・ 拾い物だったが、「ファーゴ」には敵わないS・ライミ監督のサスペンス。
「死霊のはらわた」シリーズでデビューし、「スパイダーマン」シリーズでファン層を拡げたサム・ライミ監督。その中間に監督したサスペンスで原作のスコット・スミスが脚本も担当している。
アメリカ北部の田舎町に妊娠中の妻・サラと平穏に暮らしているハンクは、大晦日に兄・ジェンキンスとその友人ルーとセスナ機が墜落したのを発見。操縦士は死亡しており、中には大金があった。440万ドルを巡って巻き起こしていく事件の数々で、人生の歯車が狂っていく・・・。
カルト映画でその名を知られるようになったS・ライミ監督だが、本作は不気味なシーンはほとんどなく僅かにセスナ機発見の導入部のみ。
事件など起こりそうもない雪深い田舎町で事件発生という設定は、一見コーエン兄弟の「ファーゴ」(56)を思い出させるが、主人公は人柄の良さそうな保安官ではなく善良なハズの小市民夫婦とその兄である。
誰でも突然大金を手にしたら、欲にかられ善からぬ行動に出てしまうかもしれない。自分ならどうするかと思いながら観てしまう。
警察に届けようというハンクに黙っていれば分からないから山分けしようというルーと、優柔不断だが密かに死んだ父親の農場経営の生活設計を望んでいた兄・ジェイコブ。
2人に押されたハンクは、自分が金の管理をしてホトボリが冷めるまで黙っているというプランを条件に渋々同意する。
夫婦・兄弟・友人という最も身近な人間関係がいきなり大金を手に入れたことで狂っていくさまは、なかなか面白い展開で拾い物という感じで鑑賞した。
ハンクを演じたビル・パクストンよりも、ジェイコブに扮したビリー・ボブ・ソートンの演技が光る。賢弟愚兄の2人が歩んできた半生は余りにも対照的で、貧しいながら大学を出て地元の飼料会社に勤めサラと結婚子供も生まれようとしているハンクと、独身で恋人もいない失業中のジェイコブ。
常識をわきまえているハンクが段々善悪の判断が狂い、ジェイコブが罪の意識に苛まれ自らを追い込んで行く現象は、近頃の偽装事件など社会のあちこちにみられることなのかもしれない。
最も罪の意識がなく、兄弟の人生を狂わせてしまったのはブリジット・フォンダ演じる妻のサラだったのが、皮肉なところ。
平穏な田舎町で起きた事件は、銃社会の米国ならではの悲劇でもあった。