・ ネイティヴ問題をテーマにしたヒーロー不在の西部劇。
1909年に起きた事件をもとにハリー・ロートンが書き下ろした小説を「刑事マディガン」(67)の脚本家エイブラハム・ポロンスキーが監督している。
主演ロバート・レッドフォードでキャサリン・ロス共演しかもコンラッド・L・ホールの撮影といえば同年の名作「明日に向かって撃て!」を連想するが、原題は「Tell Them Wille Boy Is Here」。
ウィリー・ボーイとはロバート・ブレイク扮する先住民の名で、アメリカの恥部ともいわれるネイティヴ問題がテーマである。
ネイティヴ・パイユトト族のウィリー(R・ブレイク)は故郷の娘ローラ(K・ロス)との結婚を反対され、誤ってその父親を殺し逃避行する。クーパー保安官補(R・レッドフォード)率いる捜索隊が結成され追跡が開始される。
20世紀初頭<最後のマンハント>と呼ばれるこの物語は、カリフォルニア州パーム・キャニオンからルービー・マウンティンまで500マイルの大自然で繰り広げられる。
主演のクーパー保安官補は、法の番人として正義を全うするというより上昇志向がありながら閑職に甘んじている自分に劣等感を抱いている。保護観察官で女医のエリザベス(スーザン・クラーク)との関係もギクシャクしていて等身大の人物描写が窺える。
レッドフォードの演技はネイティヴの扱いに対する後悔の念が滲み出ていた。
対するウィリーは白人社会からは疎まれ、先住民からは裏切り者扱いされローラだけが信じられる存在。大自然の中、走り続けるふたりの行く末が拓ける可能性は極めて少ない。
A・ポロンスキーは、50年代元共産党員だったことで赤狩りの対象となり追放されたひと。本作が本格的復帰作でもあった。
そのため起きた事実を淡々と客観的に描くことで我が身をウィリーに重ね、不条理な出来事への怒りと鬱積をこの映画に込めていて、事実上の主役はR・ブレイクだった。
R・ブレイクは「冷血」(67)の殺人犯人役が印象深い。のちに私生活で妻殺害容疑で逮捕歴があり、証拠不十分で無罪となっている。役柄がいつも殺人犯の印象がついて回る俳優である。
K・ロスは愛する男に一途について行く薄幸の娘役で、顔をクロ塗りしていて最初は判らなかった。出演したのは当時結婚していた撮影監督コンラッド・L・ホールが要因か?
S・クラークは「刑事マディガン」「マンハッタン無宿」(69)などこの時期がピークの女優だった。
<追う者の正義>と<追われる者の誤りの正義への怒り>が絡み合ってチョッピリ不完全燃焼気味な終焉を迎える。
アメリカン・ニューシネマの影響を多分に受けた作風で見どころは多いが、ヒーロー不在の西部劇という印象が強く残ってしまったのは残念!