晴れ、ときどき映画三昧

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「キネマの天地」(86・日)75点

2019-08-25 12:01:30 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 


・ 昭和初期の撮影所秘話と下町人情を絡めたスター誕生のドラマ。


昭和初期、松竹蒲田撮影所を舞台に映画作りのエピソードとそこで働く人々を描いた137分のドラマ。監督は男はつらいよシリーズの山田洋次。脚本は井上ひさし・山田太一・朝間義隆・山田洋次の共同執筆。

出演は中井貴一、有森也実のほか渥美清、倍賞千恵子、しまけい、松本幸四郎、藤山寛美など。

角川が製作し松竹が配給した「蒲田行進曲」(82)は、つかこうへい原作を深作欣次が監督して大ヒットしたが、舞台が京都太秦撮影所だったため東映時代劇色が強く、本家松竹にとっては忸怩たる思いがあった。

大御所・野村芳太郎監督が、本家・松竹蒲田撮影所での映画作りに情熱を燃やした人々を描くことを念願し<大船撮影所50周年記念>として映画化、野村監督の助監督でもあった山田洋次が「男は・・・」を休み挑んでいる。

そのため渥美清・倍賞千恵子を始めスタッフ・俳優の山田組常連が勢揃いした下町人情ドラマという雰囲気の色が濃い。

記念映画に傑作なしとは、昔から言われているが、本作も例外ではなく豪華キャストによる顔見せによる演技比べの趣き。

 映画館の売り子から大部屋女優になった田中小雪<田中絹代>が、川島澄江(松坂慶子)<岡田嘉子>恋の逃避行により大役を演じるというドラマ設定のように、藤谷美和子降板によって新人・有森也実が小雪に扮している。
 さらに戦後の松竹大スター佐田啓二の御曹司中井貴一が助監督・島田健二郎役で相手役を務め、二人の奮闘と恋物語を軸にした浅草六区の賑わいと裏長屋に住む人々の人情噺が絡んで行く。

 二人の初々しい演技は、日本橋老舗の若旦那と旅役者の娘の身分違いの恋物語にうまく噛み合っていた。

 本作の主役はなんと言っても蒲田撮影所という舞台で、監督・俳優・カメラマン・照明など活気ある映画作りスタッフたちでエピソードの数々が繰り広げられる。

 軍国化の波が押し寄せながら活動大写真と言われた無声映画からトーキーとなって行く映画を、大衆のために大量に送り届けた城田所長(松本幸四郎)<城戸四郎>のリーダー・シップとそれに応えたスタッフたち。
 
 山田監督は尊敬する小津安二郎と喜劇映画王・斎藤寅次郎をモチーフに、<映画は芸術か娯楽かを問いながら映画作りに携わってきた>ことが窺える。

 島田が<ここで泣け、ここで笑え、そういう映画を作っていいんですか?>と問いかけた台詞は自問自答のよう。

 渥美清のアリアや大好きな落語ネタ<らくだ>と浪曲<石松三十石舟道中>をミックスし笑いを取りながら、左翼活動家(平田満)の逃亡や不当逮捕など不穏な社会情勢も挟み込むのは監督自身の映画づくりの原点を観る想い。

 劇場公開から30年以上たったが、山本直純のテーマ曲に乗せて様々な懐かしい俳優たちの演技を楽しむことができるのも至福の喜びだ。