緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

五音音階陰旋法のルーツは?

2020-02-11 19:51:52 | ギター
5月にやる大規模演奏会の曲目の中に、幕末の動乱を収めるために「公武合体」の象徴として第14代将軍・徳川家茂に嫁がされた、「皇女和宮」をテーマとした曲があるのだが、この曲の冒頭と、幕府が和宮の降嫁を求める部分、すなわちギターパートのユニゾンの旋律からしばらくして現れるフルートの旋律がものすごく美しいのだ。
まさに日本独自の旋律であり、恐らくは篠笛の音を模したものであろうが、日本古来から伝わる「五音音階陰旋法」によるものだ。
「五音音階陰旋法」は、作曲家の小船幸次郎氏によれば、西洋や日本以外の東洋の国には見られない日本独自の旋法だと言う。
確かに、このような、暗く、寂しく、かつ簡素でありながら美しい音楽は日本以外の音楽で聴いたことは無い。

この「五音音階陰旋法」という呼び方はおそらく近代になって付けられたと思うのだが、古来の日本では特段、そのような音階で作られているという認識は無かったのではないかと思う。
西洋の音楽が輸入される前までの日本の音楽、それも庶民に広まっていた音楽は、五音音階陰旋法と五音音階陽旋法によるものしかなかったと考えられるからだ。

では、「五音音階陰旋法」は日本でいつ頃から作られるようになり、広まったのであろうか。
日本の古来の音楽の中には、雅楽、能楽、浄瑠璃などがあるが、「五音音階陰旋法」による音楽は、そのような芸術性の高い音楽ではなく、わらべ歌、民謡、子守歌など、庶民の間に作られ広まったものだと思われる。
くわしく調べてみないと分からないが、恐らく鎖国政策を強いていた、しかも身分制度の厳しかった江戸時代にその起源があるのではないかと推測している。

陰旋法の旋律は何故こうも、暗く、寂しく、哀しいのか。
そして同時にこれらの感情に決して溺れない、独特の素朴な美しさがある。
静寂の中でしか感じられない旋律だ。
この独特の旋律は、感情をすぐにストレートに表に出すような国民性を持つ国からは決して生まれ得ないだろう。
厳しい身分制度のもとに、質素で貧しい暮らしを強いられた庶民の抑圧された感情から生まれたものであることは間違いないと思う。
昔の日本人は、気持ちをストレートに出すのではなく、「歌」にして詠んだと言われている。
どんな時でも常に「美」を意識していたのではないだろうか。
わらべ歌、民謡、子守歌なども、そのような日本人独自の感性から生み出されたものであろう。

このような独特の美しさを持つ日本古来の音楽を、西洋の楽器で表現することは、根本的には無謀と言えるのかもしれない。
ギターでも五音音階陰旋法によるオリジナルの曲などは極めて少ないし、多くは子守唄や民謡などの編曲ものだ。
ギターでこのような編曲ものを聴くと、まずリズムが西洋の音楽のものなってしまっていることに気付く。

しかしギターやマンドリンオーケストラでこのような音楽を演奏したり、聴くことは決して悪いとは思わないし、曲によっては、それ自体独自の優れた音楽領域を作り上げたと言えるものもある。

今回「五音音階陰旋法」によるギターの曲を録音してみた。
まずは、小船幸次郎氏が教材で作曲した曲。
爪がすり減っているせいか、音が若干かすれてしまっている。

小船幸次郎作曲 五音音階陰旋法練習曲

次は、有名な、横尾幸弘作曲「さくらによる主題と変奏曲」から第3変奏曲。

「さくらによる主題と変奏曲」から第3変奏曲

ポジションが跳躍する箇所があり、意外に難しかった。
本当はもっとちゃんと練習してから録音すべきだけど、いいか。
この第3変奏曲だけ、さくらの旋律を用いていない。
わらべ歌の「とうりゃんせ」の一部分がモチーフになっているのではないか。
この「さくらによる主題と変奏曲」を録音に取り上げたのは、ジョン・ウィリアムスであったが、1980年代に2回目の録音をしたときには、この第3変奏を外してしまった。
この第3変奏こそ、この変奏曲の中で最も日本の情感が染みわたるように伝わってくる曲なのに。



これから自分の演奏の録音も記事にあげていこうと思う。
ギター弾きなのに、他人の演奏の感想だけだとなんかそれでいいのか、という気持ちがするからだ。

あとはいつになるかわからないけど、篠笛を始めてみたい。
「皇女和宮」の冒頭に出てくる、あの美しい旋律を篠笛で吹ければいいな。
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