晴れ、ときどき映画三昧

「心の旅路」(42・米)80点



 ・ M・ルロイ監督による元祖・後遺症ものメロ・ドラマ。


 第一次大戦による後遺症で記憶を失った男と健気な踊り子とのすれ違いメロ・ドラマ。ジェームズ・ヒルトンの原作をマーロン・ルロイ監督で映画化。ロナルド・コールマン、グリア・ガーソンの美男美女による共演で、オスカー7部門にノミネートされたが無冠に終わった。

 陸軍大尉のチャールズ・レイニア(R・コールマン)はフランス戦線の後遺症で記憶を亡くしメルペリーの陸軍精神病院に入院していた。霧の深い夜病院を抜け出したチャールズは、町のたばこ屋で親切な踊り子のポーラ(G・ガースン)に助けられる・・・。
 チャ-ルズはジョン・スミス(愛称スミシー)と命名され、ふたりはリバプール郊外の家で貧しいながら幸せな暮らしをしていた。息子も生まれ漸く新聞社で採用が決まった矢先車にハネられ頭を打った衝撃で記憶が回復するが、自分が何故見知らぬ土地にいるのか?分からなかった。

 M・ルロイ監督は「哀愁」(40)の甘く切ない叙情豊かなメロ・ドラマで有名。のちに「若草物語」(49)を手掛けるなど、名作を手堅く映像化することには定評がある。
 英国人監督と殆どが英国人俳優によるこのアメリカ映画は、記憶喪失とすれ違いをモチーフにメロドラマのお手本となっていて、我が国戦後最大ヒット作「君の名は」にもその影響を及ぼしている。

 R・コールマンは口髭で有名な英国人の2枚目俳優で、このとき51才。本作でオスカーは逃したが、五年後「二重生活」で見事獲得。本作でもただの二枚目ではなく、どことなく不安なスミシーの前半と名家レイニア家の御曹司で実業家から政治家へ転身していく後半では別人のようだ。

 ヒロインG・ガーソンは、この年「ミニヴァー夫人」でオスカー獲得の38才。なんと前年から5年連続オスカーノミネートという名女優だ。ルロイ監督作品には「庭に咲く花」(41)、「キュリー夫人」(43)と3年連続出演してともに代表作となっている。
 本作では気の良い踊り子から健気な新妻、そして有能な秘書と変遷しながらも直向きな女性に扮し、当時のアメリカでは希有な存在の<耐える女性>を演じている。夫を支える銃後の妻的役柄は第二次大戦中の影響もあったかもしれない。

 冷静に観れば、記憶快復後ポーラとの3年間を記憶喪失していて秘書として現れたポーラに気づかないことや、姪キティ(スーザン・ピータース)の身のひきかたなどご都合主義的なことも多々あるが、脚本の巧みさと手堅い演出がそのスキを与えない。

 桜の花が咲く一軒家でのエンディングは観客の涙を誘い、これぞメロドラマの真骨頂であることを世に知らしめた。
 
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