ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/01/29 いのうえmeetsシェイクスピア「リチャード三世」大成功!

2009-02-06 23:59:25 | 観劇

「リチャード三世」の舞台は、蜷川幸雄演出・市村正親主演の初演と再演、翻案の2007年6月、野村萬斎主演の「国盗人」を観た。
ウィキペディアの「リチャード三世」の項はこちら
「稀代の怪優・古田新太の真骨頂のピカレスク!」を売りにした今回の公演はチラシが気持ち悪すぎてパス!しかしながらせっかくお声をかけてもらった1/29(木)公演に馳せ参じると収録用のVTRカメラが入り、勘三郎も観劇していた。

いのうえmeetsシェイクスピアと銘打ったこの公演、予想以上に面白かった!
演出:いのうえひでのり
配役は以下の通り。
<ヨーク家>
エドワード四世:ヨーク家の王=久保酎吉
ジョージ(クラレンス公):王の弟=若松武史
リチャード(グロスター公):王の弟=古田新太
皇太后(3兄弟の母)=三田和代
エリザベス:エドワード四世王妃=久世星佳
リヴァース伯役:王妃の弟=天宮 良
ドーセット侯:王妃の連れ子=森本亮治
バッキンガム公=大森博史 ヘイスティングズ卿=山本 亨
スタンリー卿:リッチモンドの義理の父=榎木孝明
ケイツビー=増沢望 ラトクリフ=西川忠志
<ランカスター家>
マーガレット:先王ヘンリー六世の未亡人=銀粉蝶
アン:先王の王子エドワードの未亡人、のちにリチャードの妻=安田成美
リッチモンド伯=川久保拓司
逆木圭一郎、河野まさと、村木 仁、礒野慎吾、吉田メタル、川原正嗣、藤家 剛

舞台には「SHIROH」の時のようなモニター画面がたくさん並んでいる。そこにはこの物語の初心者向けの解説が流れて、ようやく大音量で物語スタート。
舞台が明るくなると黒々とした地下室のような舞台装置にポップな衣裳で古田リチャード登場。顔のメイクもチラシと全く違ってTVドラマ「夢をかなえるゾウ」のガネーシャ役の顔をもう少しコワくした感じでただ右半分を痣のように赤く塗っている。髪も七三分けの長めのストレートヘア。注目の冒頭の独白をどうくるか?えっ、ガマ口状のポケットからマイク出して淡々としゃべるの?音声認識記録装置でひろわれて画面に文字が出てくるの?確かにシェイクスピア劇には独白が多い。舞台に別の人物がいるのに大きな声でしゃべっているのに独白だという約束事に慣れない観客にも親切だ。このアイデアにまいった、まいりましたm(_ _)m
モニター画面はTVにもなり「EGK」=架空の国営放送(笑)「LIVE」の文字が反転しながらの中継画面はカメラやマイクを持った取材クルーが舞台を走り回っていることと連動している(ように見えるだけかもしれないが)。ミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」で磔刑の場に向かうジーザスにマイクが向けられる演出の延長線上にぶっとんでいる!!

地下室への登場退場はエレベーター使用だし、現代のテクノロジーを駆使した演出
なのに、次々に現れる出演者の衣裳、髪型は1960年代のロックバンドのイメージ。ビートルズみたいなおかっぱ頭とかLP盤を飾っていたポップな明るい衣裳とかクラレンス公の若松武史は忌野清志郎に見えて仕方がない。バッキンガム公はバッキンガム宮殿の衛兵のような赤い衣裳で黒い大きな帽子みたいな鬘をかぶってさえいる。
時代設定の統一感も何もぶっとんでいるのに、ちゃんとシェイクスピアの台詞をしゃべっているのだ!これは「なんちゃってシェイクスピア」の舞台ではない。

蜷川「リチャード三世」ではマーガレットで呪いの言葉のインパクトが弱かったことがキャスティングの穴だった。マーガレットの呪いが成就するドラマなのでここのキャスティングが大事なのだが今回の銀粉蝶がとにかく素晴らしい。「リア王」のゴネリルでよかったから期待していたのでそれに違わぬ凄い迫力だった。ここでドラマの骨格の一本がしっかり通った。

それと今回特に心に残ったのはリチャードと母の関係。生まれつきの醜さと不具というだけで自分の産んだ子どもをこんなに忌み嫌うものだろうかというのが彼女への疑問だった。今回、三田和代の母とのやりとりも場面で古田リチャードが一瞬見せた拗ねた表情を見せた(ガネーシャが押入れに入って泣いていた時のような顔)時、この母子関係のイメージが突然湧いてしまった。子どもは乳母が育てたのだろうし子どもとの距離感がある母はたまに会うと自分の子どもと認めたくない気持ちから忌み嫌ったのだろうし、母親から疎まれたリチャードの心が歪んでいったのではないかという気がしてしまったのだ。それでもフッとみせた母の愛情が手に入らなかった哀しみを一瞬見せたことからリチャードの悪漢ぶりは人間離れしたものではなく、実に血の通った人間臭いものになった。
割り切って悪党宣言して陰謀をめぐらせて王位を簒奪することを生きる目標にしたリチャード。その王位に着いた時の滑稽な服装がそこで目標を見失ったことを象徴しているような気がした。金ぴかのエリマキトカゲのようだし、毛皮を継ぎ接ぎしてたっぷり使っているのが蜷川「リア王」のパロディかとも(笑)バッキンガムをつなぎとめておかないのも浅はかだし、最後の台詞の「馬をくれれば俺の王国をやるぞ」がその最大の証拠だ。

蜷川初演でアンを演じた久世星佳だが、今回はエリザベス役ではじけていたのがよかった。女優陣で彼女だけがパンツスーツ。派手なデザインのスカーフを継ぎ接ぎにしたマントを翻して動き回る動き回る。彼女の変わり身の早さがまた一つのドラマの柱になっていて、ランカスター家からヨーク家へ最後はまたランカスター家について世渡りをしていく逞しさ。娘をリチャードにやると約束したのは見せかけだったのか、ギリギリで翻意した結果リッチモンドにやったのかは変わり身の早い女のことだからどっちにも解釈できるということなのだろうか。
それにしても戦の陣営に娘を既に送り込んでいるという演出は初めて見てちょっと驚いた。まぁこれもありだと思うが。
そのリッチモンド伯の川久保拓司がとにかくイケメンでかっこいいと思ったらウルトラマン役者だったのでガッテン。最後の陣営でのアジテーションのEGK中継で画面に「Change! Yes,I can!」と出たのには笑えた。
その義理の父のスタンリー卿の榎木孝明もおかっぱ頭なのにやっぱりカッコイイ。三田和代とふたりだけ衣裳が他のメンバーに比べるとちょっとだけまともっぽかったのはいのうえひでのりが正統派イメージのおふたりへの敬意の表れだったかもとか推測してしまった。

最後は「弁慶の立ち往生」ならぬ「リチャードの立ち往生」。追い詰めらた壁際に立ったままリッチモンドの自動小銃で連射されて立ったまま死ぬ。勝者のリッチモンドが勝利のアジテーションをするのをライブ中継がされて......でのThe End。

劇団☆新感線ではないPARCOプロデュースで豪華なキャスティングでいのうえひでのりがまともに取り組んだ「リチャード三世」。実に面白くみせてもらって大満足だった。
プログラムを見たら蜷川幸雄、松岡和子もめちゃめちゃ期待していたし、確かにこれからの時代に若い世代に向けてシェイクスピアを本格的かつ魅力的に見せる演出家としていのうえひでのりもスタートしたと私も評価したい。
写真は今回公演の宣伝画像。アン役の安田成美は朝ドラ途中降板で全く評価していなかったが今回の舞台で頑張っていたので少し見直した。アンは気も弱く騙されやすいお馬鹿な女で殺されても仕方がないだろうという役だが、それを美しい透明感をもって演じることができたのは合格だ。

今回もディスプレイに文字を登場させた効果が大きかったと思う。それに関連した記事を以下にリンクしておこう。
「メタルマクベス」の電光掲示板~字幕から画像までの進化を振り返る


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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
母恋しリチャード (スキップ)
2009-02-08 01:21:57
ぴかちゅうさま
古田新太のリチャード三世、もっと悪役ギラギラに
なるかと想像していたのですが、母の愛を求めて
人間味たっぷりでしたね。
ガネーシャの表情とは結びつきませんでしたが、
なるほどあの押入れの場面の泣き顔をつながるもの
がありました(笑)。
カメラが入っていたということは、DVDになりますね。
楽しみです♪
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Unknown (ありす)
2009-02-13 23:33:19
見て頂いて本当によかったです。こんな素晴らしい感想になり、とてもうれしいです。
三田和代さん、銀粉蝶さん、久世星佳さんがシェイクスピアの台詞を気持ちよく語ってくれたのに対して、総じて男優陣は台詞をいうのにいっぱいいっぱいだったように私は感じました。
双眼鏡を忘れて、モニターに何が書かれているのかよく見えず残念でした。DVDなどの映像になれば、モニターが画面いっぱいに映し出され、問題ないということでしょう。舞台でなら、センターに大きめスクリーンに出してほしかったです。視覚的にはあの散らばり方でいいのですが。
後、双眼鏡がなく大失敗だったのは、安田成美さんをはっきり認識できなかったことです。
冒頭の独白は音声入力しているんですよね。現在のツールでは独白はブログ?日記?みたいにパソコン上に残るのかなと思いました。
ポップな衣装、私は榎木さんはあまり似合っていたとは思いませんでした。甲冑つけてからはカッコよかったですが。若松さんは合ってましたね。
衣装はポップで◯、地下室のセットはメカニックで凝っていて好き、場面場面を繋ぐロックな音楽もいい感じでした。
ただ1幕は、それはそれでうまいのですが、特に銀粉蝶さんの台詞まわしなどオーソドックスで、この雰囲気からイメージされる演出からすると、少し長く感じてしまいました。だから、1幕終わりから2幕はイメージどおりコミカルになったので、短く感じました。
久世さんがノビノビ演じていて見ていて気持ちよかったし、古田さんとの駆引きの場面、今までここまでエリザベス役に比重があるのをみたことがなかったので、非常におもしろくみれました。
今まで見たリチャードの中で古田リチャードは1番醜く見えませんでした。背中の瘤も傴というほどでもなく、ビッコというより少し脚を引きずっている程度で。いつもの切返しの素晴らしい演技に慣れているせいか、逆にリチャードは、表裏のある人物に役作りされているように感じませんでした。そのせいで、台詞を言うのがいっぱいいっぱいと感じたのかもしれません。
おもしろいリチャード三世でしたが、おけぴでさばきが多かったのもなんとなくわかる作品でもありました。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2009-02-14 00:27:42
★「地獄ごくらくdiary」のスキップ様
いやぁ、褒めちぎってしまいました。蜷川さんも松岡さんも期待するのがよくわかりました。
蜷川さんの初演と再演を観て気がつかなかったところも古田リチャードの何気ないしぐさで一気にイメージが広がって嬉しかったです。特に母子関係のあたりですね。ガネーシャの拗ね拗ねポーズみたいな表情で一気にイメージが湧いたんです。ただのピカレスクドラマじゃなかったことに気づいてますますシェイクスピアって凄いって思わされたし、これはいのうえさんの手柄でもありますね。
>カメラが入っていた......まずはゲキ×シネだと思っています。そうなったら娘と一緒に観る約束をもうとりつけています!
★ありす様
このたびは本当に有難うございましたm(_ _)m
モニターに何と書かれているかはあまり気にせずに見ていました。文字が流れたりロンドン塔内の惨劇の映像が流れたり、なんとなくわかればいいって感じだと思います。
あのポップな衣装は似合っていた人とミスマッチ感が面白かった人がいて、榎さんは後者ですね。ビートルズのリンゴみたいなヘアでした。真面目な顔をして携帯電話で義理の息子と連絡している姿も榎さんだからこそのミスマッチ感がよかったです。
>今までここまでエリザベス役に比重があるのをみたことがなかった......蜷川さんの初演再演でもここまでではなかったですよね。変わり身の早いエリザベスこそが最後に笑うものだったという描き方だったようにも思えます。
>台詞を言うのがいっぱいいっぱい......それはいのうえさんも危惧していて、これ以上後になると古田の台詞覚えが心配というようなことをプログラムで書いてました。稽古場で古田さんが台詞をカットしてよと泣きついたとかも書いてありましたが、それは誇張かもしれません(笑)
重厚なシェイクスピア劇のイメージから一度ポーンと離れられないと楽しめない人もいるでしょうし、劇団☆新感線ではいつもある笑いをとる遊びの場面をこれにも期待した人にも楽しめなかっでしょう。そのへんも劇団☆新感線贔屓に多いリピート族がリピートしてくれなかったんじゃないかと推測しています。
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Unknown (恭穂)
2009-02-22 22:29:28
ぴかちゅうさん、こんばんは!
古田さんのリチャード、
斜に構えた拗ねた子供みたいだなあ、と思ったのですが、
ぴかちゅうさんの母子関係の考察を読ませていただいて、
ああ、そうなのか、と納得しました。
ジャンク・フードなシェイクスピアに乗り切れず、
深く観ることができなかったのが残念です。
ゲキ×シネ化されたら、私ももう一度観てみようと思います。
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続・皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2009-02-22 23:14:01
★「瓔珞の音」の恭穂さま
母子関係の考察に共感いただいて嬉しいです。
いのうえいでのりさんとシェイクスピアの関わりの本格的スタートは日本劇団協議会主催の「天保十二年のシェイクスピア」からのようで、ちょうど木挽堂書店で買ってきて今ちょうど読み始めた『旬の演劇をつくる10人 インタビュー集(シアター・ナウ2)』にいのうえさんが登場しているページにあって面白く読んでいます。http://www.adzki.co.jp/engi/071.htm
ゲキ×シネ化されたら私も絶対観ます。シネマ歌舞伎も近くのMOVIXさいたま新都心でやってくれるようになったのでゲキ×シネも是非そうなって欲しいと思っているのですが、それって虫のいいこと考えてるって言われてしまうでしょうか(^^ゞ
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5/23にWOWWOWで放送されます (秋津羽)
2009-05-02 16:33:06
ぴかちゅうさん、こんにちは。以前、2年近く前になりますが、「国盗人」の記事でリンク&TB&コメントいただきました秋津羽です。ご無沙汰しております。
今回もレビューを楽しく読ませていただきました。
ご存じかもしれませんが、5/23(土)にWOWWOWで、古田氏主演のリチャード三世が放送されます。1/29赤坂ACTシアターの公演ということで、ぴかちゅうさんのご覧になった公演ですね。拙ブログでこちらの記事をご紹介させていただきましたので、ご報告させていただきます。放送、楽しみです。
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続続・皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2009-05-03 22:42:16

★「白い猪亭 真実のリチャードを探して」の秋津羽さま
「国盗人」の時は秋津羽さまの記事を紹介させていただきましたが、今回は拙ブログの記事を2本ご紹介いただき、両方にTBもいただいて本当に有難うございましたm(_ _)m
そしてWOWWOWで放送という情報も有難うございます。残念ながら我が家は契約していないので観ることはできませんが、何かの機会に観ることができればいいなぁと思っております。
今年は10月に国立劇場でシェイクスピアの「リチャード三世」の前の方にあたる作品「ヘンリー六世」が上演があるので気になっています。大作で頑張れるかなぁとと思いつつ。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
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