角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

若かりし時代の教え。

2007年12月30日 | 製作日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ21cm土踏まず付き〔4000円〕
うぐいす色のうさぎプリントをベースに、紫を合わせた配色Ⅱパターンです。穏やかで優しい色合わせですね。
うぐいす色のうさぎプリントも、この草履をもって最後となりました。

これまでたびたび申し上げている「人の縁」、ときに大きなインパクトを持つ人との出逢いがあります。その後の人生に少なからず影響を受ける、「師」とも言える人との出逢いですね。私にも確かに何人か思い当たります。
ひとりは、かつて勤務していた会社の社長です。特に「モノを売る」に関してのすべては、この社長から教えられたと言っていいでしょう。

私がはじめて会ったときの社長の年齢は38歳、私とちょうど20年違いました。30歳で会社を起こし売上も右肩上がり、とにもかくにもバイタリティ溢れる人でしたね。
社業の中心は樺細工の製造卸でしたが、生産性に限りがある樺細工だけでは売上もおのずと限界があります。私たちはこれを補うため、いろんな商材を仕入れては卸していました。
私が自分で仕入れる商材は「無理なく売れるモノ」だけですから、売れ残る心配はありません。ただその程度の種類と量では、売上自体たいしたことはないんですね。そこへいくと社長の仕入れは、種類も量も違います。中には、『これ、誰買ってくれるの?』というものまでありました。

あるときこれをたまりかねた私は、『なんでもかんでも仕入れられだって困る』と社長へ直談判したことがあります。社長はその言葉を待っていたかの如くこう言いました。『どんなモノでも金に替えてこそ一人前の商人だ』。
そしてこうも付け加えました。『人どいうのはな、出来ねぇ理由を喋らせだら雄弁なもんだ』。

頭のてっぺんをハンマーで殴られたかのような衝撃がありましたね。私はそのとき、なんでもかんでも仕入れてくる社長に文句を言うのは、完全に私のほうに「正」があると思い込んでいました。でも真実は違ったんです。

『どんなモノでも金に替える…』という言葉は、すべてのモノから利益を上げろという意味ではないんです。人の仕事ですから間違いはあります。「売れる」と思って仕入れても、結局それは見込み違いということだってフツーにあるわけです。そう判断したら、利益なんか捨てていくらでもいいから金に替えるのが商人という意味なんですね。なんだかんだ理由をつけて倉庫に眠らせておくのは、お金をただ捨てたも同然、それを小売店さんへ利益を捨てて卸すことで、また別の「得」が生まれることを教えられたわけです。

15年間の勤務を経て33歳で退社を考えたとき、まず一番に社長へ相談しました。あとから想いおこすと、現在勤務している会社の社長へこれを相談するってどーよ?とも思いますね。
社長は笑顔でこう言いました。『俺の会社で商いを学んだ人間が、また他の場所で活躍してくれたら、これを喜ばないのはおがしいべっ』。

その社長も現在65歳になります。同じ町にいながら、今では会う機会も減ってしまいました。
少し前のこと、社長へ届け物があって夜に訪ねたら、すでに晩酌していたのかホロ酔い加減で出てきました。『草履のほうはなんただ?』と尋ねられ、『なんとがこれで行ぐことにしたんシ』と答えると、『んだがっ、おめぇが元気で頑張ってるのが一番嬉しいでぇ』。
ホロ酔いも手伝ってか、社長の目にはうっすら浮かぶものがありました。

私はこれまで、「人を雇う」ということをしたことがありません。おそらくこれからもないでしょう。ですから私が若者に商売を教えるということも、きっとないと思います。
ただ、現在付き合いのある若者たち、そして実演で出逢う子どもを含めた若者たちに、たとえ反面教師であってもイイ、ナニかを感じてもらえたら、それが私の『一番嬉しいでぇ』なんだと思うんです。

コメント
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