アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

当事者がスケッチ・川柳で描いた「南方抑留」の実態

2023年12月05日 | 戦争の被害と加害
   

 帝国日本の敗戦で、東南アジアに残された兵士うち約10万人が約2年間、現地で強制労働を強いられました。「南方抑留」です。その実態は「シベリア抑留」よりもさらに知られていませんが、当事者が抑留生活の中で描いた貴重なスケッチ画が数多く残されています。

 描いたのは野田明さん(1922~2018年、佐世保市)。そのスケッチ画の展示企画が、元兵士らの川柳、文集とともに、京都市内のおもちゃ映画ミュージアムで行われています(写真左、12月24日まで)。

 2日には同ミュージアムの主催で、この問題の研究を続けている中尾知代・岡山大大学院准教授の講演、野田さんの長男・明廣氏のとの対談が同志社大学で行われました。

 南方抑留者は「捕虜」ではなく「降伏日本兵(JSP)」として国際法(ジュネーブ条約)の適用外とされました。イギリスの支配下に置かれ、現場での監視は現地の人が任されました。

 主に農地の開墾開拓や空港建設などに従事させられ、昼食はおにぎり1個など極度の空腹状態に置かれました。野田さんのスケッチの中には、仲間が大蛇を料理する場面を描いたものもあります(写真中)。マラリアなど熱帯地方特有の病気に苦しんだのも南方抑留の特徴です。

 野田さんが挿絵とともに残した仲間の川柳の中には、「いかんせん 原子発明 おそかりし」というものがあり、広島・長崎への原爆投下の情報が早期に現地にも伝わっていたことをうかがわせます(写真右)。また、「何もかも 軍部に 罪をなすりつけ」と、JSPの複雑な心境を表したものもあります。

 これまで「JSP」という言葉すら知りませんでしたが、貴重な資料や中尾氏、野田さんの話から多くを学びました。ただ、中尾氏も指摘していたように、まだまだ明らかにされていないことは少なくありません。

 例えば、野田明さんがスケッチを描いたのは、上官の命令で、それを日本政府の復員局に送って現地の窮状を訴え「帰還」を促すためでしたが、実際に復員局に送られ届いたのか?届いたとすれば政府はどう受け止めたのか?

 そもそもイギリスはなぜJSPに強制労働をさせたのか?

 特に私が注目したいのは、現地(現在のマレーシアやミャンマーなど)の人々との関係です。日本軍の侵略を受けた現地の人々はJSPをどう受け止めたのか。逆にJSPの人たちはどうだったのか。侵略戦争の加害性についての意識・認識はあったのだろうか―。

 「南方抑留」は「戦争」というものを考える上で、今日的な意味を持っている問題です。引き続き関心を持ち続けたいと思います。

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自民のパー券裏金・問われるメディアの追及

2023年12月04日 | 政権とメディア
   

「党三役のひとりは「自民党の終わりになりかねない」と言い、別の幹部は「まずい、底が抜ける」と青ざめた」(1日付朝日新聞デジタル)(写真は朝日新聞デジタルより)

 自民党のパーティー券キックバックの裏金づくりは、それほどの問題です。たんなる政治資金規正法違反ではありません。何億もの裏金が闇で動き自民政治を支えている。自民の最大派閥である安倍派(清和会)が震源地で、二階派へ飛び火。今後すべての派閥、ほとんどの国会議員に波及するのは必至。裏金は、先に馳浩石川県知事が暴露した官房機密費でも明らかなように、政治を歪める元凶です。

 安倍派で直接責任があるのは事務総長ですが、岸田政権の大黒柱である松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、そして自民党の中心にいる萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長らはすべてこの経験者です。

 そもそも1枚2万円もするパーティー券を企業が大量に購入するのは、形を変えた企業献金に他なりません。企業献金には必ず見返りがあります。そうでないと企業は株主に背任を問われます。今回露呈したパー券裏金問題は、日本の宿痾の1つである企業・団体献金の問題でもあります。

 問題は、真相の徹底究明・自民党追及がどこまで行われるかです。
 検察の責任は言うまでもありませんが、試されるのはメディアです。なぜなら自民党は危機になるほどメディアに圧力をかけ操作を図るからです。しかもその中心は安倍晋三氏に代表される安倍派です。

 3日現在、各紙はこの問題でまだ社説を掲載していません。おそらく4日付の社説で取り上げると思われますが、その内容、姿勢が注目されます。

「近年の自民党を象徴する派閥である安倍派が、そのような違法行為に及んでいたとすれば、政治の信頼が土台から揺らぎます。安倍派の幹部らは口をつぐんでいますが、あいまいにしてやり過ごせるような問題ではありません。…徹底した解明が必要です」(内田晃・朝日新聞政治部次長、1日付朝日新聞デジタル)

「これからどうなるのか。…捜査の展開は。野党の出方は。自民党、最大派閥安倍派、何より総裁の岸田氏はどう動くのか(動けないのか)。そして世論の反応は。目が離せません」(藤田直央・朝日新聞編集委員、同)

 「徹底した解明」はメディアの責務です。これからのメディアに「目が離せません」。そして世論・主権者市民の力で、ほんとうに「自民党の終わり」を実現しなければなりません。

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日曜日記278・ドラマ「ガラパゴス」と川口是先生の教え

2023年12月03日 | 日記・エッセイ・コラム
  11月25日最終回だったNHKドラマ「ガラパゴス」(3回連続、主演・織田裕二、原作・相場英雄、脚本・戸田山雅司)は優れたドラマだった(BSで以前に放送)。

 沖縄の青年が「本土」で派遣社員として大手自動車の系列会社で働く。その中で手抜き製造の不正を発見。SNSで告発するが、メーカー幹部、派遣会社社長、グルの刑事らが不正をもみ消すため青年を殺害する。その手先になったのは、「正社員昇格」のエサで釣られた同じ派遣社員たちだった―。

 多くのテーマが描かれていた。派遣社員と正社員の格差・差別、大手自動車メーカーの不正、大手メーカーと派遣会社の癒着、警察(刑事)の腐敗、大手メーカーと政治家の癒着による事件もみ消し、そして沖縄(琉球)の貧困と差別…。ドラマチックな展開だが、どれも実際にあって不思議でない、いや現実にあることだ。

 中でもラストで、主人公たちがこう語る場面が胸を打った。

「仕事は人とつながるものだと思っていたけれど、仕事が差別を生み、人を傷つけ、人生を狂わせるんですね」

 この言葉で、約40年前の恩師・川口是先生(1927~92)の教えを思い出した。

 1973年に大学に入学し、必須科目として受講した「憲法」の講義をされていたのが川口先生だった。憲法学の優れた教師・研究者であったことはもちろん、京大職組の委員長や京都国公労組共闘会議議長を長年務められるなど、労働組合運動に並々ならぬ尽力をされた。

 1982年には革新勢力の結集を図るべく、火中の栗を拾うように、京大教授の職を辞して京都府知事選の革新統一候補となられた。「京都に平和ミュージアムを」というのが公約の1つの柱だった。その先見性にあらためて気づく。

 優れた学者・教育者であると同時に、労働運動・社会変革運動の先頭に立つ闘士であられた。

 私は学生時代から卒業後も、公私にわたってお世話になり導きを受けた。
 卒業後、ある日ご自宅に伺い、「たいへんな世の中になりました。この先どうなるんでしょうね」とお尋ねしたことがある。

 その時先生が言われたのは、「天皇制は今後、皇室ファミリーをアピールする戦術を強める」ということと、「一番の問題は、労働が軽視されることだ。労働は人間、社会をつくる基盤。それが軽んじられることが最も重大なことだ」とおっしゃった。

 その後の労働組合運動の衰退、総評の解体・連合の誕生、派遣法・「雇用平等」法の成立などなど、まさに川口先生の指摘通りの世の中になってしまった。
 「ガラパゴス」はこの先生の教えを思い起こさせた。

 心から尊敬して「先生」と呼べるのは生涯、川口是先生ただ一人だ。64歳の若さで亡くなられたことが、あらためて悔しい。日本にとって口惜しい。

 労働・働くことが人間の、社会の原点である―その言葉を胸に刻み続け、そんな世の中に少しでも近づけるよう、残りの人生を生きてゆきたいと思う。

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万博は植民地主義の歴史から脱却しているか

2023年12月02日 | 日本の政治・社会と民主主義
   

 開幕まで500日となった大阪・関西万博。建設費は当初見込みの2倍、2350億円に膨らみ、さらに「日本館」の建設などで837億円、計3187億円という膨大な出費になります。借金(国債)まみれの日本のどこにそんな無駄遣いをする余裕があるでしょうか。建設は大幅に遅れ、出展を取りやめる国も相次いでいます。

 万博の問題点はそれだけではありません。

 1851年にロンドンで始まった万国博覧会の歴史は、帝国主義・植民地主義の歴史と一体不可分でした。

「博覧会の時代とは、同時に帝国主義の時代であった。これは決して偶然ではない。…博覧会は、テクノロジーの発展を国家の発展、つまりは帝国の拡張に一体化させ、そのなかに大衆の欲望を包み込んでいったのである。…ロンドン万博を開催するに当たり、主催者側が最初に着手したのは、大英帝国の植民地や自治領からの出品全体を帝国の展示としてまとめあげることであった」(吉見俊哉著『博覧会の政治学』中公新書1992年)

 「植民地からの出品」は、モノだけでなくヒトにも及びました。原住民を連れてきて見世物にする悪名高い「人間の展示」です。それは日本も例外ではありませんでした。

 明治政府は1903年3月~7月、万博開催を想定して「第5回内国勧業博覧会」を開催しました(於大阪市)。
「会場内には日清戦争により領有することとなった植民地の台湾館や、会場外ではあるが、アイヌ、琉球、台湾、清国、朝鮮半島の人々などを展示する人類館などが設置された」(伊藤真実子著『明治日本と万国博覧会』吉川弘文館2008年)

 万博と植民地主義の関係は遠い過去の話ではありません

 佐野真由子京都大大学院教授(万博学)によれば、万博の開催ルールを定めた国際博覧会条約(1928年成立)の第2条に、万博における展示テーマの一つとして「植民地の開発」が明記されましたが、その例示は「実に1972年まで存続した」のです(11月15日付京都新聞)。

 今回の大阪・関西万博はどうでしょうか。

 日本国際博覧会協会(万博協会、会長・十倉雅和経団連会長=写真右)が7月、会場建設の遅れを取り戻すため、法律が定める時間外労働の上限規制を建設業界には適用しないように、という要望を政府に提出しました。
 労働問題に取り組む弁護士らでつくる民主法律協会(大阪市)は7月28日、「万博のためには、労働者の健康や生命の犠牲もやむを得ないと言わんばかりだ」と厳しく批判する抗議声明を出しました。

 万博協会は批判を浴びて要望を取り下げたとされていますが、自民党の万博推進本部会議(10月10日)では性懲りもなく、「超法規的な取り扱いが出来ないか」として万博建設工事を時間外労働上限規制の対象外とするよう要求する意見が出ました(10月13日のブログ参照)。

 建設現場が多くの外国人労働者で支えられていることは周知の事実です。経団連会長をトップとする万博協会や自民党の要求・主張は、万博のためなら外国人労働者は法の埒外、犠牲になっても構わないというものです。これは今日の植民地主義といっても過言ではないのではないでしょうか。

 万博は今も、帝国主義・植民地主義の歴史から脱却しているとは言えません。その点からも大阪・関西万博は即刻中止すべきです。
 

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陸自のオスプレイも撤去しなければならない

2023年12月01日 | 自衛隊・日米安保
   

 米軍岩国基地を飛び立って嘉手納基地へ向かっていた米軍のCV22オスプレイ(横田基地所属)が29日午後、屋久島沖で墜落・大破した事故は、オスプレイの欠陥機ぶりを改めて露呈しました。

 オスプレイは今年8月27日にもオーストラリアで墜落(MV22)し3人死亡したばかり。沖縄では2016年12月13日、米軍普天間基地所属のMV22が名護市沖に墜落し2人が負傷しました。

 米軍オスプレイを直ちに飛行停止・撤去させなければならないことは言うまでもありません。重要なのは、米軍オスプレイだけでなく陸上自衛隊のオスプレイ(V22、千葉・木更津駐屯地に暫定配備中、再来年7月までに建設中の佐賀駐屯地に移駐予定)も撤去する必要があるということです。

 なぜなら陸自オスプレイも墜落を繰り返している米軍オスプレイと「似た構造を持っている」(山口昇・元陸将、29日夜NHKニュース9)からです。
 事実、陸自オスプレイにも不具合が生じています。

「今年8月、静岡県の航空自衛隊静浜基地で、陸自のV22オスプレイが予防着陸した。原因は、オスプレイのナセル(エンジン収容体)の中にあるギアボックスの内部で、ギアなどが高速回転し、部品が摩耗して金属片が発生したこと。防衛省はギアボックスを交換することで飛行再開した」(防衛ジャーナリスト・半田滋氏、30日付沖縄タイムス)

「今回の事故と同型のCV22は昨年8月、クラッチの不具合による事故が相次いでいるとして全機を一時飛行停止に。陸自も米軍の事故調査などを受け、昨年と今年、V22の飛行を一時見合わせた経緯がある」(30日付共同配信)

 その危険な陸自オスプレイが10月24日、日米共同訓練の一環として民間の新石垣空港に降り立ちました(写真右)。

「訓練では前線で負傷した隊員の輸送を担った。ある陸自幹部は「戦闘ではなく負傷者の輸送なら、地元の反発も少ない」とあけすけに語る」(30日付共同配信)

 「負傷者の輸送」で「戦闘」をカムフラージュする。こうした姑息な策術を弄してまで政府・防衛省は危険なオスプレイを配備しようとしているのです。

 「自衛隊のオスプレイについても退役を検討する必要がある」「県民、国民の生命・財産を守るため、国内からオスプレイを全面撤去するしかない」(30日付琉球新報社説)。

 自衛隊が米軍と従属的に一体化している軍隊であることはもはやだれの目にも明らかです。それは自衛隊の装備・兵器も同様です。オスプレイだけでなく、巡航ミサイルトマホークも米軍の中古を高額で買わされたことが先日明らかになりました。

 オスプレイ撤去、軍事基地撤去の声は、米軍と同時に自衛隊にも向けていかねばなりません。

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