角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

「数」だけでない魅力。

2009年05月08日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡円〕
紫基調の金粉和柄プリントをベースに、合わせは紺基調の金粉和柄プリントです。
色調のおしゃれ感と共に、やはり金の気品が感じられますね。賑やかで豪華な草履と思います。

今朝の新聞に、角館桜まつり期間の人出実績が載ってました。昨年比10万人増の126万人だそうです。博多どんたくや弘前公園でも20万人減…、この真偽を問うのはやめときましょ。
西宮家などがある外町(とまち)にいる人間がこの数字を聞いて、『うん、そのくらいは来てくれたなっ』と感じることはないと思います。角館の観光スポットはなんと言っても武家屋敷通り、外町を散策する割合はその20%とも云われています。単純に計算して25万人、やっぱりよく分かりません。

秋田市からお越しの母娘さんペア、こちらのおふたりは比較的最近から角館草履のご愛用者です。今日は角館にある菩提寺にご用でお越しでした。
『あれからずーっと履いてますぅ、やっぱりイイですねっ。お父さんにも履かせようかと思いまして…』。最後の一足となっていた25cm草履をお買い上げくださいました。

私が『母の日近くにお父さんへプレゼントですかっ』と笑うと、『ウチに母はいない感じですよ、みんな男みたいですからっ』と大笑いでした。男のような女でも女のような男でもなんでもイイですよっ、家族みんなが互いの健康を考える優しい人たちなんですからねっ。

ところでこちらの菩提寺というのは、私の同期生が住職を勤めるお寺さんだったんです。お花見真っ盛りの先日、同期生と静岡県に嫁いでいる妹さんがお越しでした。妹さんとはずいぶん久しぶりにお会いしましたね。
『せっかくだからあたしも注文して行こっ!』とオーダーくださった妹さん、すでに草履は届いていますから、足元に郷里を感じて欲しいものです。

杖をお持ちの80歳ほどと思しきおじいちゃんが、なにやら笑顔で近づいて来ます。後ろから着いて来るのは、奥様と孫娘さんにお見受けしました。孫娘さんはおじいちゃんに、『ゆっくり見てて、そこらへんを散歩してくるからっ』と言い残し、おばあちゃんを連れて出かけてしまいました。

おじいちゃんは食い入るように実演を眺め、そこから長いおしゃべりに入ります。
私が『どちらからです?』とお訊ねすると、『宮城の大崎市だっ』。続けて『旅行ですか?』とお訊ねすると、『う~ん、そういうワゲでもねぇんだけんど、孫が面白いもの見せるどって連れて来てもらったものぉ』。

詳しく聞いてみると、先月24日桜満開のとき、孫娘さんがおともだちと桜見物に見えたそうです。そのとき西宮家で私の実演と出逢い、『ゼッタイじっちゃんに見せたいっ』と思ったんですね。
大崎市のご自宅へ戻るなりじっちゃんへこれを伝え、本日めでたく念願が叶ったというわけでした。

昼食をはさみ、一時間ほどもいらしたでしょうか。『あ~あ、なんぼ見ても俺サは無理だな~』と、じっちゃんはたいそう喜んでお帰りになりました。孫娘のじっちゃん孝行に草履職人が一役買えたのなら、私の昼飯が一時間遅れたくらいなんでもないですよっ。また必ず寄ってくださいね~。

福井県からお越しの母娘ペアさん、娘さんが草履を気に入ってくださいました。欲しいのは娘さんでもお金を払うのはお母さんのほう、実演席ではよくある光景なんです。
娘さんは、『お金を払ってくれるのがお母さんなんだから、色もお母さんが選んでよっ』。お母さんは実に“天然系”で、『あんたに似合う色はどれかねぇ、だいたいあんたの重さで大丈夫なのかい!?』。あまりに真面目に言うので、私も思わず吹き出してしまいました。

ゴールデンウィークが終わり人影が少なくなった角館、126万人は夢のように感じます。それでも今日の実演席には、いつもと変わらぬ笑いがありました。旅の想い出と実演日記は、決して「数」だけでは語られませんね。

コメント
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