足、撮らせてくれない？

会社帰り。
とぼとぼ歩く私に声をかける人物が。
スクーターに乗ってきて、私の横に停車したその人は、私にこう言った。
「ねえ。お金欲しいよね？」

ヘルメットのガラスの部分で、目を隠している。
唯一露出した口が、不気味なほど貧相だった。

「金銭への欲求があるから皆働くんじゃないでしょうか。勿論、それだけが目的じゃない人もいるでしょうが。労働意識は皆それぞれで…」

「そういうんじゃなくて…。」
貧相な口によって吐き出された言葉は、私の話を容易に遮った。

「あのね。足、撮らせてくれない？」

ああ、そういうことか。

特定の部位を見たり触れたりすることで、欲求を解消する人だったのね。
もしくは、その画像を第三者に売買したりする人かもしれない。
この人は。

「それは、サイドビジネスですね。私は会社員ですので、そういうことは社内の規定違反に当たるのですよ。ですから…」

「そういうんじゃなくて…。」

ああ、この台詞、なんだかムカムカする。
人の話を最後まで聞けよ。
「そういうんじゃなくて…。」の「そういう」って何なんだよ？
20字以内で答えてみろよ。

「話にならないですね。私、忙しいので。失礼。」
会話継続不可能という判断を下し、去ろうとする私に
「ねえ。そこの隅っこで足だけ撮らせてよ。こんなふうに！」


写メールの画像にはストッキングとサンダルを纏った誰かの足が写っていた。

そこの隅っこ…。
写メール…。
そこの隅っこ…。
写メール…。
そこの隅っこ…。
写メール…。
そこの隅っこ…。
写メール…。

「そこの隅っこ…。」

そして

「写メール…。」

である。



その二つの貧相なシチュエーションは、私の逆鱗に触れるには充分であった。

安く見られたものだ。

貧相な殿方の貧相な欲求を満たすために、私は存在しているのではない。
貧相な場所と貧相な道具によって、金銭を餌に勧誘される覚えなど無い。
金だけ与えれば…という貧相な理由で私をターゲットにするな!!

「私、人妻なんで!!」

もう、こうなったら究極の嘘だ!!
左手の中指にはめていたダイヤリングを即行で薬指にはめ、見せ付けた。
15センチの熊と同棲中なんだけど、この際、あいつの嫁になってやる!!


貧相な男は、
「そうか…」
とブツブツ言いながら去っていった。

おい、そこは否定するべき箇所だYO！
「そうか」って納得すんなYO!
ゴルァ!
待て！

…ああ、ムカツク。