晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『白痴(’51)』 80点

2009-02-28 16:36:11 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

白痴(’51)

1951年/日本

エネルギッシュな黒澤明の翻訳ドラマ

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ロシアの文豪・ドフトエスキー原作の長編を黒澤明が翻案した2時間46分の意欲作。
復員船で知り合った亀田(森雅之)と赤間(三船敏郎)は札幌の写真館である女性の写真に見とれる。亀田は戦争体験で処刑されそうになったショックで自称「白痴」という病気持ちだった。
冬の北海道を舞台に囲われ者の那須妙子(原節子)を巡っての純粋無垢な亀田と猛獣のような赤間の奇妙な3角関係。亀田が好きなのに感受性が強く素直になれない大野綾子(久我美子)が絡むトライアングル。人間の愛と欲の奥に潜む深層心理をエネルギッシュに鋭く抉って見せる。
黒澤明の松竹第2作の長編文芸大作は不幸なことに4時間25分を半分近くに編集した曰く付きの作品として有名。そのせいか2部構成の前半に2回長文のクレジットが入りハナシが繋がる。完璧主義の黒澤にとって許しがたいカットだったと思うが、唐突感はあっても作品の出来に大影響したともいえない。戦後の復興期という時代がこの作品を受け入れる余裕がなかったといえる。
主要の4人がこの翻訳ドラマに相応しくバタ臭くてハイテンションである。従来のイメージとは違う役柄の森雅之と原節子を観る貴重な楽しみもある。それにしても当時31歳の原節子は神秘的で大人の美しさを兼ね備えた大女優である。


『チェンジリング』 85点

2009-02-27 17:32:49 | (米国) 2000~09 

チェンジリング

2008年/アメリカ

冷静な描写・優しい眼差しで健在振りを示したC・イーストウッド

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆85点

’28LAで起きた史実をもとにしたC・イーストウッド監督、アンジョリーナ・ジョリー主演による2時間22分のサスペンス風人間ドラマ。
電話局で働くシングル・マザーのクリスティン(A・ジョリー)は息子・ウォルターの成長が生き甲斐。チャップリンの映画を観ると約束した日に急遽出勤するハメになり、戻るとどこにもいない。ロス市警に電話するが、子供の行方不明は24時間以内は捜索しないと断られてしまう。
タイトルの「チェンジリング」は子供の取替えを指す。5ヶ月後に警察が探し出したウォルター少年は7センチも背が低く、母親の直感は間違いないのに、ロス市警が自らの腐敗振りを挽回するために用意した替え玉だった。
物語は息子探しに奔走するヒロインを追いかける構成で進行するが、警察の無軌道な手口は憤満やるかたない。
当初プロデューサーはロン・ハワード監督を予定していたらしいが、イーストウッドファンとしては嬉しい限り。日本では喜寿と呼ばれるトシにも拘らず手抜きのない、丁寧で冷静な描写と優しい眼差しで健在振りを示してくれた。80年前の街並みの再現も凝り性の監督らしく隅々まで配慮されていて楽しめた。
A・ジョリーは実生活で4人の子持ちであることと母親を亡くした心労からやつれ果てていて、この役が心身ともに余人に替えがたい適役となった。
中盤から息子を可愛がる普通の母親から、社会の権力を押し退けて事実を知ろうとする芯の強い女へと変貌するさまを、見事に演じている。アカデミー賞の主演女優賞は逃したものの熱演振りはそれに相応しい。
脇役も地味ながら粒揃い。悪役として観客を敵に廻したジョーンズ警部(ジェフリー・ドノバシ)長老派協会のブリーグレブ牧師(ジョン・マルコビッチ)、犯罪を的確に判断したヤバラ刑事(マイケル・ケリー)も実在感溢れる描き方。脚本がジャーナリストだったJ・マイケル・ストラジンスキーだったのも影響しているのだろう。「失うものは何もない」といったクリスティンがひとすじの希望を見出すのを複雑な想いで観た。


『怒りの葡萄』 85点

2009-02-24 17:04:13 | 外国映画 1945以前 

怒りの葡萄

1939年/アメリカ

家族の絆こそ何よりも強く、逞しい

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆85点

ノーベル賞作家の文豪、ジョン・スタインベックの原作を、巨匠ジョン・フォード監督・ナナリー・ジョンソン脚本で映画化。米アカデミー監督賞・助演女優賞受賞作品。
'30年代のオクラホマは、農業の機械化による大規模化と砂嵐のため土地を失った小作農家たちが多くいた。主人公のトム・ジョード(ヘンリー・フォンダ)は殺人容疑で仮釈放された身だったがママ(ジェーン・ダーウィル)たちは温かく迎えてくれる。一家は説教師ケーシー(ジョン・キャラダイン)を連れて仕事を求め、<乳と蜜の天地カリフォルニア>へ。波乱万丈のロード・ムービーとなってゆく。
聖書を引用し、政治色の強い「社会主義小説」といわれた原作を、家族の絆をメインに手堅く纏め、ドキュメンタリー風に仕上げたスタッフに敬意を表したい。なかでもグレッグ・トーランドの撮影が素晴らしい。中西部の砂埃りと雄大な景色を背景にオンボロ・トラックを走る風景はまるで幌馬車のよう。
H・フォンダは念願だった静かな正義感溢れる男・トムの役を得て彼の代表作のひとつと言われる役となった。助演女優賞を得たママ役のジェーン・ダーウェルの存在はこの映画の要となった。家族の絆の強さと僅かな希望は彼女の逞しさによるものとなってエピローグへ。これは製作のダリル・F・ザナックがJ・フォードに無断で付け加えたらしい。どうりでラスト・シーンが2つあるように感じた訳だ。


『醜聞(スキャンダル)』 80点

2009-02-23 17:19:35 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

醜聞(スキャンダル)

1950年/日本

日本初の法廷ドラマ

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

黒澤明が電車の中吊り広告を見て思いついた企画で、日本初の法廷ドラマ。名作「羅生門」と同じ年に公開されたので話題性・評価とも今ひとつだったが、60年後もパパラッチや憶測記事が絶えない今日、テーマの先見性に黒澤監督の才気を感じた。
青年画家・青山(三船敏郎)と人気声楽家・西條美也子(山口淑子)が三文雑誌のカメラマンに遇然撮られた盗み撮りで「恋はオートバイに乗って!」というスキャンダル記事にでっちあげられてしまう。
2人のヌレギヌを晴らす「社会派ドラマ」だと思ったが、冴えない3流弁護士・蛭田(志村喬)の登場で趣きが変ってくる。蛭田には病床の一人娘・正子(桂木洋子)がいて星のような存在。黒澤・本人が「甘かった」と述懐するほど<正義が、弱い人間を救う>勧善懲悪風展開となってゆく。
それでも人間を描く視点は鋭く、志村喬がその象徴的存在。気の弱い・良い人が罪作りであることをイヤと言うほど見せつけ、2年後の名作「生きる」を彷彿させる名演技。
三船敏郎は、正義を貫く青年画家という爽やかな役柄を衒いもなく好演している。黒澤自身を投影しているようだ。松竹作品なので山口淑子との共演は新鮮に感じたが、お姫様役で本人には見せ場がなく気の毒だった。
印象に残るシーンはクリスマスの夜、バーで出会った酔っ払い(左ト全)のシーン。みんなで唄う「蛍の光り」は、当時の社会情勢をしっかり映し出して、黒澤作品の本領発揮。そういえば、「生きる」にもこんなシーンがあった。


『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』 85点

2009-02-22 18:00:48 | (米国) 2000~09 






ベンジャミン・バトン 数奇な人生


2008年/アメリカ







人生の喜びを改めて考えさせてくれる





『欲望という名の電車』 80点

2009-02-21 15:01:28 | 外国映画 1946~59

欲望という名の電車

1951年/アメリカ

観るたびに辛く痛々しい。

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

テネシー・ウィリアムズの名戯曲を映画化。エリア・カザン監督の「メソッド手法による演出」で話題を呼び、米アカデミー賞・主演女優賞を始めとして4部門を獲得している。
米・南部の名家に育ったブランチ(ビビアン・リー)が故郷を追われ、ニューオリンズ・フランス街の妹夫婦を頼って訪れる。そこはデザイアー・ストリート(「欲望」通り)の路面電車に乗って「墓場」という停留所で降り、「極楽」という場所にある。如何にもこの物語の<盛りを過ぎたヒロインの行く末>が暗示されていて、見るたびに辛く痛々しいストーリー。
E・カザンは4年前にブロードウェイで舞台化したキャスティングをもとに、ブランチ役をロンドンの舞台で演じたV・リー主演で映画化。2人は当初その演出と役作りで衝突もあったらしいが、その後和解し後世に残る名作となった。
南部・名家の女性といえば、「風と共に去りぬ」がV・リーの代表作のひとつだが、その後を連想させてしまうにはあまりにも哀れで残酷なハナシである。若さ・財産そして愛情を失った女性に残されたのは、華やかだった過去を脳裏に浮かべ生きてゆくしかないのだろう。
本題とは離れるが、演技派と呼ばれる女優ならやってみたい役のようで日本では杉村春子が代表的存在で、岸田今日子・栗原小巻・浅丘ルリ子・樋口可南子・大竹しのぶなどが演じている。
そしてマーロン・ブランドのデビュー作としても有名だ。ポーランド系の退役兵で、酒とカードに明け暮れる工場労働者。妻を愛しながら気が短く暴力が絶えない。太い二の腕とTシャツの強烈な印象を残し、その後、しばらく彼のイメージ脱却に苦労するほどのはまり役となった。皮肉にも主要な役4人のうち彼だけがアカデミー賞を受賞していない。
スペイン映画<オール・アバウト・マイ・マザー>でも引用された名画は今見ても色褪せていない。


『女相続人』 85点

2009-02-18 10:59:30 | 外国映画 1946~59

女相続人

1949年/アメリカ

戯曲を見事に映像化した心理劇

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

ルース、オーガスタス・ゲーツのブロードウェイ戯曲を、名匠・ウィリアム・ワイラーが製作・監督したサスペンス風心理劇。アカデミー賞主演女優賞など5部門受賞作品。
内気で不器用なキャサリン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)は刺繍が唯一の趣味で、父オースチン(ラルフ・リチャードソン)は婚期を逃しそうな娘を気にしている。同居しているラヴィニア(ミリアム・ホプキンス)は心配して、従姉妹のマリアン(モナ・フリーマン)の婚約パーティで男性との惹きあわせにアレコレ如才がない。そこで出逢ったモーリス(モンゴリー・クリフト)と恋に落ちる。
前半はキャサリンとモーリスのラヴ・ストーリーで進行し、父親を如何に説得するかが興味の的。ところが父親が亡き妻と比較してできの悪い娘を、定職を持たないハンサムなモーリスが一目惚れするのは財産目当てではないかと不信感を持つ。この辺りから、サスペンス・タッチへ移行して眼が離せなくなる。ハイライトは駆け落ちを決めたキャサリンの一挙手一投足。まさに恋に無我夢中なキャサリンの心情が見事に描かれている。
後半のキャサリンのぞっとするような豹変振りはまさに圧巻。衣装も前半が地味で後半が派手。モノクロなのにまるでカラーを観る想い。
後にプレスリーのヒット曲「好きにならずにはいられない」として有名なアーロン・コープランドのBGMも、この格調高い心理劇を盛り上げるにはぴったり。W・ワイラーの多才振りを再確認した思いの作品だ。


『ロルナの祈り』 85点

2009-02-14 12:27:24 | (欧州・アジア他) 2000~09

ロルナの祈り

2008年/ベルギー=フランス=イタリア

一皮むけたダルデンヌ兄弟

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

社会の底辺にいる少年・少女や若者を描いて「ロゼッタ」「ある子供」でカンヌ・パルムドールを2度受賞しているベルギーのジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟。今回は移民問題をテーマに<女性の愛と命>を掘り下げた人間ドラマを作り、カンヌの脚本賞を受賞している。
東欧(アルベニア)からベルギー国籍取得のため偽装結婚しているロルナ(アルタ・ドブロシ)。相手は麻薬中毒患者のクローディ(ジェレミー・レニエ)で社会から見放されている。ロルナにはイタリア人でドイツに出稼ぎ中の恋人ソコル(アルバン・ウカイ)がいて、国籍取得後はバーを開く目標が間近で希望に満ちている。この3人の恋愛ドラマとして進行してゆくが、中盤から大胆な省略があって様相が一変する。このあたりがダルデンヌ作品の真骨頂で、ロルナの人間性がだんだんと明確になり、切々と訴えるものがある。
少年のようなナイーブなクローディと、偽装結婚を裏の仕事としながらブローカー・ファビオ(ファブリツィオ・ロンジョーネ)とも対等に渡り合うしっかり者のロルナとは正反対の性格。
BGMや説明的な映像を一切使わず、若者達の閉塞感を描く独特のタッチは健在だ。得意のハンディ・カメラを35ミリに変えて、一歩引いた人物描写の映像は一皮むけた印象。
15キロ減量したジェレミー・レニエ、脇役ながらいつも存在感溢れるファブリツィオ・ロンジョーネ、ワンシーンながら捜査官役のオリヴィエ・グルメと手下役のモルガン・マリンヌなどダルデンヌ作品の常連達が勢揃いしている。何よりヒロイン・ロルナのアルタ・ドブロシの人間性に目覚めた心情を見事に演じ切った体当たり演技が精彩を放っている。
希望に満ちた寓話的なエンディングとなる。観ようによっては悲劇的な結末とも取れてしまうところが論議の的だが決して後味は悪くない。初めて音楽を使用したベートーベンの「ピアノ・ソナタ32番アリエッタ」がいつまでも残って耳元を離れない。


『グッドフェローズ』 80点

2009-02-10 14:23:19 | (米国) 1980~99 

グッドフェローズ

1990年/アメリカ

テンポ良く描かれた70年代マフィアの実態

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

ニコラス・ビレッジのノンフィクション「ワイズガイ」をもとにマーティン・スコセッシ監督が70年代マフィアの実態をテンポ良く描いている。
ブルックリンの貧しい少年ヘンリーは大統領よりマフィアに憧れ、地元を仕切るポール(ポール・ソルビノ)の手下となる。やがて刑務所暮らしを経験し、ファミリーの一員として認められる。羽振りも良くなった21歳のヘンリー(レイ・リオッタ)は、カレン(ロレイン・ブロッコ)と結婚。何をするにも何処へでもファミリーと一緒に行動を共にすることに。大金を手に入れた華々しい生活も決して生活の自由さはなく、絶えず命と引き換えの落ち着かないストレスの溜まる日々。
イタリアン・ファミリーをストイックに描いたF・コッポラの「ゴッドファーザー」とは両極にあるマフィア映画で、スコセッシは彼らの日常を決して美化せず表現している。ヘンリーと同じアイリッシュの兄貴分・ジミー(ロバート・デ・ニーロ)は、窃盗専門で猜疑心が強い。陽気で向っ気が強いチンピラ・トニー(ジョー・ペシ)は、見境なく衝動的に人を殺してしまうなど赤裸々な人間像も見せている。
この映画に欠かせないのは、イタリア料理とヒットナンバー。何しろ刑務所でもワインつきのニンニク料理を優雅に食べ、警察にマークされながらトマトソースが焦げないよう気を使ったりする。音楽好きにはマイ・ウェイのスタンダードから人気ロック・ナンバーまで色トリドリ。
デ・ニーロ ファンとしては物足りなく、スコセッシ作品としては平均的な出来であるが、マフィアを決して美化しない切り口は貫いていて、好感が持てた。


『チェ 39歳 別れの手紙』 80点

2009-02-07 13:37:23 | (欧州・アジア他) 2000~09

チェ 39歳 別れの手紙

2008年/スペイン=フランス=アメリカ

愚直なまでに理想を貫いた男を丁寧に描いた

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

スチーブン・ソダーバーグ監督の「チェ・ゲバラ」のパート2は、ボリビアでゲリラ活動して失敗、処刑されるまでの人間ゲバラを描いている。
’65.10月、TVにカストロの演説が写り「異国の地で死のうとも私の心はキューバにある」という<別れの手紙>が冒頭披露される。そして’66.11月ゲバラは変装して家族との食事を済ませ、ボリビアに密入国する。このあたりはサスペンスタッチで期待充分。
しかし、そのあとはパート1よりさらに起伏がなく、彼の日記をもとに忠実に追ったジャングルや村をさまよう彼の苦悩振りが画面の大半を占める。原題は「ゲリラ兵」であるのも頷ける。
ソ連批判していたためボリビア共産党の支援を絶たれ、キューバに懲りたアメリカのボリビア独裁政権バックアップに大苦戦したゲバラ。何よりの誤算は、貧しいながら平穏に暮らすことを願う農民たちの密告。彼の言う「ささやかな助力」は農民たちには届かなかったのが辛い。喘息に悩まされ敗色濃い逃亡中、馬に八つ当たりするシーンに人間ゲバラの苦悩振りが見える。
ソダーバーグは、それでも愚直なまでに理想を貫いた男を丁寧に描いてゆく。
ベニチオ・ベルトラはゲバラが乗り移ったような演技。相変わらず部下に「革命は勝利か死しかない」ことを説き、「愛のない革命なんて考えられない」「私は人間を信じる」という軸のブレナイ生き方を全うした伝説の職業革命家の軌跡を忠実に再現している。
マット・デイモンがドイツ人記者役で友情(カメオ)出演していたが、うっかり見逃しそうになるほどスターを排除したキャスティングが、この映画には大切な要素である。
パート1でカストロというカリスマ指導者を得て成功し、パート2で孤独な戦いを強いられ失敗したゲバラを見て、彼の純粋な人間像を改めて感じる。