晴れ、ときどき映画三昧

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「ハスラー」(61・米)80点

2022-11-23 16:06:53 | 外国映画 1960~79


 ・ R・ロッセン監督復帰作でP・ニューマンの出世作。


 ウォルター・テヴィスの原作をロバート・ロッセン監督とシドニー・キャロルが脚色。プール・ゲーム(ポケット・ビリヤード)で暮らしを立てる男の挫折や苦悩を描いた人間ドラマ。オスカー撮影(ユージン・シャフマン)・美術賞受賞作品で主演は当時35歳だったポール・ニューマン。

 いまではハスラーと言えば<ビリヤード賭博で稼ぐプロ>で通用するが、<ビリヤードをするひと>以外に<詐欺師・ペテン師>や<ギャング>果ては<売春婦>という意味があって違うタイトルの予定だった。結局ロッセン監督のこだわりによって小説と同名タイトルで公開され、勝負の世界で試練に挑む男たちにスポットを当てる物語に相応しいタイトルとなっている。

 ロッセン監督は’37年、脚本家としてデビュー。オスカー作品「オール・ザ・キングスメン」(49)で監督賞の大本命でありながら赤狩りのため受賞できなかったひと。長いブランクがあり本作で見事復活し監督賞にノミネートされたが、今回も逃してしまっている。5年後、57歳という若さで亡くなってしまったのが惜しまれる。

 主演したP・ニューマンは「傷だらけの栄光」(54)・「熱いトタン屋根の猫」(56)で若きスターの仲間入りをしたもののアクターズ・スタジオの同期マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーンの後塵を拝し、”ファースト・エディ”ことエディ・フェルソン役でようやく自分の個性を発揮したいわば出世作。
 小銭を稼ぐしがないプロのハスラーが大金と名声を得るため悪戦苦闘、愛する人を失って越えなければならない高い壁を乗り越えようとする男を魅力的に演じている。それからの活躍はご存じのとおり「明日に向かって撃て!」(69)、「スティング」(73)などヒット作で主演し「ハスラー2」(86)で念願のオスカー主演賞を獲得している。

 負け知らずの大物ハスラー、ミネソタ・ファッツを演じたのはTVで自分の番組を持ちコメディアンでもあるジャッキー・グリーソン。ルドルフ・ワンデリンとい実在の人物がモデルで、ルーティンを守り15年負け知らずの異名をもつ男をスタイリッシュに演じている。

 エディがどん底のとき出逢ったのが足の不自由な自称大学生サラ。ひとりで朝から酒を飲む女に話しかけたのがキッカケで同棲するが、商売女とは違う純粋なこゝろを持ち普通の暮らしを願う優しさに一時の心の安らぎを得たエディだった。
 サラに扮したパイパー・ローリーは当時29歳。世間に背を向けながら女としての幸せを得られそうな喜びやそれを失う危うさを悟るような儚さを演じオスカー主演女優賞にノミネートされた。その後「キャリー」(76)、「愛は静けさの中に」(86)でオスカー・ノミネートされた演技派である。

 エディを見込んで大金を手に入れようとマネージャー契約をした賭博師バート・ゴートン。いかにもやり手だが、金が全てという冷酷無比な男に扮したのはジョージ・G・スコット。良くも悪くもこのドラマの立役者的存在で、本作でのオスカー・ノミネートを辞退したのも話題となった。さらに「パットン大戦車軍団」(70)では主演賞を受賞したにもかかわらず辞退している。ハリウッドのお祭りには否定的なこの俳優は、画面に登場するだけで存在感がありこのドラマでもその負け犬ぶりが見事。

 きめ細かな描写での演出ぶりが際だったロッセン監督。裏寂れた場末に生きる人間たちにスポットを当て、金を得るために必死に勝利と敗戦の狭間を行き来する姿を乾いた視点であぶり出す。主人公の再生を願う姿勢が自分の映画人生と重なっているようだ。
 競争社会に奔走する男の物語であり、壊れそうな男女の愛の関係がとても切ないメロドラマでもある。