『モーツァルトの台本作者』 (田之倉稔/平凡社新書)
ダ・ポンテの生涯を追った小著ですが、とても面白かった。
成る程、著者も最初はびっくりした、と書いてありますが、あの、モーツァルトの三大オペラの台本を書いたダ・ポンテは、89歳までも長生きし、アメリカ人としてその波乱の生涯を終へてゐた。
彼の人生の中では、一瞬の栄光では勿論あったにせよ、モーツァルトとの時間は名実ともにそれほど長いものではなく、アメリカへ渡って(逃れて?)からの本屋の開設や、大学の教授や、イタリア文化への振興活動の方がよほど長かったやうです。
この本を読むと、人はいったい、生きてきたどの歳月でその充足を味はふのか、といふ哲学を提示させられる。