自分の心の状態を深堀りしたり、講習等で最新の考え方を学んでいくうちに、心の苦しみ、悩みといったものを引き起こしている原因の殆どが「自己否定」にあるのではないかと思うようになった。
そもそも人間は生まれながらにして自己否定するように出来てはいないと思う。
恐らくDNA的には誰しもが自然に「自己肯定」するように人間は作られているものだと思う。
自己否定というのは後天的に、人との関わり合いの中で形成されるに至ったものといえる。
不幸、不運にも自ら自己否定せざるを得ない人間関係、環境に身を置かなければならなかった人たちが、やがて心の苦しみを恒常的に抱えるようになる。
「自己否定」というのは本来的には間違ったことなのである。
間違ったことなのに、その行為によって自らの心を破壊してしまうものなのに、何故、人は「自己否定」をやめられないのだろう。
心の苦しみから解放されるための最大のキーポイントは、無意識で自分でも知らず知らずに自己否定していることに気が付くこと、自己否定という行為が自分の心を蝕み、破壊していることに気が付くことである。
しかし多くの人は、このことに気が付くことなく、心の苦しみを抱えながら生涯を終えていく。
何故気づけないのか。
それは、自己否定の元になっている考え方が、道徳、規範、正義、正論といった「~すべき」とか「~しなければならない」といったものに裏付けられていることや、強い恐怖感情に動機づけられた「このままの自分ではいけない」、「このままの自分では人から責められる」、「今の自分のままでは周りの迷惑になる」といった受け止め方に強く支配されているためである。
今から30年くらい前までの心理療法は、ロジャース派の来談者中心療法や(いかがわしい?)催眠療法が主流だった。
今、催眠療法をメインに心理療法をやっているところは皆無に近い。
しかし90年代くらいまでは結構な数の催眠療法専門の看板を掲げているところがあった。
私も90年代半ばに藁をもすがる気持ちで広島まで行って催眠療法を受けたことがあるが、全く効果が得られず意気消沈して帰ってきた経験がある。
催眠というのは脳波がアルファ波の状態、すなわち顕在意識と潜在意識との壁が取り払われた、非常に集中力の高まった覚醒状態になっている状態であるが、この状態に誘導しても心の苦しみを本質的に解決するものではないからである。
私が広島で体験した催眠療法は原始的な方法(糸に吊るした五円玉を揺らしてその動きを見る)で催眠状態に誘導するものであったが、その後は何もしないというものであった。
おわかりのようにこの方法では催眠状態に入ることすら出来ない。何故ならば強い恐怖感情を恒常的に抱えている人が、外的な方法で催眠状態に入ることは不可能だからだ。
次に2007年頃に、特殊な方法(呼吸法と首の神経への刺激)により脳を覚醒状態にして、プラスの暗示を吹き込むという療法を受けたが、恒常的な恐怖状態の中、脳を覚醒状態(意識が無い状態)にすることへの恐怖から拒絶反応を起こし、これも失敗に終わった。
仮に上手く行って脳覚醒(深いトランス状態)にまでなったとしてプラスの暗示を脳に吹き込んでも、恐らく暗示は入っていかなかったと今では思っている。
あと多かったのが自律訓練法を用いた催眠暗示療法やイメージ療法。これも強い恐怖感情に支配されている状態では全く歯が立たなかった。
何故、催眠状態や脳の覚醒状態でプラスの暗示、すなわち自己肯定感を高めるメッセージが潜在意識に入っていかないのか。あるいはプラス思考、ポジティヴ感情が定着していかないのか。
それは、潜在意識に強固に根付いている「自己否定」の「回路」にメスが入らず、そのまま放置されているからではないか。
心に苦しみを抱えた人というのは、「自己否定」の回路が強固に潜在意識に根が張っていて、催眠とか脳覚醒といった小手先の方法ごときではその回路に変化を起こさせることは出来ず、プラスの思考や暗示をはねのけてしまうからである。
これが催眠や脳覚醒による暗示療法がうまくいかない原因と考えられる。
ではどうやったら解決に導かれるのか。
それは冒頭に述べたように、自分が無意識で「自己否定」していることに心から気づき、自己否定していたことが心の苦しみの原因になっていたことを身をもって悟ることしかない。
自分のやっていることが猛毒になっていることに心底気が付くことができたならば、自然にその行為をやめるのではないか。
自己否定をやめれば、あえて「自己肯定」をアファメーションや催眠や脳覚醒などで意識的、強制的に潜在意識に刷り込む必要はないであろう。
何故ならば、自己肯定というのは人間がもともと本能的に持っているものであるからである。
それは人間が絶滅せず存続していくために天から授かったものだからである。
それゆえに自己肯定とか願望達成とか引き寄せといったものを意識的に得ようとすることはかえって上手く行かない結果に終わるのである。
それは意識的な自己肯定というものが「今の自分のままではいけない」といった自己否定を動機とした行為であり、その行為をすればするほど「今の自分のままではいけない」という感情を強化してしまうからである。
解決の方向に向かうにはこのパラドックスにも気が付く必要がある。
【追記202208210113】
無意識的に自己否定していることに気付く方法を考えてみた。
例えば不祥事を起こした政治家(小物ではない首相などの大物政治家)、ミスをした部下、自分に自信のない人などを過度に、異常に、執拗に、日常的に絶えず責めていないか。
そのような人たちに対し妙に怒りや憎しみの感情を感じたとしたら、自己否定している可能性が高い。
その理由として、以下のようなことが考えられる。
①自己否定したことで恒常的に生じる怒りや不満、憎しみなどの感情を吐き出す手段として利用している。
②責める相手が、実は自分が憎み拒否した本当のありのままの自分と同じタイプの人物であり、そのような人間を見ると、自分自身に対してしているのと同じようにその人物を責めたくなる心理が働いていること。
③否定した自分(=駄目だと思っている自分)ではない、求める理想の人間像を外側で演じることで生じるストレスの解消手段として、本能的に最も安全だと認識したターゲットを選択していること。
自己否定すると、怒り、憎しみ、不満、恐怖、強迫観念など耐え難いマイナス感情が連動して発生するので、その不快なマイナス感情の処理をどのように行っているかに注視する必要がある。
大抵は無意識的に正当化されて行われている。
マイナス感情を吐き出すことの出来ない人は鬱になる。
うつ病も自己否定をし続けた結果引き起こされたものだと思っている。