晴れ、ときどき映画三昧

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「奇跡」(11・日) 70点

2015-08-09 12:08:09 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 是枝流「スタンド・バイ・ミー」は銘菓<かるかん>に似ていた?

                    

 是枝裕和監督は「幻の光」(95)以来追いかけているが、本作は未見だった。理由はこの年発生した東北大震災。その直前に大津波で臨死体験するストーリー「ヒア アフター」(米、C・イーストウッド監督)を観て、しばらく映画館通いする意欲が減退してしまっていた。

 本作は、震災の翌日全線開通した九州新幹線の企画ものであり、子役お笑いタレント(まえだまえだ)が主演であり、日本人の日常から家族を描くというドラマを想像して触手が動かなかった。

 観終わって想像通りでもあり違っているところもあって、映画は勝手に想像するものではないということを感じるとともに、観るときの心境や時期によって違うことも改めて想った。

 鹿児島にいる母の実家で暮らす兄・航一(前田航基)は、父と2人で福岡に住む弟・龍之介(前田旺志郎)と再び一緒に暮らすことを夢見て、新幹線が通過する瞬間に願い事を叫べば叶うという噂を信じて友達と旅に出る計画を実行する。

 航一のクラスメイトが2人、龍之介のクラスメイト3人が一緒でそれぞれ子供なりの願いがある。女優になりたいなど子供らしい夢や、死んだ犬を生き変えさせたいという幼い夢を持ちながらの旅は、さながら「スタンド・バイ・ミー」のような展開。

 監督は予め900人余りオーディションした子供たちに<どんな奇跡が起きたらいいか?>を聞いて、ドラマにも取り入れている。そこから選ばれた子供たちは等身大の演技を披露。因みに女優になりたいといった恵美役の内田伽羅は、是枝作品のレギュラー?樹木希林の孫で両親の反対を押し切っての出演。

 さらに福岡のアイドル・ユニット橋本環奈など将来のスター候補生もいるが、子供らしく走り回る姿は脇を固める豪華俳優とは違った魅力を発揮している。これは子供たちには台本を渡さず、粗筋だけ口頭で伝え自由に演技させる手法が活きている。

 今観ると、有珠山の噴火を駅員から聴いて桜島の噴火を願うことを諦めた航一。御嶽山の噴火以降、変にリアルな流れになっている偶然さにも驚く。

 主演した前田兄弟は、兄が思い込みが激しく夢中になるが少し神経質、弟が現実に適応する能力があるがちゃらんぽらんという本来の性格がそのままでているようで納得。

 学校の先生に阿部寛、長澤まさみ、家族にオダギリ・ジョー、大塚寧々、樹木希林、橋爪功に加え、夏川結衣、原田芳雄、高橋長英、リリイ、中村ゆりなど豪華な脇役を揃えたためちょっぴり長い128分。

 子供らしい悩み・決断・実行で少し成長した<是枝版スタンド・バイ・ミー>は、鹿児島銘菓・かるかんに似たほんのり甘い映画だった。個人的には辛み・苦味・酸味の何れかがもう少し欲しかった気がするが・・・。