ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

08/09/07 秀山祭昼の部③役者が揃った「逆櫓」

2008-09-13 23:59:59 | 観劇

まず木曽義仲四天王の一人だった樋口兼光について下調べ。
ウィキペディアの項はこちら
源頼朝の命により斬首されたが、義経をはじめとして多くの人から助命嘆願されたほどの武勇誉れ高い人物だったようだ。それならば樋口を主人公にした義太夫狂言ができるのも無理がない。
【ひらかな盛衰記 逆櫓】
以下、あらすじと主な配役を公式サイトよりほぼ引用して書く。
摂津福島に住む松右衛門(吉右衛門)は、婿を亡くした船頭の権四郎(歌六)に入り婿して逆櫓の技術を習得。今回の呼び出しで源義経の乗る船の船頭に任じられた。権四郎は娘のおよし(東蔵)とおよしが先夫との間に儲けた槌松と共に巡礼に出かけたが、騒ぎに巻き込まれて子どもを取り違えられてしまった。取り違えた子を槌松と名乗らせて育て、間違えた方からの連絡を待っている。そこにお筆(芝雀)という女中が現れて権四郎が取り違えた子を返してくれと頼み、本物の槌松の死を告げる。権四郎は松右衛門に槌松の仇を討ってくれと頼むが、松右衛門は態度を一変。
実は松右衛門は木曽義仲の遺臣樋口次郎兼光で、権四郎が取り違えた子こそ義仲の遺児の駒若丸だった。樋口は逆櫓の技術を習得して義経に近付き亡君の仇を晴らそうとこの家に入り婿したのだ(駒若丸だったことは偶然らしい)。
そこへ他の船の船頭たち富蔵(歌昇)、九郎作(錦之助)、又六(染五郎)が、逆櫓の技を習いに来るので、松右衛門は船で海へ出て教える。しかしながらこれは松右衛門の正体を知るための策略で、3人の船頭は梶原景時方についていた。やがて大勢の捕り手に囲まれてしまい立ち回りとなる。松右衛門が手負いとなって駒若丸のもとに戻ってきたところへ権四郎の訴人により畠山重忠(富十郎)が姿を現す。駒若丸を槌松と言って救おうとした権四郎の配慮に拠るものと悟った樋口は、潔く縄に掛かっての幕切れ。

観終わってからのモヤモヤ感・・・・・・同じ頼朝の重臣でも梶原景時と畠山重忠の扱われ方がここまで違うことを突き止めないと腑に落ちない。困った時のウィキペディア頼みだ。
「梶原景時」の項 「畠山重忠」の項
なぁるほど、景時は義経や重忠への讒言をした人物ということで敵役、清廉潔白な畠山重忠は捌き役になるのかと納得。そういえば「阿古屋」の捌き役も畠山重忠(秩父庄司重忠は別名)だった。
大体、「逆櫓論争」というのも景時にあるエピソードらしい。浄瑠璃の作者は「平家物語」や「源平盛衰記」をきちんと踏まえて役柄や物語をつくり、当時の観客もそれらを踏まえて舞台を楽しんでいたのであろうとまたまた納得。

物語は他の義太夫狂言と似たところがたくさんあった。海上で主君の仇を討つために船頭に身をやつしていたのに見破られての立ち回りは「碇知盛」。(「逆櫓」では義理の子で偶然だったようだが)子が主君の子の身替りとなって死んだというところは「寺子屋」の松王丸。わざと家族を訴人して犠牲にして主君を助けるというあたりは「すし屋」。忠義を中心に物語をつくってドラマを盛り上げるための仕掛けのパターンはいくつかあってそれをうまく盛り込んでいる。日本の浄瑠璃や歌舞伎はこういうあたりにも面白さがあるとつくづく思う。

そしてそれをさらに面白くするのが役者たちだ。今回の「逆櫓」も役者が揃っていたのがよかった。
冒頭の権四郎の語りで取替え子事件が語られるのだが歌六のこういう場面はぐいぐいと物語に引き込んでくれる。東蔵が権四郎の娘というところは少々無理を感じたが、松右衛門女房というあたりはまぁ姉さん女房くらいになるかと片目をつぶることができる。控えめだが落ち着きのあるお役としてはよい。船頭の舅に感謝しながら夫婦・親子三人の情愛を見せるあたりの吉右衛門もうまい。
取替え子をした先の家の女中のお筆の芝雀が駆け込んでくるあたりからドラマは一気に展開していく。本物の槌松を死なせてしまったことへの祖父の怒りを爆発させる歌六の迫力!上手の障子が開くと樋口次郎兼光の本性を現した吉右衛門が駒若丸を抱いて極まっている。吉右衛門は○○実ハ××という歌舞伎の変わり身の面白さをしっかりくっきり見せてくれる。世話っぽかった芝居がくっきりと時代物に雰囲気を一変してしまう。
逆櫓の技の名手に技を習いにきた船頭の顔ぶれが豪華だった。通常は遠見の子役でする演出なのだそうだが、歌昇・錦之助・染五郎が櫓を振り上げながら「やっしっし」と声を揃えて吉右衛門に習う姿は、まさに五月の演舞場や秀山祭で鍛えられている面子でもあり、そういう舞台であることも思い至って感無量。

船頭の蛸模様の衣裳でぶっかえって手負いになっての立ち回りも見応え十分。松の根方での見得などもしっかり極まる。吉右衛門の時代物役者としての大きさを堪能。今、義太夫の糸に乗って大きさを出せる立役は吉右衛門と仁左衛門の二人だろうなぁ。今の時代に二人の舞台を観ることができてよかったなぁとつくづく思えた。
初めての「逆櫓」を役者揃いで楽しむことができて満足、満足。

写真は歌舞伎会『ほうおう』掲載の吉右衛門の写真を携帯で撮影。
9/7昼の部①「日本振袖始」
9/7昼の部②「竜馬がゆく 風雲篇」
9/19夜の部①初代の写真、中幕「鳥羽絵」
9/19夜の部②「盛綱陣屋」