晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「夕陽に向かって走れ」(69・米)70点

2023-03-29 14:40:03 | 外国映画 1960~79


 ・ ネイティヴ問題をテーマにしたヒーロー不在の西部劇。


 1909年に起きた事件をもとにハリー・ロートンが書き下ろした小説を「刑事マディガン」(67)の脚本家エイブラハム・ポロンスキーが監督している。
 主演ロバート・レッドフォードでキャサリン・ロス共演しかもコンラッド・L・ホールの撮影といえば同年の名作「明日に向かって撃て!」を連想するが、原題は「Tell Them Wille Boy Is Here」。
 ウィリー・ボーイとはロバート・ブレイク扮する先住民の名で、アメリカの恥部ともいわれるネイティヴ問題がテーマである。

 ネイティヴ・パイユトト族のウィリー(R・ブレイク)は故郷の娘ローラ(K・ロス)との結婚を反対され、誤ってその父親を殺し逃避行する。クーパー保安官補(R・レッドフォード)率いる捜索隊が結成され追跡が開始される。
 20世紀初頭<最後のマンハント>と呼ばれるこの物語は、カリフォルニア州パーム・キャニオンからルービー・マウンティンまで500マイルの大自然で繰り広げられる。

 主演のクーパー保安官補は、法の番人として正義を全うするというより上昇志向がありながら閑職に甘んじている自分に劣等感を抱いている。保護観察官で女医のエリザベス(スーザン・クラーク)との関係もギクシャクしていて等身大の人物描写が窺える。
 レッドフォードの演技はネイティヴの扱いに対する後悔の念が滲み出ていた。

 対するウィリーは白人社会からは疎まれ、先住民からは裏切り者扱いされローラだけが信じられる存在。大自然の中、走り続けるふたりの行く末が拓ける可能性は極めて少ない。

 A・ポロンスキーは、50年代元共産党員だったことで赤狩りの対象となり追放されたひと。本作が本格的復帰作でもあった。
 そのため起きた事実を淡々と客観的に描くことで我が身をウィリーに重ね、不条理な出来事への怒りと鬱積をこの映画に込めていて、事実上の主役はR・ブレイクだった。
 R・ブレイクは「冷血」(67)の殺人犯人役が印象深い。のちに私生活で妻殺害容疑で逮捕歴があり、証拠不十分で無罪となっている。役柄がいつも殺人犯の印象がついて回る俳優である。
 
 K・ロスは愛する男に一途について行く薄幸の娘役で、顔をクロ塗りしていて最初は判らなかった。出演したのは当時結婚していた撮影監督コンラッド・L・ホールが要因か?
 S・クラークは「刑事マディガン」「マンハッタン無宿」(69)などこの時期がピークの女優だった。

 <追う者の正義>と<追われる者の誤りの正義への怒り>が絡み合ってチョッピリ不完全燃焼気味な終焉を迎える。
 アメリカン・ニューシネマの影響を多分に受けた作風で見どころは多いが、ヒーロー不在の西部劇という印象が強く残ってしまったのは残念!

 

 
 

 
 

「鳥」(63・米)80点

2023-03-23 17:20:54 | (米国) 1980~99 


  ・ 衝撃だったヒッチの動物パニック映画の名作。

 ダフニ・デュ・モーリエの短編をアルフレッド・ヒッチコックが大ヒットした「サイコ」(60)の次回作として映画化を企画。
 エヴァン・ハンター(別名「87分署シリーズ」のエド・マクヴェイン)がヒッチのアイデアをもとにシナリオを書いた<突如、鳥の大群に襲われる人々の恐怖を描いたパニック映画>。

 サンフランシスコのバード・ショップでツガイを探していた男に興味を持った新聞社令嬢・メラニーが、ラブバード(オカメ・インコ)を手にボデガ・ベイにやってくる途中、一羽のカモメにヒタイを突っつかれたのがキッカケ。

 メラニーを演じたのはオーディションから選ばれたティッピ・ヘドレン。ボデガ・ベイに住む弁護士ミッチにはロッド・テーラー。グレース・ケリーとケーリー・グラントのロマンティック・コメディのようなスタートからダンダン雲行きがおかしくなってくる。

 ミッチは母(ジェシカ・ダンディ)と年の離れた11歳の妹キャシー(ヴェロニカ・カートライト)の3人暮らし。家族構成もチョッピリ謎めいている。

 心の奥に秘めた人間の心情を掘り下げることに長けたヒッチらしく、ドラマは息子に執着する母親像が垣間見えミッチのメラニーへの接近を快く思っていない。あたかも「サイコ」の続編のような屈折した家族愛が伏線となっている。

 人間に危害を与えることがないはずのカモメやスズメも大量に現れると恐怖の対象となっている。ましてカラスの大群が子供たちを襲うシーンなど一歩間違えると描きようによっては喜劇になりかねない。

 ヒッチは徐々に恐怖感を持たせるために様々なテクニックを用いて何故鳥が人間を襲うのかは謎のままドンドン観客を引き込んで行く。
 恐怖感を持たせるために突然大きな音を出すのではなく電子音による音響のみで鳥の鳴く声を再生し、映像も俯瞰のカメラやカットを重ねこだわりのカメラワークがフンダンに出てくる。なんでもCGで処理する今とは違って60年前は誰もやったことがないシーンをどうやって撮影したのか?スピルバーグが見学にきたのを閉め出したエピソードが物語っている。

 G・ケリーに去られ失意のヒッチが起用したT・ヘドレンはモデル出身の金髪の美女でこれがデビュー作。お気に入りで次回「マーニー」(64)でも起用したが2作のみで終止符。原因はセクハラで晩年(2016年)ティッピの自伝で告白されている。

 美女イジメ?で恐怖感を煽るシーンは電話ボックスに逃げたヒロインがカモメに襲われたり、ミッチの元恋人小学校教師アニー役のスザンヌ・プレシェットが殺されたり事欠かない。

 ネガティブな裏話はあるものの、鳥が突然人間を襲うという原因不明の恐怖感はどこか新型コロナを連想させ、エンディングまで煙に巻いたヒッチの才能とともに名画としての輝きは失われていない。


「砦のガンベルト」(67・米)70点

2023-03-10 17:05:16 | 外国映画 1960~79


 ・ 勧善懲悪のマカロニ全盛期に作られた米国製西部劇。


 流れ者ガンマンのチェカが、クレンデノン砦で出逢った昔の恋人を守るため先住民からの奇襲に巻き込まれる経緯を描いた西部劇。原題は「CHUKA」。
 ヒッチコック作品「鳥」(63)で弁護士役を演じたロッド・テーラーがリチャード・ジェサップの小説を製作、主演のチェカに扮している。
 共演は先住民・アラパホ族から砦を守る指揮官バロア大佐にイギリスの名優ジョン・ミルズ、大佐に心酔している鬼軍曹ハーンズバックに「マーティ」(55)のオスカー俳優アーネスト・ボーグナイン、偵察員トレントにジェームズ・ホイットモアという個性豊かな芸達者を揃え、チェカのかつての恋人ベロニカ夫人に元ボンドガールで美形のルティアナ・パルッツイという豪華な布陣で申し分ない。

 当時西部劇はイタリア製に席巻され本場ハリウッドでは西部劇は過去のものとされていた時期。名作「駅馬車」のリメイク(65)を手掛けたゴードン・ダグラス監督を起用し、勧善懲悪ものではない人間の心の奥に秘めた過去のしがらみを表現しようと挑んだもの。

 全滅した砦に残された一つの墓に掛けられたガンベルトが騎兵隊のものではなく民間人のものだった謎を解くスタイルで進行するドラマは原作者R・ジェサップ自身のシナリオによるものだが如何せん派手さがない。
 過去に隊を全滅したトラウマを抱える大佐と信望する軍曹との絆も会話だけで判明するし、ベロニカとの恋も想定内。
 食料不足で砦を奇襲した先住民の正当性など映画ならではの手法が欲しかった。

 おまけに主演したR・テーラーに流れ者ガンマンに不可欠な孤高の魅力が感じられずC・イーストウッドなら成立したかもと思わずにはいられない。
 いろいろ消化不良な点もあったが果敢に西部劇に挑んだR・テーラーには敬意を表したい。