私は本やCDを販売する仕事に3年ほど従事したことがある。仕事に就いてひと月も
経たない、とある日の上司との会話で私は当時の我が国のポピュラー・ミュージックの
動向を思い知る。
「ハリー君、日本で一番売れるCDって何か知ってるか?」
唐突な質問に答えることが出来なかった。洋楽や日本のロックのようなものを
少しは聴いていたが、いざ一番売れるのが何か聞かれると答えに窮してしまい、
「井上陽水ですか?」なんて言いそうになったが、言葉を飲みこんでしまった。
「年末商戦、クリスマス商戦を見据えて出される松任谷由実が一番売れるんや、
よお覚えとき。」いやいや、ただの1枚もレコード聴いたことないんですけど。(笑)
実際、私がCD販売の現場にいた88年の「Delight Slight Light KISS 」は
滅茶苦茶売れた。小さなチェーン店が新譜の初回配分或いはバックオーダーをかける
時の枚数なんて知れているのだが、普通の新譜の10~20倍の勢いで売れたのだから
それは衝撃であった。翌89年の「LOVE WARS」然り・・・。
私は絶対にこんなCDは手元に置かないと心に決めた。(笑)
荒井由実のデビュー・アルバムである「ひこうき雲」を名盤と言う人は多い。
その称号は、メロディーや歌詞の冴えよりもキャラメル・ママが紡ぐ芳醇な音に対する
賛辞のように思えるのは私が荒井由実の熱心なファンでないからかもしれない。
いや、やはりメロディーも歌詞も素晴らしいのだ。ただ、後々の妙にディテールに
こだわったように思える歌詞の印象が私の目と耳を曇らせているに過ぎないのかも。
初めて森田童子を聴いた時から20年近く経って、初めて「ひこうき雲」を手にした。
知っている曲は『きっと言える』だけで、その曲は何となく好きだった。
で、冒頭の曲『ひこうき雲』を聴いてひっくり返りそうになる。ああ、やはりここにも
死の匂いがある。空に憧れなんか持てないよ・・・。
あれ、俺がスタジオ・ジブリのアニメーションを苦手にするのもコレが理由か?
飛行機に乗るのが怖いのもコレが理由か?
昨夜から飲み続けながらわけのわからないことを書き続けている。
恋愛ミストレス(そんな言葉はないか)の女の細かい欲求或いは要求につきあって
みたいと思う瞬間が時折訪れるのだが、それは現実に遭遇していないから間抜けにも
そんなことを夢想してしまうのだろう。
かつては「SURF & SNOW」は天敵であった。今はそんなことはない。
どちらにも無縁であることに変わりはないが、私は大人になったのだ。(笑)
それでも88,9年当時に私が抱いた思いは今も頑なに守られている。
だって、私の手元には荒井由実の盤が4枚あるだけなのだから。(笑)