晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ダンディ少佐」(65・米) 60点

2023-08-31 12:12:40 | 外国映画 1960~79
・ 難産だったS・ペキンパー大作初演出の西部劇。

 ハリー・ジュリアン・フィンク原作を詩情豊かなバイオレンスの巨匠といわれたサム・ペキンパーが共同脚本化・演出した大作デビュー作品。

 南北戦争最中の北軍ヘンリン砦。ヘンリー少佐が混成部隊を引き連れ、命令なしのアパッチ族チャリバ追討のためメキシコ国境へ向かう物語。

 ヘンリー少佐に扮したチャールトン・ヘストンと捕虜の南軍大尉タイリーン役のリチャード・ハリス競演が最大の見どころだ。

 序盤は軍服を身に纏った颯爽としたダンディが、部下だけでなく民兵や南軍捕虜など出仕や人種も様々な隊を強烈なリーダーシップで隊を率いていくさまが描かれる。
 ところが中盤メキシコ国境を越え逃げ込んだチャリバを追い、自由メキシコ軍と対立中の仏軍駐屯の村で滞在するあたりから空模様が怪しくなってくる。
 期間限定で副官として任務を全うしていたかつての親友でダンディに恨みを持つタイリーンが本来の軍人らしくみえてくる。
 村に滞在していた独軍女医テレサ(センタ・バーガー)に軍人として振る舞うタイリーンに対し、恋に溺れて行くダンディ。
 南軍兵士ハドリー(ウォーレン・ハーツ)脱走の対処で、助命を嘆願したタイリーンを却下したダンディは軍からも見放されて行く・・・。 

 ペキンパー演出は随所に見せ場はあるもののテンポがバラバラでストーリーも散漫。
 原因は予算オーバーでプロデューサーと衝突、編集権を剥奪され152分の作品を123分にされてしまったのが最大の要因とか。

 混成部隊リーダーの苦悩ぶりを描いたつもりが傲慢な人物描写に見えてしまい美味しいところはタイリーンに持って行かれてしまった。
 4年後の復帰作「ワイルド・バンチ」(69)で評判のスローモーションカットもなく、残酷なシーンも控えめ。

 ミッチー・ミラー合唱団の勇ましい歌声でスタートした本作。難産の末公開会されたが、リーダーの苦悩ぶりが狙い通り描ききれなかった感はいなめない。
 ジム・ハットン、ジェームズ・コバーン、マイケル・アンダーソン・Jr.ベン・ジョンソンなど脇を固めるお馴染みの俳優たちもそれぞれ頑張ってはいるが、最後までR・ハリスのダンディさ!?が際立って奮闘したC・ヘストンには気の毒な作品となてしまった。

 152分のディレクター・カット版を観れば違った印象があるのかもしれないが、残念ながらチャンスはなさそうだ。
 





「幸せへのまわり道」(19・米) 70点

2023-08-13 12:01:08 | 2016~(平成28~)
 ・ 脇に回ったT・ハンクスの独壇場。
 
 20世紀後半の世相を背景に、子供向け人気TV番組MCフレッド・ロジャースと彼を取材した雑誌記者との心温まる交流を描いたヒューマン・ドラマ。
 ロジャースに扮したトム・ハンクスが脇に回って主演のマシュー・リースを支え、オスカー助演男優賞にノミネートされた。監督は「ある女流作家の罪と罰」(18)のマリエル・ヘラー。

 日本ではあまり馴染みがないが、アメリカでは<セサミ・ストリート>と並んで有名な子供向け長寿TV番組<ミスター・ロジャースのご近所さんになろう>のMCフレッド・ロジャース。
 雑誌・エスクワイアの辛口記事で定評のある記者ロイド・ヴォーゲル(M・リース)が取材をすることに。
 気が進まないまま収録現場を訪れるが、逆に質問攻めに合いロイドが家族に問題を抱えていることを見抜かれてしまう。

 TV番組のオープニングで登場したロジャーは穏やかな口調で紳士的。どこから覧ても誠実な老紳士。
 聖人ぶった人物の本性を見抜いてやろうと切り込んだロイドに対し決して怒ることなく受け止め、ロイドの悩みを自分のことのように心配して何かと気配りをするロジャー。
 その人となりをどのように演じるのかがT・ハンクスの真骨頂で、その誠実な人柄は天性の優しさだけではなく、努力あっての様子が垣間見られる。
 実在人物を演じることには優れているトムだが、本人とはあまり似ていないし、おまけに少し胡散臭さも・・・。

 それでもコロナ渦で誰しも家族とか人生を顧みるこのタイミングで公開された本作は、多くの人に共感を呼んだに違いない。

 ロイドは疎遠だった父ジェリー(クリス・クーパー)との再会は<愛する人ほど許すのが難しい>というロジャーの言葉に胸を打たれる。さらに<自分が子供だったころを思い出せ>と言われ自分の家族とも向き合えることができた。

 筆者は<1分間の沈黙で相手の良いところを見つける><許すことは決断すること>というアンガー・マネジメントが大いに参考となった。

 「どうか、私とご近所さんになって下さい」という決まり文句で癒やされるアメリカ人が多かったことだろう。
 

 



「怪物」(23・日) 80点

2023-08-06 15:21:42 | 2016~(平成28~)
・ 「羅生門」の構成に似た是枝・坂元コンビによる人間ドラマ。

 是枝裕和監督5年ぶりの邦画は、TVドラマのヒットメーカー坂元祐二のオリジナル脚本によるカンヌ映画祭脚本賞受賞作品。
 川村元気プロデューサーが<45分3本立て企画>を監督に提案したのがキッカケで、6年前トークショーで意気投合したコンビにより映画化が実現した。
 
 タイトルといいタイトルバックでビルの火災シーンで始まるこのドラマは、とてもミステリアスなスタートをきる。
 一人息子・湊(黒川想矢)を溺愛するシングルマザー・早織(安藤サクラ)の日常はホームドラマそのもので、火災シーンは対岸の火事に見えた。
 ある日、湊が学校で怪我をしたわけを聴くと担任教師・保利(永山瑛太)に殴られたという。

 黒澤明監督の名画「羅生門」(50)に似た構成は、早織の視点で始まり、保利の視点へ移り、最後は湊の視点で事実が明らかになっていく。観客はそれぞれの立場で得た限られた情報による常識は本当に正しいのか?考えさせられる。

 早織は子育てに必死なあまり真相を見極めることなく、不誠実な学校の対応に怒りを露わにする。
 保利は生徒思いで暴力は誤解なのに丁寧な説明ができず、逆に湊が同級生・依里(柊木陽太)をイジメていると口走ってしまう。
 学校は早織をモンスター・ペアレントとして扱い無難に収めようとするあまりあらぬ方向へ・・・。
  湊はクラスからイジメに遭っている依里を庇ってあげられず、思わぬ言動に出てしまう。
 <豚の脳をもった人間>という言葉がトラウマとなった湊は、似たような環境の依里とはウマが合い、ふたりの秘密基地・廃屋の電車で本当の心を確認し合う。
 今更ながら人間は人の噂やメディアやSNSの情報、本人から聴いた言葉から拙速に誤った判断をしがちであることを知らされる。
 伏見校長(田中裕子)がウソをついたと告白した湊にトロンボーンの音で気持ちを吐き出たせ<誰かでないとつかめないものではなく、誰にでもつかめるものが幸せだ>と話しかけるシーンがこの作品のハイライト。

 カンヌではクィア・パルム賞を受賞していてネタバレもしくは偏見をキライ事前PRされていないが、ここかしこに潜在しているシーンから賞の対象になったのも頷ける。
 筆者の少年時代は学校から<らしく生きよう>と教わってきた。組み体操で保利先生がいった<男らしく>はその典型である。
 早織が湊に<結婚して子供をもうけ、普通に生きる>ことを願うことと同様に、現代では<無意識な加害者>となる言葉なのだ。
 筆者自身、日常茶飯事で<無意識な加害者>になっていたことは数限りなくあり、時代とともに価値観の違いを改めて思い知らされる。

 <追記>
 ・坂本龍一の音楽が遺作となってしまった。まだ彼がYMO結成間もないころお願いしたCM音楽を思い出す。合掌。
 ・是枝監督の無名時代を知るひとりとして、大監督になった今も密かに応援している。