アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

水平社の「戦争協力」の歴史から何を学ぶか

2023年01月02日 | 天皇制と差別・人権・民主主義
   

 昨年2022年は、部落差別とたたかった全国水平社の創立100年でした(1942年に解散)。

 「全国に散在する吾が特殊部落民よ団結せよ」で始まり「水平社は、かくして生まれた。人の世に熱あれ、人間に光あれ」で終わる水平社宣言(1922年3月3日、京都市岡崎公会堂で行われた創立大会で読み上げられた)。格調高い人間宣言として知られています。
 
 しかし、その全国水平社が帝国日本の侵略戦争に賛成・協力した事実はあまり知られていないのではないでしょうか。

 大阪人権博物館の朝治武館長は昨年、創立100年にあたり『全国水平社1922―1942』(ちくま新書)を著しました。それによると―。

 日中全面戦争の契機となった「盧溝橋事件」(1937年7月7日)の2か月後、全国水平社は拡大中央委員会(9月11日)を開き、「非常時に於ける運動方針」を可決。政府が強調する「挙国一致」を前提に、これまでの反ファシズムの姿勢を放棄して戦争協力へ転換しました。

 朝治氏は朝日新聞のインタビューでこう述べています。

全国水平社が侵略戦争を支える存在になったのは、権力に無理強いされただけではない。戦争協力によって「皇国臣民」として認められ、差別がなくなるという考えに自ら取り込まれたことを忘れてはならない」(2022年7月24日付朝日新聞デジタル)

 「皇国臣民」として認められれば差別がなくなるという思い込み、錯覚、そう思わせる権力の誘導。そこには戦争中の沖縄との悲しい共通点があります。

 全国水平社が組織として「戦争協力」を明確にしたのは1937年ですが、それには下地がありました。水平社宣言を起草した西光(さいこう)万吉(写真中)をはじめ、添削した平野小剣、委員長の南梅吉ら指導部の多くが天皇制支持者だったことです。

「全国水平社の帝国主義戦争反対、反ファシズム闘争という流れに対し、天皇を中心とした社会主義を実現しようとする国家社会主義の立場を鮮明にしたのが、ほかならぬ西光万吉であった」「西光は1927年に日本共産党に入党した。しかし…共産党が主張として掲げる天皇制廃止には疑問をもち、天皇制支持の立場から党の上級機関に対して再検討を要求するほどであった」(朝治武氏前掲書)

 朝治氏は、「いま日本社会で再び、偏狭なナショナリズムを背景にした排外主義が広がっている。だからこそ、水平社が戦争協力した歴史も徹底的に総括し、今日に生かさなければならないと考えている」(同上朝日新聞デジタル)と強調しています。

 政府・自民党が「中国・北朝鮮の脅威」を煽って軍事国家体制を築こうとしているいま、朝治氏が指摘する通り、水平社が戦争協力した歴史から学ぶことは極めて重要です。
 その際、くみ取るべき教訓は、天皇制への賛美・支持が「戦争協力」の土壌になるということです。なぜなら、「皇国臣民」思想は容易に国家権力に都合がいい「挙国一致」思想と結びつくからです。

 重要なのは、それは決して戦前の絶対主義的天皇制だけの問題ではないことです。なぜなら、政府がメディアを操って繰り広げている「安保」プロパガンダは、現代版「挙国一致」体制づくりをめざすものであり、その「頂点」に立つシンボルとして利用される(されている)のが「象徴天皇」にほかならないからです。

 水平社の「戦争協力」は意外です。そしていま、「あの人が」と思うような「民主的知識人」による天皇・皇族賛美の“意外な”発言にしばしば出くわします。
 天皇・皇族・天皇制に対する見解・態度は、まさに平和・民主主義の真価をはかる試金石です。
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