アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

ウクライナ政府の「プーチンとは交渉せず」は正当か

2022年10月07日 | 国家と戦争
   

 プーチン大統領は9月30日の「4州併合」演説でこう述べました。
「ウクライナに、直ちに戦闘を停止し、交渉の席に戻ることを求める。私たちはその準備ができている」(写真左)

 これに対し、ゼレンスキー大統領は直ちに、「プーチンとは交渉しない」と述べるとともに、NATO(北大西洋条約機構)への加盟申請を行いました。
 そして、ウクライナ政府は4日、「プーチン大統領と交渉するのは不可能」と正式に決定しました。

「プーチンとは交渉しない」―このウクライナ政府の決定は正当でしょうか。

 ロシアでプーチン氏に代わる大統領が生まれる見通しがない状況で、プーチン氏と交渉しないということは停戦・和平交渉を事実上拒否したことになります。それはすなわち、泥沼の戦争が続くということです。

 プーチン氏の「交渉呼びかけ」が軍事侵攻・「4州併合」の合理化・固定化を図ろうとするものであるのは確かでしょう。しかし、停戦交渉のテーブルにつくことはけっしてロシアの主張を認めることではありません。

停戦は、降伏と明確に異なる。戦争の結果とは無関係だ。領土・帰属問題の決着や戦争犯罪の取り扱いは、むしろ戦闘行為が中断されてから時間を掛けて議論すべきだ」(伊勢崎賢治東京外大教授、5月20日付琉球新報)

 なにより重要なのは1日も早く戦闘を中止することです。それはウクライナ、ロシア双方の犠牲者をこれ以上出さないだけでなく、戦争によっていっそうの食糧難に苦しんでいる途上国の人々の生活と命を救う上でも喫緊の問題です。

 さらに、環境保全の点からも停戦は急務です。UNEP(国連環境計画)のアンダーセン事務局長はNHKのインタビュー(6日放送)で、戦争がウクライナの動物・自然環境に深刻な汚染を広げているとし、「戦闘を一刻も早く終結させなければならない」と訴えています。

 ウクライナ政府の今回の決定、さらには「徹底抗戦」という一貫した方針の背景に、アメリカをはじめとするNATO諸国のウクライナへの武器供与・軍事支援があることは明らかです。バイデン米大統領は、4日のウクライナの決定を受けて、ゼレンスキー大統領との電話会談で、さらに900憶円の追加軍事支援を行うと約束しました。

 ウクライナ戦争は、ロシアと、ウクライナを前面に立てたアメリカ・NATOとの戦争でもあると言って過言ではないでしょう。

 ロシア、ウクライナ双方が直ちに戦闘を中止すべきです。ゼレンスキー大統領はプーチン大統領との交渉のテーブルにつくべきです。
 そしてその交渉が実を結ぶように、国連など国際組織が中立の立場で交渉の調停を行い、国際社会はそれを支援する必要があります。


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「山県有朋と伊藤博文」と安倍晋三氏

2022年10月06日 | 日本の政治と民主主義
   

 「安倍晋三国葬」の弔辞で菅義偉前首相が、伊藤博文の死にあたって山県有朋が詠んだ短歌(岡義武著『山県有朋』岩波文庫所収)を引用したことから、同書に対し「書店から注文が相次ぎ…岩波書店は…急きょ重版を決めた」(9月29日付共同配信)といいます。ため息の出る話です。

 安倍氏はなぜ『山県有朋』を愛読していたのでしょうか(4日付朝日新聞デジタルによれば、同書を安倍氏に薦めたのはJR東海元会長の故葛西敬之氏だったとか)。

 山県有朋は伊藤博文とともに明治藩閥政治で中心的役割を果たしましたが、「終身現役軍人」でもあった山県が主に担ったのは、帝国日本の軍事分野でした。

 幕末は高杉晋作の「奇兵隊」に所属し、官軍として戊辰戦争に参戦。明治政府での最初の配属は兵部省。1871年には西郷従道らと「徴兵制」施行の「建議書」を太政官に提出しました。やがて陸軍の全権を掌握するようになり、1882年には軍人勅諭を制定しました。

 1889年、現役軍人のまま首相となり第1次山県内閣が発足。最大の課題は、「利益線」(朝鮮半島)を確保するための軍備増強でした。

 1894年には枢密院議長として大本営メンバーとなり、日清戦争開戦を決定。自ら朝鮮半島に渡って戦闘を指揮しました。

 1898年、第2次山県内閣を組閣。ここでも取り組んだのは大軍拡とそのための増税でした。

 1904年の日露戦争も山県は御前会議で開戦決定に参画。大本営メンバーとして戦争指導の中心にいました。

 1906年、元老として「帝国国防方針案」を明治天皇に上奏。翌年、天皇が承認して帝国日本の正式な軍事方針となりました。

 1910年には大逆事件をでっちあげて幸徳秋水らを弾圧しました。

 こうして、明治天皇制政府の軍隊制度を築き、軍拡を推進し、侵略戦争・植民地支配の先頭に立ち、社会運動を弾圧する中心に居続けたのが山県有朋です。

 一方、伊藤博文が初代総理大臣として明治政府の中心にあり、初代韓国総監として植民地支配を推進したのは周知の事実です。

 山県と伊藤は、ときに対立することもありましたが、山県は第1次伊藤内閣(1885年)で内務大臣、第2次伊藤内閣(1898年)では司法大臣を務め、個人的にも親しい盟友でした。

 2人の共通点はなんといっても、同じ長州藩出身で、吉田松陰の門下生だったことです。

 吉田松陰こそは、「蝦夷を開拓し…琉球に諭し…朝鮮を責め…北は満州の地を割き、南は台湾、呂宋(ルソン)諸島を収め、進取の勢を漸示すべし」(『幽囚録』)と主張するなど、侵略・植民地支配、「大東亜共栄圏」思想の先駆者でした。

 山県は主に軍事面で、伊藤は主に行政面で、ともに松陰の思想を忠実に実行した生涯だったといえるでしょう。

 そして、同じ山口県出身の安倍氏は、同じく吉田松陰を信奉・敬愛し、「150年前の先人たちと同じように…行動を起こすこと」(2018年1月、「明治維新150年」の首相談話)と明治政府を礼賛してきました。

 安倍氏が、自衛隊増強・軍事費肥大化をすすめ、戦時性奴隷(「日本軍慰安婦」)・強制動員(「徴用工」)問題で植民地支配責任を隠ぺいし、朝鮮学校無償化排除などで在日朝鮮人を差別し、憲法を蹂躙する専制的政治を続けてきたことをみれば、安倍氏は山県有朋、伊藤博文の2人が担ってきた帝国主義支配の軍事・行政の両方を推進してきたといえるでしょう。

 菅氏は安倍氏の「国葬」で山県の伊藤への弔歌を引用しましたが、その伊藤の死は、苛烈な植民地支配に対する朝鮮民族の怒りが引き起こした安重根によるハルビン駅での銃撃(1909年10月26日)でした。歴史のめぐりあわせと言うべきでしょうか。

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Jアラート騒動が示した「ミサイル防衛」の虚構

2022年10月05日 | 日米軍事同盟と朝鮮・韓国
  

 4日午前7時27分、NHKなどテレビは一斉に放送を中断し、「北朝鮮によるミサイル発射」のJアラート警報(写真左)を流し、特番を組みました。Jアラートの発信は2017年9月15日以来5年ぶりです。

 日本のメディアは相変わらず「北朝鮮の挑発」という日本政府の言い分そのままの報道を繰り返しています。しかし、今回を含む最近の朝鮮民主主義人民共和国の「ミサイル発射」が、9月26日から日本海で行われている米韓合同軍事演習、それに続く30日からの5年ぶりの日米韓合同軍事演習(写真中)に対抗したものであることは明らかです。挑発しているのは日米韓の方です。

 一方、今回のJアラート騒動で改めて明らかになったことがあります。それは、政府・防衛省が膨大な予算を投入している「ミサイル防衛」なるものはまったく役に立たない虚構だということです。

 J アラートの内容と政府の発表によって時間的経過を振りかえってみましょう。

7:22ころ ミサイル発射
7;27 Jアラート(1回目)が「ミサイル発射」を告知し、北海道と東京都の島々に避難指示
7:28~29ころ ミサイルが青森県上空を通過
7:42 Jアラート(2回目)が「ミサイル通過」を告知し、北海道と青森県に避難指示
7:44ころ ミサイルは太平洋上のEEZ(排他的経済水域)外に落下

 この経過で明らかなのは、Jアラートがミサイル発射を告知し避難を指示したのは、ミサイルが上空を通過するわずか1~2分前だったことです。これでは避難できるはずがありません。J アラートは何の役にも立たないということです。

 役に立たないのはJ アラートだけではありません。

 松野官房長官は8時すぎの記者会見で、「自衛隊は(ミサイルの)破壊措置はとらなかった」と明らかにしました。その理由は、「日本領域での被害は想定されなかったため」だと述べました。これはおかしな話です。

 「被害は想定されない」ことが分かっていたのなら、なぜJ アラートで何度も避難を指示したのでしょうか。Jアラートによって北海道や青森は騒然とし、マラソン大会を中止した学校も出たほどです。被害がないことが分かっていながらJ アラートを鳴らしたのは、騒ぎを大きくして朝鮮への批判を煽るためではなかったのでしょうか。

 そうでないというなら、「破壊措置」は「とらなかった」のではなく「とれなかった」のではないでしょうか。
 上記の通り、ミサイルが日本上空を通過すると自衛隊が探知してJ アラートを発信してから実際に通過するまでの時間はわずか1~2分。ミサイルの速度は音速をはるかに超えていました。

 共同通信の磐村和哉編集委員は、フジテレビ系の特番で「(ミサイルの速度が)マッハ5以上だと迎撃は難しい」と述べましたが、韓国軍が発表した速度は「マッハ17」でした。とても迎撃できる速度ではないでしょう。

 「ミサイル防衛」と称してアメリカから巨額の費用で「イージス・アショア」(写真右)を購入したのは安倍晋三首相(当時)でした。それはなんの役にもたたず、ただ米兵器産業をもうけさせ、米政府を喜ばせただけの巨大な税金の無駄遣いだったのです。

 万一ミサイル戦が始まれば、「防御」は不可能です。「抑止」を名目にした軍拡は緊張を高めるだけです。沖縄諸島で進行している自衛隊のミサイル基地化は戦争の危険を現実のものにしています。
 戦争を防ぎ平和を維持する手段は外交と軍縮しかありません。今回のJアラート騒動は、そのことを改めて示したのではないでしょうか。


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「陸自性被害」問題の核心は何か

2022年10月04日 | 自衛隊・軍隊
    

 2年前から自衛隊内で性被害を受け続けた元陸上自衛官・五ノ井里奈さんの告発を防衛省・自衛隊は、9月29日にやっとその一部を認めました。しかし、加害者の謝罪がないうえ、他の被害実態も明らかにされていないなど、問題はまだ山積しています(写真左・五ノ井さん=左と陸自幹部)。

 性被害者の勇気ある告発が防衛省・自衛隊に一撃を与えた意義は小さくありません。

 同時に、これは単なる職場内の性暴力事件ではないことを見逃すことはできません。

 第1に、自衛隊は言うまでもなく軍隊であり、軍隊と性暴力は不可分の関係にあることです。

 それには2つの側面があります。1つは、軍隊が外部に対して行う性暴力の不可避性です。軍隊は「敵国」市民に対する性暴力を軍事行動の一環として行います。また、「従軍慰安婦」という名の性奴隷問題も軍隊による性暴力の表れです。

 もう1つの側面は、軍隊内部の性暴力の不可避性です。たとえば、米国防総省の報告(2018会計年度)によると、米軍内の1年間の性暴力被害は届け出があったものだけで7623件に上りました。国防総省は届け出は被害者の3人に1人とみており、被害者は2万人超と推定しています(2019年5月4日付沖縄タイムス)

 アメリカでは上記のように国防総省が実態を調査して発表しています(その精度はともかく)。日本でも自衛隊内の性暴力・性被害の全体調査を直ちに行って公表すべきです。

 見過ごすことができない第2の問題は、政府・自民党が女性を自衛隊に取り込む動きを強めていることです。

 植村秀樹・流通経済大教授はこう指摘しています。

「2017年版(防衛)白書は「輝き活躍する女性隊員」を特集している。自衛隊発足当初は看護職のみであった女性隊員は、1976年から職域に拡大され、その数を徐々に増やしてきた。…「国家を守る、公務員」のポスターに登場する隊員も過半が女性である。今年の隊員募集カレンダーも半数以上が女性である。

 自衛隊は長年、隊員募集に苦労してきたが、今や日本の女性には…「戦う」職場で「輝く」道が開かれている。「提言」(自民党安全保障調査会が4月岸田首相に提出した「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」)が「女性自衛官の更なる活躍」「女性自衛官の積極的な活用」と再三にわたって女性に注目しているのも、他の分野で「ガラスの天井」を断固として維持しておいて、自衛隊へ誘導するためなのかと疑いたくなってしまうほどである」(「世界」10月号)

 防衛省・自衛隊が五ノ井さんの訴えを遅まきながら認め、なんらかの措置をとろうとしているのは、追い込まれたうえでの世論対策であると同時に、ジェンダー問題を逆手にとって「女性自衛官の積極的な活用」を図ろうとしていることと無関係ではありません(写真中・右は自衛隊HPより)。

 軍隊と性暴力は不可分の関係であり、戦争(殺戮)を任務とする軍隊はけっして女性が「活躍」すべき場ではありません。憲法違反の軍隊=自衛隊の存否を根本的に問い直すことなしに「自衛隊の性暴力」問題を考えることはできません。

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ウクライナの食料はどこへ向かっているのか

2022年10月03日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ東部4州の「住民投票」、それによるプーチン大統領の「併合宣言」が情勢の大きな画期になることは確かです。戦争下の「住民投票」が正常なものでないことは言うまでもありません。

 しかし、メディアの報道は、ロシアと、ウクライナおよび支援するアメリカはじめG7諸国の攻防(戦況報道)に終始しており、重要な問題が切り捨てられています。

 1つは、停戦・和平をめぐる動向であり、もう1つは、ウクライナ戦争の犠牲を被っているアフリカなど途上国の状況、とりわけ食糧危機の現状です。

 ロシアの軍事侵攻後、ウクライナとロシアが唯一行った合意は、国連とトルコの仲介によって、南部オデーサ港からの食料輸出を再開したことでした(8月1日に第1弾が出港)。

 ところが、プーチン氏は9月7日、ウラジオストクの演説で、ウクライナから輸出した食料は「ほとんどがヨーロッパに送られており、肝心の途上国には3%しか届いていない」「欧州はかつて途上国を植民地にしたのと同様の行動で途上国をだましている」と非難しました。

 これに対しゼレンスキー大統領は、プーチン氏の演説はウソだとし、「食料輸送の大半は途上国向けだ」とウエブサイトで反論しました。

 輸送再開を仲介したトルコのエルドアン大統領は、「食料が貧困国に届いていないというプーチン大統領の主張は正しい」と述べました(以上、9月9日のNHK国際報道2022、写真も)。

 9月30日、プーチン氏はクレムリンで行った「4州併合演説」でも、あらためて「ウクライナの小麦は5%しか最貧国に届いておらず、多くは欧州へ送られている」(NHK同時通訳)と述べました。

 いったい真相はどうなのでしょうか?

 プーチン氏のウラジオストク演説に対して、EUなど欧州諸国が反論したというニュースは聞きませんでした。その後1カ月が経過しますが、メディアがこの問題を調査・追及した跡も見られません。

 プーチン氏だけでなく、仲介したトルコのエルドアン大統領もそれを是認したことは軽視できません。

 プーチン氏の主張、ロシアの行動で批判すべきはもちろん批判しなければなりません。しかし、メディアにとって最も重要なのは、戦争の真実・真相を調査して報じることです。ウクライナ食料輸出の行方は、その最も重要な問題の1つではないでしょうか。

 メディアだけでなく、輸出再開を仲介した国連も、調査して真相を明らかにし、公表する責任があります。

 メディアや国連がその責任を履行せず、“一方的に”ロシアを非難することは、泥沼の戦争を長期化させて、ウクライナ、ロシア、途上国の市民の犠牲を拡大し、最も重要な即時停戦・和平に逆行すると言わねばなりません。

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