2006年12月にルー・リードが、自身が73年に発表したアルバム
「ベルリン」を全曲ステージで披露したという話は、ちょっとした話題に
なった。「ニュー・ヨーク」以降のルーのステージはその時点での最新作の曲を
立て続けに演奏し、最後に数曲昔のナンバーを演奏するパターンが
とられることがあったのだが、「何で今さら『ベルリン』なの?」というのが
正直な感想で、会場録音のブートレグをダウンロードして聴いても
ピンとくるものはなかった。
その時のステージを撮影したものが映画として公開されるという話を
知ったあたりから、何となく意味合いがわかり始めてきた。
後年、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが認知されるよりも
単体のアルバム「ベルリン」が広く認知されるのに要した時間は長かったこと、
ベルリンは当時の象徴的な都市であったが、今回演奏場所に選ばれたのは
ニュー・ヨークであり、ベルリンを舞台に繰り広げられた愛憎模様は
時間と場所と人を変えて繰り返され続けることを理解すると、なんとなく
映像を早く見たくなってきた。
映画は概ね好評だったように思う。昨年輸入版でDVDも既に出ていたが
今回は国内版を入手した。これは正解だったかもしれない。
アーティストの意向でDVDをプレイヤーにセットしてもいきなり字幕は
出てこないが、まずは歌詞字幕を出して全部を見て次に歌詞を消して
全て見るといいかもしれない。「ベルリン」はそれほど楽しいアルバムでは
ないので、私自身があまり聴きこんでいないせいもあるが、まず復習を
済ませもう一度見ると想像力が拡がる気がした。
演奏は完璧だろう。昔から知るリズム隊にスティーブ・ハンターがギターで
加わり、ブルックリン・ユース・コーラスとアントニーが曲を彩り、
多数の弦楽奏者に管楽器奏者が膨らみを持ったアレンジを可能にした。
ハンターとルーのギターの絡みは今でも有効で、リズムを刻むハンターの
カッティングには痺れるし、ルーの決して覚えやすくはないメロディーの
ギター・ソロはその痺れを増幅させる。
バンドの演奏進行に合わせて、アルバムに登場する「キャロライン」を
軸にした映像が挟まれるのが想像力を膨らませる。決して説明的な
解りやすい映像ではないが、主人公の「顔」が浮かんだ方が物語に
入り込みやすいのは間違いない。
撮影監督はエレン・クラス。ここ数年で関わった作品はニール・
ヤングの「ハート・オブ・ゴールド」やストーンズの「シャイン・ア・ライト」
ということで、彼女の名前は気に留めておく必要がある。
「ベルリン」の全曲を演奏した後にアントニーが歌う「CANDY SAYS」が
演奏され、次に「エクスタシー」収録の「ROCK MINUET」が演奏される。
後者は監督のジュリアン・シュナーベルたっての希望だったことが
特典映像で明かされる。前者はルーの希望だろう。
アントニーが歌い終わるとルーの顔が大写しになるのだが、ルー自身が
感動し完全に満足したような表情が伺える。「ベルリン」の題材となった
性や愛の暗い葛藤はまだ続いているという意味合いが「ROCK MINUET」から
感じたのは私だけではないだろう。
私は平凡な人間である。つまらない欲望は人一倍あるが、できれば平穏な
生活で全てを終わりたい。所謂「不徳の致すところ」というスリルやドラマが
あるかもしれないが、そんなものは無くてもいい。ただ好むと好まざると
運命の悪戯が人を不幸に巻き込む。不幸の尺度もまちまちだろうし
余計なお世話だが、この映画に参加したコーラスの女の子達が各人の望む
レベルで幸せな恋愛をすればいいなとも思った。
最後に「SWEET JANE」が演奏される。
”かつて役を演じた者は、それを恨みはしない”
この一節で全てが救われるような気がする・・・。
「ベルリン」を全曲ステージで披露したという話は、ちょっとした話題に
なった。「ニュー・ヨーク」以降のルーのステージはその時点での最新作の曲を
立て続けに演奏し、最後に数曲昔のナンバーを演奏するパターンが
とられることがあったのだが、「何で今さら『ベルリン』なの?」というのが
正直な感想で、会場録音のブートレグをダウンロードして聴いても
ピンとくるものはなかった。
その時のステージを撮影したものが映画として公開されるという話を
知ったあたりから、何となく意味合いがわかり始めてきた。
後年、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが認知されるよりも
単体のアルバム「ベルリン」が広く認知されるのに要した時間は長かったこと、
ベルリンは当時の象徴的な都市であったが、今回演奏場所に選ばれたのは
ニュー・ヨークであり、ベルリンを舞台に繰り広げられた愛憎模様は
時間と場所と人を変えて繰り返され続けることを理解すると、なんとなく
映像を早く見たくなってきた。
映画は概ね好評だったように思う。昨年輸入版でDVDも既に出ていたが
今回は国内版を入手した。これは正解だったかもしれない。
アーティストの意向でDVDをプレイヤーにセットしてもいきなり字幕は
出てこないが、まずは歌詞字幕を出して全部を見て次に歌詞を消して
全て見るといいかもしれない。「ベルリン」はそれほど楽しいアルバムでは
ないので、私自身があまり聴きこんでいないせいもあるが、まず復習を
済ませもう一度見ると想像力が拡がる気がした。
演奏は完璧だろう。昔から知るリズム隊にスティーブ・ハンターがギターで
加わり、ブルックリン・ユース・コーラスとアントニーが曲を彩り、
多数の弦楽奏者に管楽器奏者が膨らみを持ったアレンジを可能にした。
ハンターとルーのギターの絡みは今でも有効で、リズムを刻むハンターの
カッティングには痺れるし、ルーの決して覚えやすくはないメロディーの
ギター・ソロはその痺れを増幅させる。
バンドの演奏進行に合わせて、アルバムに登場する「キャロライン」を
軸にした映像が挟まれるのが想像力を膨らませる。決して説明的な
解りやすい映像ではないが、主人公の「顔」が浮かんだ方が物語に
入り込みやすいのは間違いない。
撮影監督はエレン・クラス。ここ数年で関わった作品はニール・
ヤングの「ハート・オブ・ゴールド」やストーンズの「シャイン・ア・ライト」
ということで、彼女の名前は気に留めておく必要がある。
「ベルリン」の全曲を演奏した後にアントニーが歌う「CANDY SAYS」が
演奏され、次に「エクスタシー」収録の「ROCK MINUET」が演奏される。
後者は監督のジュリアン・シュナーベルたっての希望だったことが
特典映像で明かされる。前者はルーの希望だろう。
アントニーが歌い終わるとルーの顔が大写しになるのだが、ルー自身が
感動し完全に満足したような表情が伺える。「ベルリン」の題材となった
性や愛の暗い葛藤はまだ続いているという意味合いが「ROCK MINUET」から
感じたのは私だけではないだろう。
私は平凡な人間である。つまらない欲望は人一倍あるが、できれば平穏な
生活で全てを終わりたい。所謂「不徳の致すところ」というスリルやドラマが
あるかもしれないが、そんなものは無くてもいい。ただ好むと好まざると
運命の悪戯が人を不幸に巻き込む。不幸の尺度もまちまちだろうし
余計なお世話だが、この映画に参加したコーラスの女の子達が各人の望む
レベルで幸せな恋愛をすればいいなとも思った。
最後に「SWEET JANE」が演奏される。
”かつて役を演じた者は、それを恨みはしない”
この一節で全てが救われるような気がする・・・。