晴れ、ときどき映画三昧

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「レベッカ」(40・米)80点

2021-01-23 12:44:13 | 外国映画 1945以前 


 ・ ヒッチコック、ハリウッド進出第1作のロマンチック・サスペンス。


 ダフニ・デュ・モーリエの原作をデヴィッド・O・セルズニックが映画化権を獲得、A・ヒッチコック監督を米国に招聘した祈念すべき作品。オスカー作品・撮影(白黒)賞を獲得しているが、監督賞は「怒りの葡萄」のジョン・フォードと争い受賞はならなかった。

 イギリスの大富豪と恋におちた<わたし>が、先妻レベッカの幻影に追い詰められていくさまを緊張感たっぷりに描いたゴシック・ロマンス。

 ヒロインの名前は明かされず一人称で始まったこのドラマは、モンテカルロで出逢った富豪のマキシム・ドウィンターとのプラトニックな出逢いからプロポーズされ英国マンダレイ屋敷へ向かうまでは二人のラブストーリー。

 ヒロインに選ばれたのは日本生まれのジョン・フォンティーン。翌年「断崖」で見事オスカー主演女優賞を獲得しているが、本作では姉のオリヴィア・デ・ハヴィランド、キャロル・ロンバート、ジャネット・リーらの候補者と比べ如何にも格下だった。ヒッチもマーガレット・サラヴァンを希望したがセルズニックから却下されている。

 相手マキシム役のローレンス・オリヴィエも恋人ジャネット・リーではなくガッカリしたという。

 キャスティングが難航しただけでなく、セルズニックとヒッチとの間でも最初からギクシャクして、原作をアレンジして用意したシナリオを認めず原作通り映画化を希望したセルズニックに従ったヒッチ。

 映画化権を断念しながらセルズニックに監督として指名され、本国では大戦の影響で映画どころではなくなっていた状況下のヒッチには不本意ながら選択肢はなかったことだろう。

 とはいえ、マンダレイ屋敷でのスリリングな展開はヒッチ本来のサスペンス感満載で、秘密を抱えていたマキシムのその理由がダンダン明らかにされるうち、<わたし>の一途な乙女心から一家を支える大人の美しさへと変貌していく様子が描かれる。
 なかでもレベックの家政婦としてマンダレイに暮らし、いまでもレベッカを崇拝して家事一切を仕切っているダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)の不気味な存在がヒトキワ異彩を放っていた。Netflixでリメイクされたクリスティン・スコット・トーマスと見比べてみるのも面白い。

 海難事故で亡くなったレベッカの真相が明らかになっていくにつれ、追い詰められていくふたり。ヒッチならではの随所のユーモアやサスペンス・タッチはここでも本領発揮されマンダレイ屋敷がゴシック・ロマンスの終焉を迎える。

 紆余曲折がありながら80年後の今観ても陳腐化されていない映像の素晴らしさは流石で、ハリウッドでその才能を開花させていく片鱗が窺えるヒッチ・ファン必見の作品だ。