ちょっと心配しながら「渡海屋・大物浦」にさしかかる。
昨年観た文楽の「義経千本桜」の感想はこちら。
2.二幕目 渡海屋・大物浦
前段の「序幕 鳥居前」の記事はこちら
この場の主な配役は以下の通り。
渡海屋銀平実は新中納言知盛=幸四郎
女房お柳実は典侍の局=藤十郎
相模五郎=歌六 入江丹蔵=高麗蔵
義経、弁慶、四天王は「鳥居前」と同じ
主人銀平の不在時に店を切り回す女房のお柳。藤十郎の声がききとれない。女房役の低い声がダメみたいだ。義経一行を追うために先客から船を譲らせろと無理を通そうとする相模五郎と入江丹蔵。そこに銀平が登場してふたりにきっぱり物申して腕づくで追い払う。ここはチャリ場になっていて、去り際には歌六と高麗蔵の魚づくしで「サヨリなら~」。これも歌舞伎の入れ事のようだがなかなか楽しい。
幸四郎の銀平が思っていたよりもよかった。雰囲気もあるし、台詞回しもききとれる(一番の問題はここなのでクリア)。渡辺保氏の劇評で指摘されていた台詞の間違いも修正されていた(武士の武の字は戈を止むると書きますというあたり)。劇評を読んでいるのか誰かが指摘したのか、ちゃんと直っていたのもよかった。
この仕組んだ芝居で義経一行の信用を得る作戦。銀平がすすめるままに義経一行は船にのりこんでいく。銀平も支度を整えての登場は、白を基調に銀色が散る幽霊装束(だから銀平なのかも?)。壇ノ浦の合戦で死んだと思われていた平知盛の幽霊が義経一行を襲ったと見せかけると高らかにうたう。奮戦むなしく敗れた時の目印をお柳に話し、「その時はお覚悟を」と言い残して一行を追っていく。文楽の時もそう思ったが、ここの幽霊装束というのは本当にカッコいい!衣装負けしないように役者も頑張るのだろうな。
お柳と娘のお安も衣装をあらため、典侍の局と安徳帝として公家の正装になる。ここからの藤十郎は立派だった。お柳の時よりも高い声で品格のあるたたずまい。子役は原口智照くんだと思う(先代萩で千松やった子)。さすがに藤十郎が腕に抱きかかえるのではなく、後ろで黒衣さんが支えていたり、高合引に立たせたりしていた。なぁるほど。
白と銀色の衣装で髑髏の飾りをつけた鉢巻幕姿の歌六の相模五郎がカッコよく苦戦の様子を伝えにきて戻る。次の使いの高麗蔵の入江丹蔵の時はさらに戦況悪化。敵がここまでやってきて羽交い絞めにされると刀で自らの身体ごと貫いて「冥途の先駆け仕つらん~」チャリ場のふたりとはうって変わっての見せ場~。よくできた芝居だ~。
典侍の局は安徳帝に入水の覚悟をさせるくだりがまたまた見せ場。
「この波の下にこそ極楽浄土という都がございます」→「そなたさえ往きやるならば、何処へなりと往くわいの」というやりとり。ここは子役の出来次第で盛り上がり方が違うが、うっ泣かされそうになった。
渡海屋の奉公人たちも実は帝に仕えている女房たちで正装の姿のまま、先にどんどん入水していく。局がいよいよという時に帝を抱き取られてしまう。
義経たちは知盛たちの謀を見破って準備万端応戦していたのだった。そこに血まみれにになった知盛がかけつけてきてさらに挑みかかる。弁慶がその首に数珠をかけて出家を促すが、知盛はきっぱりと拒否。「ええ、穢らわしい」の台詞に先月の勘平の切腹の場面を思い出す。恨みを晴らすことへのこだわりを見せるところが同じだ。それを説得して終局へ向かうという作劇のたくみさ。
帝に「義経を仇に思うな」と言われ、局も帝が生きていくために義経に託すという言葉を残して自害。それですっかり最後の抵抗もあきらめる知盛。ここのイヤホンガイドの「帝に裏切られ」という解説にちょっと違和感。
幸四郎の知盛は父清盛が姫宮を男宮と偽って即位させたことにはふれずに、悪逆がつもりつもったことが一門に報いたと嘆く。姫宮を男宮と偽ってというあたりはいろいろ演じ方があるようだ。
最後の知盛の覚悟の入水の場面。あくまでも義経に仇をなしたのは知盛の亡霊だと伝えること、安徳帝の供奉を頼んで碇を身体に巻きつけて海に投じる。碇は途中の相模五郎たちをこらしめる場面でも登場させているので無理がない。
とぐろ状の縄がするすると海に落ちていき、最後に気合とともに知盛が後ろに飛んで落ちていく。3階席右列からは後ろでお弟子さんたちが布団状のもを広げて待ち受けているところも見える。こうして名場面は多くの人によってつくられていることもわかって感動。
写真は公式サイトよりチラシの画像。
追記
今月末に仁左衛門の知盛で「義経千本桜渡海屋・大物浦」のDVDが発売になる(→松竹のサイトの詳細はこちら)。アマゾンだと25%オフになるのでしっかりと注文してしまった。初仁左衛門DVDだ!!