rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

新しい診療報酬改定(平成26年度)で医療は良くなるか

2014-03-28 20:34:48 | 医療

一般の健康な国民、或は患者さんであっても殆ど興味がない問題と思いますが、2年ごとに変更される診療報酬改定は日本の医療が国民皆保険制度という安定市場と統制価格という特殊な経済構造で成り立っていることから、各医療機関や支払い側の保険者にとっては死活的に重要な問題になります。1%の変更でももともと低い利益率で算出された価格で医療費が算定されているので、黒字ぎりぎりから赤字転落といった事態がすぐに起こってきます。

 

医療者側としては赤字でもつぶれない公立施設を除いて、赤字になるようであれば営業態様を変える、例えば急性期対応病院を療養型に変えるといった対応を迫られます。厚労省としては医療者側がこの対応変化をすることを見込んで診療報酬を決めている訳ですが、利用する国民の側への説明や説得といった事は省かれ、ニュースなどでも取り上げられる事は少ないのが現実です。

 

前回の平成24年度の改訂では、民主党政権下という影響もあった可能性がありますが、診療報酬は全体としては上昇、特に救急や小児、外科系の病院医療への報酬が篤くなったのは非常に良い内容でした。といっても病院勤務の外科医である私の個人的給与はびた一文上がってません。外科手術の報酬が上がったことで、医療機材や手術室の人件費などへの手当が充当されたこと、同じ仕事をしても科別の売り上げが上昇したことでデータ上の病院への貢献があがり、職員や医師の定数充足を要求しやすくなった、という恩恵があったのです。

 

さて、今回の改訂ですが、その基本的な考え方は社会保障制度改革国民会議の答申などで公開されています。難しい言い回しがなされていますが、要は

 

「現状の医療費を上げずに、配分調整でニーズに会わせたい」

「病院、医療者側が改訂に沿って生きていけるように態様を変えなさい」

「患者は死ぬような病気は大きな病院で診てもらえるけど、後は地元の開業医にかかりなさい。なんでも便利な大病院といった贅沢は言わない事」

という内容に尽きるでしょう。

 

全体の改定率は +0.10% というこの厳しい予算の時代に大盤振る舞いで、ちゃんと消費税8%にも対応できるようにした、との事。ただ上記の配分調整がかなりドラスティックに改訂されて、「地域包括ケアシステム」という地域毎に高度急性期を担う病院から在宅や介護を中心とする医療まで医療機関が機能分化をした上で住み分けて行くように報酬が設定されている事が特徴のようです。

 

例えば現在7:1看護という患者7名に看護師1名が配置されている病院は入院医療費が高く設定されているのですが、それが全国で35万床もあるのですが、2025年には18万床に半減することを目指しています。そのために7:1で設定できる医療のニーズを厳しくして、単に看護師がいればよいというだけでは認定できない内容になりました。7:1を取るために全国で看護師の取り合いが起こってしまった反省に基づいています。この事は高コスト体質の医療が改善されるから良い事であるように感ずるかもしれませんが、患者あたりの看護師数を減らさざる得なくなった場合には、今後消滅していた「付添婦制度」のようなものを復活させる必要が生ずるでしょう。これは当然患者側の負担になります。昭和50年代くらいまでは家族が付き添えない重症患者さんには職業的な「付き添いさん」を雇う制度があって、当時でも一日数千円から一万円の費用がかかったものでした。その後厚労省は完全看護を目指してこの制度をなくし、患者を病院に任せたきりで誰も家族が患者の世話をしなくて良い制度になったのですが、下の世話も全て看護師の仕事になって看護師の仕事が重労働化し、患者がベッドから落ちても病院の責任だなどと言われるようになってしまいました。

 

今回「地域包括ケアシステム」とつかみ所のない名前になっていますが、要は在宅医療の増進、入院の抑制が主眼であって、「家で見きれないから入院させて」という希望(大学病院にもけっこう多い)で入院させることは禁止、家で見きれなければ自費で介護施設に入れてください。という内容です。

 

独居老人問題、老老介護問題、若い人達が仕事のない田舎からいなくなる問題など、これらが解決することはないでしょうから、現実には今後種々のしわ寄せが病気がちの高齢者達に向かうことは間違いないのですがこういった問題を完全に解決した社会は古今東西ないのですから、「いままで日本の高齢者達が比較的手厚い医療を受けて来た事を歴史的な幸いとして後世に伝えて行くしかないのでは」と最近は考えています。

 

今回の改訂で「厳しい急性期医療」を真摯に行うところにはそれなりに手厚い増収(例えば休日に緊急手術をすると点数が2.6倍)になるなど医療の機能分化に対して本気度を見せている所もあります。私などが役人さんの仕事を評価するというのはおこがましいですが、基本理念に基づいてけっこう良く練られた改訂かもしれないと感じています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする