歌舞伎座で玉三郎監修の「夜叉ヶ池」を二回観て、今回の花組芝居版を楽しみにしていたが、青山円形劇場デビューということで簡単報告だけアップしてあった。
2008年7月の歌舞伎座の「夜叉ヶ池」
2006年7月の歌舞伎座の「夜叉ヶ池」
【泉鏡花 夜叉ケ池】
今回はダブルキャストによる上演だったが、一度しか観る予算はないので(笑)加納幸和の白雪・小林大介の晃の那河岸屋組の公演にして山下禎啓の白雪・水下きよしの晃の武蔵屋組の方は見送った。
●原作:泉鏡花 ●構成・演出:加納幸和
●この日の主な配役は以下の通り。
萩原晃=小林大介 百合=二瓶拓也
山沢学円=秋葉陽司 白雪姫=加納幸和
湯尾峠の万年姥=谷山知宏 白男の鯉七=美斉津恵友
大蟹五郎=大井靖彦 木の芽峠の山椿=嶋倉雷象
黒和尚鯰入=丸川敬之 穴隈鉱蔵=溝口健二
鹿見宅膳=北沢洋 権藤管八=横道毅
斎田初雄各務立基 畑上嘉伝次=磯村智彦
●この日のゲスト/与十(鹿見村百姓)伝吉(博徒)=陰山泰
円形劇場の丸い舞台の上に割れた釣鐘が展示してある。そこに山沢学円が登場して釣鐘が吊り上げられると中に晃と百合がいるという始まり方で、歌舞伎座で見たような晃と百合の会話の場面は省かれている。白髪の鬘をつけているというあたりも省略。なるほどいろいろと手を入れているから加納幸和が構成ということになるのかとガッテン。
晃と百合と学円の会話の中に早くもいろいろと笑いをとるコネタが入っている。眷属が出てきてからは楽しいという話を聞いていたが、こういう場面からこんなにコメディにしてしまうのかと、泉鏡花ものはひたすら耽美というイメージから外れるのでちょっと意外だと驚く。
眷属登場でさらに引く。鯉七のピカピカのボディにフィットした鱗だらけスーツはまだしも、大蟹五郎の赤いモジャモジャヘアとマクドナルドの赤いドタ靴は許容範囲外。この二人はピエロ風。万年姥と山椿は特に違和感なし。その他大勢の眷属たちは中に人間がいつつ極端につくったお化けちゃん風でちょっとシラケる。
村のその他大勢を表すお人形はまぁ大丈夫だったかな。やっぱりピエロ風が私の泉鏡花ワールドのイメージから大きくかけ離れていて違和感あり。
加納幸和の白雪が登場すると、初めてお姫様衣裳の加納を観ることができたという満足感が打ち勝つ。お姫様といってもしっかりオバサン白雪なんだけど貫禄たっぷりの姿を堪能させてもらう。芝居進行中は吊り上げられている鐘を怨んでにらむ所作も入っている。鐘の戒めで恋しい人のところに飛んでいけないから怨むという意味を込めてはいるのだろうが、しっかり「娘道成寺」の花子のイメージも重ねているわけでオイシイ場面となっている。
眷族たちもしっかり仕切られて小劇団風のノリノリ場面となると、客席から4人ほど舞台に上げられて名前を聞いたりやりとりをしたりするお遊びコーナー。「泉鏡花 夜叉ケ池 観劇記念」と書かれた横幕を持ってデジカメで記念撮影まであり。いかにもそれらしい盛り上がりを楽しく見せてもらった。面白く楽しいのだが私的にはそこまで一緒に盛り上がれなくて観察者の目で拝見。
百合の子守唄の歌詞カードも客席に配られて一緒に歌いましょうの演出もあってしっかりカードはいただいてきた。
実は「KANADEHON 忠臣蔵」、「怪談牡丹燈籠」と花組芝居を続けて観てきた中で、立役の小林大介はなかなかいいぞと思ってきたので、今回の晃にも期待していた。華族の家柄の御曹司にはちょっと見えなかったが、まぁこんなもんでしょう。こう見比べてしまうと歌舞伎で頑張っていた段治郎はやはり華族出身者に見えたなぁとあらためて見直した。
二瓶拓也は坊屋が屋号でぼうやぼうやした雰囲気で前出2作品でも出ていた記憶があるが、今回は大抜擢の百合。まぁ頑張っていたということでいいんじゃないかという感じ。
キャスト的にはとにかく、加納幸和の白雪の白いお姫様衣裳をたっぷり堪能したのが一番の収穫。それにゲストの陰山泰の博徒が白いコートの殺し屋風で出てきたのには爆笑だった。アントニオなんとか伝吉とかラテン風の名前を言ってたし、自分が出る次の芝居の宣伝をしっかりしていた。ゲストってこんな笑いをとる存在なのね。
百合と晃の悲劇の後、鐘が鳴らされずに大洪水になり、人間が水の中の生き物に姿を変えて泳いでいるというあたりは円形の舞台を輪になって盆踊りのように踊るというこれまた趣向のきいた演出。
鐘も水に飲み込まれて沈んだということで割れ鐘がもとの位置に下り、生き残った学円だけが鐘の方をじっと見つめ、登場してきた扉から去っていく。その反対側の上方には満月が見下ろすだけという終り方。円形劇場の幕もない芝居の締めくくりというのも初めてだったので新鮮だった。
初めての花組芝居「泉鏡花の夜叉ケ池」は楽しかったし面白かった。しかしながら泉鏡花の世界としてはどうにも私のイメージからは遠かった。まぁもう少し頭を柔らかくして固定イメージにとらわれずに観るといいのだろうけれど。
写真は今回公演のチラシ画像。ダブルキャストの晃の裸の画像がまぶしい?(笑)
次の次の企画予告に出ている6月の「盟三五大切」あたりを要チェックだ。下北沢にある劇場って行ったことがないのでそちらもデビューする機会になるかもしれない。
「泉鏡花 夜叉ケ池」で見つけた原作が読めるサイト
ワタクシは31日の武蔵屋版の方を拝見しました。
加納さんは、いろいろ凝っておられるようですね。初めてのご覧でしたら、大騒ぎの限界がわからなく、お疲れだったとお察しします。
道成寺に見立てるのは正しいのでしょう。しかし、歌舞伎役の演出の方が歌舞伎的なモチーフにこだわりがなくてスッキリしているのがおもしろいですね。
ベテラン勢が揃ってますから。
晃と百合を主役と見るなら、加納さんが目立たない方がいいのかもしれません。
生きた人間と陰である化け物達のメリハリがありました。
鏡花は読めば読むほどたん美というより辛辣な自然派という気がしています。
美しいものというのも昔なら当たり前にあったもののように思っています。
花組芝居は歌舞伎ではないので比べるのも、なんですが段治郎の晃はちょっとなよっとしていて苦手でした。
山で野良仕事をしているのだから、がっちりしてくるんじゃないかなぁと。
山の生活になじんでいるほど、百合と同じ世界に溶け込んでいるのが感じられるてよかったです。
ご無沙汰して申し訳ありません。スキップです。
大阪で「那河岸屋組」「武蔵屋組」両方観ました。
精悍で男っぽくて安定感バツグンの水下晃に対して
小林大介さんの晃は、若さゆえの危さとか脆さ、
苦さのようなものが感じられて好きでした。
・・・といいつつ、あの端正なお顔にヤラレたのかもしれません(笑)。
眷属たちのカーニバルのような衣装と村人たちの
リアルな服装の対比もおもしろいと思いました。
確かに、玉三郎さんの美意識に彩られた鏡花ワールド
とは全く別物でしたけどね~。
花組の世界は好きですけど、時々、「あ、はずれた」って思うこともあるので、好みが分かれるところだと思ってます。
加納ワールドに浸れなかったのが残念でありまする。
>役者と常連ファンだけが満足する小劇団系の疲れるお芝居を装っているが、泉鏡花の原作に忠実に、うつつと幻影の結界を往還するピュアな魂を持った男女の物語を構築しておられる......装っているところを余裕をもって受け止められるかどうかが楽しめるかどうかの鍵のようです。確かに疲れてしまいそうでぐっと距離感をとりながらの観劇でした。
>ディズニーミュージカル「アイーダ」の枠組をパロッている......なるほど!私はそのミュージカルは四季版を観ようと思いつつエルトンジョンのCDも買ったんですけれど、結局未見のままです。そういう楽しみ方もできたんですね。
★paruさま
>鏡花は読めば読むほど耽美というより辛辣な自然派......鏡花の表現は耽美的ではあるけれど辛辣さは私もかなり強く感じます。
まず眷属第2号で登場のマクドナルド風蟹五郎にとにかく馴染めなかったんですよ。ここまでパロってしまうの??って。そこからぐっと距離感を持ってしまいました。
武蔵屋組を観ていないのでベテラン水下さんの晃の元は家族で今は山の野良仕事もする鐘楼守はどんなだったのか気になります。
★「地獄ごくらくdiary」のスキップさま
>玉三郎さんの美意識に彩られた鏡花ワールドとは全く別物......だとは覚悟して観たのですが、あまりにも違いすぎて(笑)加納さんの「道成寺」前シテ風の白雪はめちゃくちゃ楽しめました。
小林大介の晃、二瓶拓也の百合は白髪の場面は絶対無理って断言できそうなほど若いカップルでした。大介さん、けっこう好みです。筋書のポートレイトの喫煙姿はちょっと×だった嫌煙派の私です(笑)
★どら猫さま
関西での公演を体調をくずしてご覧になれなかったとのいう記事を読み、こちらで演出のこともけっこう書いたのでTBさせていただいた次第です。本当に残念でした。歌舞伎のパロディ劇の方が私には合いそうですので、6月の「盟三五大切」が早くも気になっています。
★飾釦さま
私の泉鏡花ワールドのイメージとちょっとずれていたせいかわりと距離感をもった感想になってしまいました。
>「夜叉ケ池」は自然(=妖怪、魑魅魍魎、眷属)の摂理から見た人間の愚かさをテーマとして持っているのであり、それがお祭り騒ぎ的演出で少しぼけてしまっていた......同様な印象を持ちました。泉鏡花はここまでパロディにして欲しくないような気がします。
飾釦さんの記事も以下にご紹介させていただきますm(_ _)mhttp://blog.goo.ne.jp/masamasa_1961/d/20090120