晴れ、ときどき映画三昧

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「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(米・14) 70点

2015-04-19 16:44:09 | (米国) 2010~15

 ・ ハリウッド風刺と中高年への応援歌でオスカー獲得!

                    

 「21グラム」(03)、「バベル」(06)、「BIUTIFUL ビューティフル」(10)など、絶えず人間の葛藤や苦悩を描いてシリアスな話題作を送り続けてきたアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督。「ゼロ・クラビティ」(13)でオスカー獲得した撮影監督エマニュエル・ルベツキ。

 メキシコ人同士のコラボによって映像化されたこのドラマは、<人生をやり直そうと必死になる中高年への応援歌>で、今年のオスカー作品・監督・脚本・撮影の4部門を獲得している。

 かつて「バードマン」で一世を風靡したスーパー・ヒーローだった俳優リーガン・トムソン。その後ヒット作に恵まれず20年余り、家を抵当に入れ金を工面してブロードウェイでレイモンド・カーヴァーの短編「愛について語るときに我々の語ること」を脚色・演出・主演することで再起を計ろうとしていた。

 折りしも舞台稽古中に共演者が事故で降板、代役にマイク・シャイヤーが決まった。才能豊かだが、何かと問題の多いエキセントリックなマイク。

 私生活では結婚に失敗して娘のサムとも上手く行かず、薬物依存症でリハビリ中のサムをアシスタントとして身近に置くことも気掛かりなリーガン。

 上演を控え、決別していた筈の「バードマン」の幻想が現れ、何かと囁いてリーガンを悩ませる。

 主演したのは、「バットマン」(89)、「バットマン リターンズ」(92)でスターとなったマイケル・キートン。3作目を断り地道な俳優生活を送ってきた彼にとってまさに<はまり役>だが、ブラック・ジョークに近い役柄。ブリーフ1枚でブロードウェイを歩くなど体当たりの演技は往年のファンにとって涙モノ。

 かつてのスターが落ちぶれどん底から這い上がろうとする男の再生物語はハリウッドの定番で、近作ではミッキー・ローク主演の「レスラー」(08)など、愛と感動のドラマとして仕上がっているのが当たり前。

 イニャリトゥ監督の従来なら、そうなるだろうという観客(筆者)の期待は見事に裏切られる。随所にアメコミ原作・シリーズ・SFアクションに頼っているハリウッドの企画力不足を批判する、ブラック・ユーモア満載である。

 共演のマイクを演じたエドワード・ノートンは「ハルク」、サムのエマ・ストーンは「スパイダーマン」、遅咲き女優のナオミ・ワッツは念願のブロードウェイ初舞台というレズリー役で「キング・コング」でお馴染みというキャスティングの妙。

 ハリウッドスターも実名で出てくる。ブレークする前、「バットマン」で共演したジョージ・クルーニーを始め、ウッディ・ヘレルソン、ロバート・ダウニー・Jr、マイケル・ファスベンダーなど何れも連続ヒーロー・アクションもので名高い面々だ。

 そんなハリウッドの裏事情と、サブタイトルでもある<無知がもたらす予期せぬ奇跡>と評したブロードウェイの過剰な自意識を、こんな作風で描かれると度量を見せ笑い飛ばすしかないというところか?

 殆どワンカメラでは?と思わせる長廻しで終盤まで惹きつけたルベツキの映像と、アントニオ・サンチェスの圧倒的なドラムスコアと随所に流れるマーラー、チャイコフスキーなどクラシックの名曲は、この映画のもうひとつの見所。

 眼と耳で楽しませてくれた本作は、<ネット時代に話題性だけで人々を惹きつける情報文化への警告>でもあった。