白痴(’51)
1951年/日本
エネルギッシュな黒澤明の翻訳ドラマ
総合 80点
ストーリー 75点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 80点
ロシアの文豪・ドフトエスキー原作の長編を黒澤明が翻案した2時間46分の意欲作。
復員船で知り合った亀田(森雅之)と赤間(三船敏郎)は札幌の写真館である女性の写真に見とれる。亀田は戦争体験で処刑されそうになったショックで自称「白痴」という病気持ちだった。
冬の北海道を舞台に囲われ者の那須妙子(原節子)を巡っての純粋無垢な亀田と猛獣のような赤間の奇妙な3角関係。亀田が好きなのに感受性が強く素直になれない大野綾子(久我美子)が絡むトライアングル。人間の愛と欲の奥に潜む深層心理をエネルギッシュに鋭く抉って見せる。
黒澤明の松竹第2作の長編文芸大作は不幸なことに4時間25分を半分近くに編集した曰く付きの作品として有名。そのせいか2部構成の前半に2回長文のクレジットが入りハナシが繋がる。完璧主義の黒澤にとって許しがたいカットだったと思うが、唐突感はあっても作品の出来に大影響したともいえない。戦後の復興期という時代がこの作品を受け入れる余裕がなかったといえる。
主要の4人がこの翻訳ドラマに相応しくバタ臭くてハイテンションである。従来のイメージとは違う役柄の森雅之と原節子を観る貴重な楽しみもある。それにしても当時31歳の原節子は神秘的で大人の美しさを兼ね備えた大女優である。