rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

大きな政府と国民の矜持

2012-02-08 22:48:29 | 社会

仕事の付き合いでデンマーク人のビジネスマンと食事を供にしました。何でもデンマーク王室の遠戚にあたる高貴な家柄の方と後から聞きました。震災後デンマーク皇太子が来日して大使館でレセプションが行われた際にも招待されて「あれ、君も日本にいたの?」と皇太子から言われたとか。私は学会で10年ほど前にコペンハーゲンに行った事があり、多少土地柄などに通じていたのでお互いの社会についての話題に花が咲きました。

 

デンマークは小さな国ですが(所領のグリーンランドは大きいと言っても人は住めませんからと言ってました)人口600万位、山もないので一人当たりの土地面積はかなり広いものです。農業が中心ですが、世界一の海運業と大きな医薬品会社もあり、家具などの製造業も盛んです。「デンマークには貧しい人はいません、大富豪も少ないのですが、基本的に国民の暮らしは豊かです。」と言います。所謂、税の高負担による高福祉という北欧型といわれる成熟した社会の典型と言えます。

 

所得税は60%、消費税は25%(食品などの例外もなし)、自動車取得税に至っては333%と本来の自動車の定価の3倍の税金が取られるそうです。BMWやベンツなど買おうものなら家が立つ程の金が必要と言うことでした。今日本では消費税を5%から10%に上げようというので大問題になっているという話しをして、何故デンマークでは働いた賃金の7割が税金に取られても平気なのか、もっと金持ちに成りたいという国民はいないのか、聞いて見ました。

 

デンマークでは教育や医療に金がかからないし、人生において金を貯めておくことが必要になる事態があまりないから個人として金持ちになりたいという強い欲望が湧いてこない。但し国民性として勤勉で「良く働く」ことにプライドを持っているし、労働に対しては高い賃金を払う(その多くが税になることをむしろ目論んだ上で)ことを社会として当たり前と考えている、という答えでした。

 

この「良く働く」ことにプライドを持っている、高い賃金を払うことを社会として当たり前と考えている、という所が大事で、他の欧州諸国でも問題になっているようにデンマークでも中東諸国からの移民流入が大きな問題になっているそうです。彼らの多くは「良く働く」ことには関心がないけれども「高福祉」はしっかり求めようとするからどうしても一般の国民から反発が出てしまう、ということでした。

 

そういった考えを突き詰めてゆくと昨年銃の乱射が起こったネオナチズムなどの台頭につながっていってしまうので、彼としても言葉を選んだような話し方でしたが、高負担、高福祉の豊かな社会を維持してゆくには勤勉な国民性と労働者への高い対価が必要というのは共通の認識でした。デンマークは欧州諸国の中でもユーロを導入せず、クローネを維持しています。グローバリズムの嵐に晒されたユーロ圏諸国は、自国の通貨が高いために労働に対する対価を下げざるを得ず、結果労働者の賃金が下って益々不況になり、PIIGS諸国の国債を支えるために独仏の税金が使われて財政赤字が増えるといった苦境に喘いでいます。

 

日本も社会を構造改革して益々グローバリズムに合わせなければいけないなどという意見が多く、公務員も民間も賃金は下げよう、という意見がある一方で税負担は上げる方向にあり、やっていることに思想的一貫性がないことこの上ない状況です。恐らくグローバリズム導入は小さな政府で勝ち組負け組をはっきりさせたい米国の命令で、増税は官僚の命令だからだろうと思われます。

 

デンマークの20倍近くの国民がいる日本では中負担、中福祉という選択しかないだろうとは思いますが、もっと明確な福祉の限界を示した上で、その福祉を維持できるだけの高賃金を維持する社会を作っていかないと「円」という独自通貨を維持する意味がなくなります。またグローバリズムを推進するTPPは不要、各国別に協定を結ぶ従来のやりかたで良いではないかと改めて思います。

 

話題は逸れますが、今年11月の米大統領選挙に向けて、実は民主党のオバマ政権は「大きな政府」を目指す方向に政策転換させたと言われています。それは共和党の有力候補ロムニー氏らがアメリカ的小さな政府(市場まかせ、ウオール街中心)を打ち出してきているためで、社会主義者というレッテルを敢えて張られても「中間層や貧困層」のための政策を重視し、1%対99%ではないより公正な分配を受けられる雇用を創出することを強く訴えるようになっています。だから雇用と市場を創出するTPP交渉にかける意気込みも生半可でないのです(昨年の米国の輸出は16%延びた由)。

 

今年4月の日本の診療報酬改定では、米国製のロボット手術(3億円、維持費年間2000万円、年間250件使用して一件100万円かければ元が取れる、内容は新しい医療技術は日本人を幸せにするか、参照)器械による前立腺手術が保険適応になる予定で、全国の病院で今年中に100台規模の導入が予定されています。早速米国の輸出拡大と雇用創出に日本は貢献することになります。オバマさん褒めて下さい。

 

話しは戻りますが、「勤勉さ」と「高賃金」が確保されていれば税負担が増えても日本社会は持つと思いますし、国際的信用も維持されて国債が暴落することもないと思います。それには「社会や経済に対するぶれない価値観」が必要です。今の日本にはそれが欠けていると痛感します。北欧の紳士からそのような事を学ぶ一日でした。

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