での上演になったそう。

あらすじだけ読むと3組の男女の話が並行して語られ絡んでいくため、複雑そうですんなり頭に入らない感じだったのですが、実際に拝見するととてもわかりやすく、それでいて南北らしい筋立てが面白く思った以上に楽しく拝見できました。むしろ整理しすぎててもう少し3組を絡めて、キャラクターを作りこんでもいいかもとか思ったり。まだ始まったばかりで若手ばかりの芝居ということもあり南北独特の猥雑な空気感は薄かったものの、こなれていけば空気も密になりもっと面白くなるんじゃないと期待させました。

そういう意味ではベテランの秀太郎さん、歌六さんが出る四幕目は空気が締り芝居が濃くなりますね。さすがというべきでしょう。

お祭左七/半時九郎兵衛@染五郎さん、お祭左七は鳶装束がよく似合い鯔背で男気があってカッコイイいいです。白鸚さんが前回凝って作られたという衣装が色合いといい柄といい古風さとモダンさがあってとても素敵なんですがそれがよく似合う。四幕目では短気ですぐカッとなってしまう性分で、というよりは好いたものに裏切られた絶望感が深く小糸を殺してしまうといった風情。これは染五郎さんらしいところ。この殺し場は小糸@菊之助さんとの息も合い、ひとつひとつの型が美しく舞踊のよう。また大詰めの立ち回りは『め組の喧嘩』を彷彿させる場面で迫力がありました。九郎兵衛のほうは小ずるい小悪党。左七と九郎兵の早替りはかなり早く鮮やか。人物造形としてはもっと小ずるい部分があってもいいかなと。ただ、人物としていわゆる戻りがあるので下卑た感じになるのも造形としては違うのでバランスを考えると難しいと言えば難しいかもしれません。

芸者小糸@菊之助さん、艶やかで華がある芸者風情で美しいです。売れっ子芸者になるのもむべなるかな。また酔いつつの気風のよさも素敵。心ならずも左七に縁切りする部分はもう少し揺れがあってもいいかなとは思いつつ、一途な可愛らしさがそこにあり、端正な菊之助さんらしい小糸。左七に殺される場ではやはり型の美しさが際立ちます。

本庄綱五郎@松緑さん、珍しい二枚目のお役ですが骨太さのなかにどこか男の弱さをのぞかせて、良かったです。生一本さがある役が似合いますね。かなり痩せられたようなので化粧を前と同じにせずもう少し工夫してもいいかも。わざわざ細面にみえるようにしなくても十分なのになと。

糸屋の娘お房/九郎兵衛女房お時@七之助さん、最初の出のお時はがとにかく溜息が漏れるほどに綺麗でした。そこからガラリと悪婆風情になるのが効いて活き活きとしていました。お房は純粋で一途な可愛らしいおぼこな娘。少し寂しげな風貌と相まって思い詰めたお房の儚い雰囲気もとても良かったです。お房とお時の早替りも。この二人は姉妹ではあるけど性格の違い、生活の違いがクッキリしているので、わかりやすい二役になっていました。

安野屋十兵衛@歌六さんが懐の深さをみせる。かっこいいです。

女房おらい@秀太郎さん、江戸風情があるというわけではないのですが、人物像に説得力がある。芝居をぐっと浮き立たせる力があるのですよね。特に左七@染五郎さんとのやりとりの息がぴったり。また場面転換で最後おらいが決まった時の姿のよさといったら。

丁稚與茂吉@玉太郎くんが達者。

山住五平太@松也くん、廻し男儀助@萬太郎くん、まだこういう役が似合う年齢ではないのですがよく頑張っていました。

芸者小せん@米吉くん、芸者お琴@廣松くんが可愛らしかったです。