ビッグ・スターの3枚目のアルバム「3rd」は数奇な運命を辿ったアルバムである。
74年にレコーディングされ75年2月にはテスト・プレス盤まで作成されながら
正式にリリースされたのが78年。14曲という収録曲数こそ同じだがテスト・プレス盤
とは収録曲を数曲入れ替えてのリリースであった。
その後85年の再発の際には「SISTER LOVERS」というタイトルが付けられ、
ジャケットも変わるのだが、何度も繰り返される再発のたびにジャケットや曲順や
曲目が変わるという不思議な盤であった。
私が最初に手にしたのは92年にRYKOからリリースされたCDで曲数は多いものの
ジャケットは気に入らないし、1枚のアルバムとして聴くには曲数が多くてまとまりの
無い盤(編集盤と言った方が良いかも)と思ったものだ。その後「3rd」を手に入れた
のだが、実の処一番落ち着いたのが2011年に出た75年のテスト・プレス盤仕様で
再発されたアナログ盤だったりする。特にA面の曲の並びを大いに気に入ったものだった。
掲載写真は「3rd / SISTER LOVERS」関連の曲を未発表のデモやラフ・ミックス、
オリジナル・アルバムや各種編集盤に散らばっていた曲をまとめ上げた3枚組の
「COMPLETE THIRD」。デモの段階でおそろしく美しい曲の数々に痺れ、エンジニアを
務めたジム・ディッキンスン(プロデューサーでもある)とジョン・フライの二人別々の
ミックス違いに眩暈を感じ、時間はどんどん過ぎていく。
それほど大した出来ではなく、ほんのリハーサル程度の録音であろうT.レックス・
カバーの『BABY STRANGE』のスタジオ録音を聴くことができるなんて・・・。
09年にでた4枚組「KEEP AN EYE ON THE SKY」では73年のライブ・バージョンを
聴くことができたが、スタジオ・リハのようなものでもT.レックス好きには嬉しい
ものである。
それにしても『HOLOCAUST』『KANGA ROO』の儚くも美しいことよ。『JESUS
CHRIST』『THANK YOU FRIENDS』の煌びやかさといったら他に比べる音が無い
のではないだろうか。
3枚のCDの中でディスク3は表向きのクレジットは全20曲の収録で、その全ては
既発盤に収録されていると記されている。しかし、実は21曲目がシークレット・
トラックでそこにはおそらく完成バージョンの『THANK YOU FRIENDS』から
バック・コーラスを含む歌唱とストリングスのみを抜き出した音が収録されている。
曲の終盤で聴くことができる声の震えやブレスの生々しさが面白い。
先に個人的に一番しっくりきたのはテスト・プレス盤仕様のアナログ盤だと書いたが
それは1枚のディスクとして取り上げた場合の話である。ここまで見事に編まれた
3枚組の登場で長年何度も「3rd」を購入した人は本当の意味で人心地つけるのかも
しれない。