NHKで、レオン・フライシャーの演奏会を放映してゐました。
レオン・フライシャー? ずゐぶんと昔、確か、セル/クリーグランド管とのベートーヴェンのピアノ協奏曲の録音を聴いたことがありましたが、すでに引退をされたものと思ってゐました。
が、否、右手の難病のために活動中止を余儀なくされ、左手での演奏や後進の指導で活躍されてゐたとのこと。
近年その右手が回復されつつあり、積極的な演奏活動が再開されてゐたといふ。
ことしの10月、東京での演奏会の模様でしたが、感動的でした。
前半のプログラムのバッハが素晴しい!!
あんなバッハは滅多に聴かれない。
すでに曲はバッハの時代を離れ、バッハの手元からも離れ、レオン・フライシャーの指先からのみ紡ぎだされてゐる!
一曲めのコラール「羊たちは安らかに草を喰み」の、なんと心安らかな演奏か!
フーガも見事で、前半のクライマックスは「シャコンヌ」。ブラームスが最愛の人クララ・シューマンのために編曲したヴァージョンだといふ。クララが手を傷めてゐたときのために編曲したものらしい。
左手のみの演奏で、少しくすんだ曲想になってゐましたが、面白いものでした。
(それにしても、この「シャコンヌ」といふ楽章は、周知のやうに無伴奏パルティータ第2番の最終楽章、なんと壮大な世界を内に秘めてゐることか! 生きる意志や死ぬる覚悟、希望と絶望、憧れと諦め、悔恨と復興、etc)
後半は、シューベルトの最後のソナタ21番。
大河の源流の一滴が落ちるやうに始まったその演奏は、80歳といふ高齢とその朴訥とした演奏技巧を遙かに凌駕して、まったくこころに沁みてくる演奏でした。
まさに、巨人ここにあり、の演奏です。