麻生太郎財務相(副首相)がまた暴言を吐きました。「犬が人を咬んでも…」の類ですが、はやり見過ごすことはできません。
麻生氏は4日の参院財政金融委員会で自民党議員の質問に答える中、新型コロナウイルス感染についてこう言いました。「先進国で最も死亡率が低い」「おまえらだけ薬を持っているのかと(海外から)電話がかかってきた。国民の民度のレベルが違うと言うとみんな黙る」(5日付共同配信記事)
麻生氏の発言には重大な誤り・問題点が少なくとも6点あります。
第1に、麻生氏は「死亡率」を「先進国」と比較して「最も低い」と言っていますが、同じアジアの台湾、中国、シンガポール、韓国と比べると、日本の死亡率は「最も高い」のが実態です(5月23日現在。5月26日付朝日新聞)。麻生氏の比較はきわめて恣意的、あるいはアジア諸国を視野に入れない差別的なものと言わねばなりません。
第2に、ある時点の「死亡率」をとって、その国の対策が奏功していると判断するのは非科学的です。「死亡率は、その国が流行のどの段階にあるかによって変わる」「どの国が新型ウイルスにうまく対処したかは、この大流行が終わるまではっきりはわからない」(英オックスフォード大学ジェイソン・オーク教授、BBCニュースジャパン4月24日)とみるのが妥当です。
第3に、マスクを着用するとか、あいさつは握手やハグよりお辞儀が多いなど、「日本の生活習慣が感染拡大を防いだ」(英ガーディアン紙)という見方はあります。しかしそれはあくまでも「生活習慣」の問題です。「生活習慣」の違いを「民度」の差とみること自体きわめて差別的です。
第4に、麻生氏がこの発言を行った時点で、日本でも政府の発表で900人以上がコロナ感染で死亡しています。コロナが原因でもそれと特定されない死亡者はどれだけいるか計り知れません。なにしろ検査数が少ないのですから。死亡した人の中には、「37度以上の熱が4日間」という安倍政権の誤った指針(指示)で自宅待機を余儀なくされた犠牲者もいます。
1人ひとりの命はかけがえがありません。それを「死亡率」というマスの数字でとらえ、あたかも対策がうまくいったかのように言うのは、自らの責任を棚上げした無責任かつ非人間的な態度と言わねばなりません。
第5に、「ドイツや韓国と比べると、日本の検査数はゼロを一つ付け忘れているように見える」(英BBC、5月26日付朝日新聞)といわるほど、日本のPCR検査はけた違いに少ないのが世界周知の事実です。東京五輪に固執した安倍首相が抑えてきたからです。
「世界中でPCRを抑制したのは日本だけだ。この結果、国内の感染状況はわからなくなった。だが、日本では、いまだに第一波は上手く抑制できたことになっている。これは、実態とは違う」(上昌広医師、「ジャーナリスト」5月25日号)
麻生発言はこうした安倍政権の失態を隠ぺいするものです。
第6に、日本人の「民度」を誇示する偏狭ナショナリズムは麻生氏の持論ですが、その愚劣さ・危険性は「コロナ禍」で一層増幅します。
ニュージーランド在住の将基面貴巳オタゴ大教授は、「日本を海外から見ていて気になるのは『日本人なら危機を乗り切れる』といった、ナショナリスティックな言説が散見されることです。…こうした根拠のないナショナリズムは、相互監視と他人への不信を生み出します。その同調圧力に政府が便乗するようでは、もはや『暴政』でしょう」(4月11日付中国新聞=共同配信)と指摘していますが、「便乗」どころか、「根拠のないナショナリズム」を率先して煽っているのが麻生氏です。「暴政」以外の何物でもありません。
強調しなければならないのは、今回の麻生暴言は麻生氏だけのものではないことです。麻生発言の10日前の5月25日、安倍晋三首相は「緊急事態宣言解除」の記者会見でこう述べました。
「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」
自らの失政を棚に上げ、日本は他国より優れていると事実を逆立ちさせてナショナリズムを煽る点で、麻生氏と安倍氏はまったく同一線上です。「コロナ禍」で決定的に重要なのは、国境を超えた国際連帯です。麻生氏や安倍氏の偏狭ナショナリズムがこれに真っ向から反することは明白です。
この2人が首相、副首相という政府のトップに7年以上も居座り続けているところに日本の不幸があります。そして、そういう政権を選択しているところに日本国民の「民度」が表れているのではないでしょうか。