11/10封切りの「てれすこ」を地元のシネコンでレディスデイの仕事帰りにでも観ようと思っていたら、一日の上映回数が絞り込まれて夜の上映会がなくなってしまった。次に12月歌舞伎座昼の部を観て丸の内ピカデリーで歌舞伎会カード提示で1000円で観ようとしたが、終演時間がギリギリすぎて見送り。ようやく自分の誕生日の夜が暇なので丸の内ピカデリーで観てきた。
【やじきた道中 てれすこ】監督:平山秀行
配役は以下の通り。
中村勘三郎:弥次さん、柄本明:喜多さん、小泉今日子:お喜乃、笹野高史:お喜乃の父、波乃久里子:島崎の女将、ラサール石井:幇間、松重豊:地回り、麿赤皃:お喜乃の客の坊主、淡路恵子:おさん、笑福亭松之助:茂兵衛、間寛平:大坂の町奉行、國村隼:賭場の親分、藤山直美:てれすこを出す茶屋の女、ほか
あらすじは以下の通り。
冒頭は白髪頭のおさん・茂兵衛の心中未遂場面。舟で身投げを図るところを巨大な怪魚“てれすこ”に邪魔されて未遂に終る。奉行の前で茂兵衛がその巨大な怪魚を“てれすこ”だと言い出すのだ。上方落語の笑福亭松之助と淡路恵子のカップルが爺婆のくせにとってもいい雰囲気で、ここの場面の不思議な感じが「真夜中の弥次さん喜多さん」の世界と重なった。こりゃあ面白そうだ。
その頃、江戸・品川の遊郭「島崎」では、花魁のお喜乃が新粉細工職人の弥次さんに切り指を新粉で本物そっくりに作らせて麿赤皃たち47人の客に渡し、金をせしめていた。そして弥次さんに一緒に逃げてくれと頼む。お喜乃は沼津にいる父が病気なので一目会いたいと目にお茶をつけて嘘泣きしてくどく。その部屋の窓から見えてきたのは首吊り自殺をしかけている喜多さん。未遂に終わった喜多さんも一緒になって、お喜乃の足抜け作戦は成功。東海道を下る珍道中が始まる。足抜けと詐欺が発覚し、松重豊たちの地回り2人組とお喜乃の47人の客がそれを追う。
歌舞伎の大部屋役者の喜多さんは、抜擢された「忠臣蔵」の判官で失敗して死のうとするくらい小心者。酒は断っているのをすすめられての酒乱騒ぎは前半のヤマ場だった。柄本明の怪演が頭にこびりついている(笑)
子狸の恩返し的な「狸賽」ネタもあり、とにかく落語ネタがてんこもり。私は「円生と志ん生」で買った『the座』の特集で少しかじったのが幸いして少しはわかってよかった。もっと落語を知っている人にはもっと楽しめるだろう。
小泉今日子が売れっ子No.1の地位を若手に奪われそうな花魁にぴったりだった。追いかけてきた47人に啖呵を切って丸め込み、逆に地回りをやっつけさせるしたたかなおきゃんな女を好演していた。波乃久里子の島崎廊の胡散臭い女将も濃くてよかった。
無事に沼津の実家にたどりついてみると、お喜乃の父は娘を売り飛ばしているくせに若い女を女房にしようとしている。こんな親爺ありえない~(笑)。笹野高史が実に飄々としていい。
弥次さんは若い女郎に惚れこんでいる軽い中年男ではないという設定。5年前に流行り病で妻と子をいっぺんに亡くした孤独を抱えている。お喜乃は死んだ女房にそっくりだった。弥次さんは街道の茶店で“てれすこ”の煮つけを食べて意識を失い、幻覚を見る。死んだ女房(小泉二役)と息子との再会。その場面の勘三郎が実にしみじみと孤独だった男のせつない思いで満たしてくれる。やっぱり勘三郎はいい役者だなぁと私もしみじみ思ってしまう。
この場面と前半の柄本明の酒乱の場面の2つで元がとれた気分になった。
買うつもりがなかったのにけっこう面白かったので巾着袋入りの読本型のプログラムを買った。柄が選べるので持ち歩くのに無難な紺色のにしたが、読み始めると面白い。それにページの片隅にパラパラ画像がついていて、両方向からパラパラすると2つの動画?が楽しいのだ。元日に娘と観た「魍魎の匣」も同じサイズでびっくり!読本シリーズ化か?)
プログラムによると平山監督は「しゃべれどもしゃべれども」という作品も落語がらみのものらしいのでそちらも観てみたいと思った。
今回の作品はインタビューで「落語を取り入れた正統派の時代劇、王道の映画を作りたかった」と語っている。私は元々が時代劇好きだし、勘三郎・柄本明の人情喜劇が好きなのですごく楽しめた。しかしながら時代劇がここまで下火になってしまっている昨今、トレンディドラマのスターもいないし、ヒットまではいかなかったんじゃないかなと推測。しかしこういう映画があってもいいと思う。
東京近辺では今日1/11で東劇のモーニングショーも終わり。明日からはシネマ歌舞伎「研辰の討たれ」の上映が始まる。勘三郎襲名披露公演で観たのでシネマ歌舞伎も観る予定がないが、舞台を観ていない方は一見の価値があるのでおすすめだ。
写真は映画のチラシ画像。
「やじきた道中 てれすこ」の公式サイトはこちら
追記
時代劇といえば野村萬斎主演のNHKの木曜時代劇「鞍馬天狗」も楽しみだったりする(^^ゞ