ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/10/26 芸術祭十月大歌舞伎千穐楽『加賀見山旧錦絵』

2005-10-27 01:01:42 | 観劇
10/10に3階席で観劇し、花道がほとんど見えなかったことで欲求不満に陥るほど心ひかれた舞台だったので、1階席でもう一度観ることにして千穐楽をとってしまって観劇。
10/10の感想記事はこちら
千秋楽まできて、初役の菊五郎も菊之助も魅力を増し、玉三郎とのバランスもさらによくなったようだ。

菊五郎の岩藤は、なんとなくメイクも怖くしたような感じがあった。凄味をきかせた嫌みをあの低いゆっくりテンポの声と落ち着き払った態度で言われると本当にイヤ~なヤツ!という感じ。でも端々に憎めないコミカルな味をみせる。だから「試合」で岩藤がお初に反則勝ちをして引き揚げ、尾上も引き揚げた後でお初ひとりの引っ込みの時に姫や自分の主人と比べて「岩藤さまの意地悪」と悪口を言うが「本当に意地悪な女」というところにとどまって、ちょうどいい気がした。菊之助のそこの台詞の言い方も今回の方が可愛い娘が言っているようになっていて、うまくなったなあと感心した。
「草履打ち」場面では前回ききとりにくかった左團次の上使・弾正の台詞が今回よくきこえ、よりわかりやすくなった。岩藤がじわりじわりと尾上を追い込んでいくところの切迫感もよく伝わってきた。尾上が辛抱しながら恨みの目で岩藤を見上げるところなどは今回1階席にしたために角度もよく、目の演技の凄味も堪能できた。義太夫にのっての尾上の引っ込み、途中で下座の効果音だけになる花道の引っ込みの表情も陰影がくっきりで死の世界をのぞきこむ女の顔をしていた。これは1階席でないと観ることができないと納得。ただし、1階席でも奥の方の二等席だったので尾上の足袋が畳をこする音は前回よりも聞こえなかった。やはり3階席は音が抜けてよく聞こえるのだ。

「尾上部屋」での尾上・お初主従のやりとりの切なさ。尾上がお初に実家に手紙を届けるように言いつけ、胸騒ぎのするお初が明日早朝に届けると言い張り、それなら暇を出すというやりとりの緊迫感のところで、今回はもう涙腺が切れた。今日は最初から用意していたタオルハンカチがやはり大活躍。双眼鏡の覗き口が曇るのを何度も指でぬぐって観ていたのだった。

お初が町人である自分をそこまで思ってくれることを有難く思いながら両親への遺書をしたため、お初が歩き出すと呼び止めて今生の別れを惜しむ思いで声をかける。その芝居があるから、主人の決意を確信して戻ったお初が「遅かった死なしたり」を2回、「遅かった」を3回発するところの芝居と呼応しているような気がした。
最後の「仕返し」の場での岩藤とお初の対決も、よりたっぷりとした気がする。岩藤が頭痛の仮病を訴え、お初がお守りと言って因縁の草履を岩藤の頭に乗せるあたりの笑いを誘う場面もより余裕が感じられる。その後の立ち回りでの緊迫感にとってかわり、お初に一太刀あびせられた岩藤の睨み。後日の復活をにおわせているような気がする。討ち取った岩藤の亡骸を草履で5回打ち据えた時もすごい迫力。自害しようとしたお初をとめて尾上の二代目を名乗るように上意を伝えた求女の松也の際立った二枚目ぶりも今回はじっくりと拝ませてもらった。
尾上方と岩藤軍団の衣裳の色のバランスもよく楽しめたし、岩藤軍団の菊十郎、猿四郎などの表情も今日はよく見えた。大姫の隼人くんも可愛かったし。

こんなに満足できる作品なのに上演が少ないし、チケットがけっこう残っているのだろう?という疑問が湧いた。観劇後にお茶屋娘さんとその話になった。そこでは、女どうしの確執の暗い話のような側面もあるし、そういうのきっと男性人の共感を呼びにくい内容なのではないか、江戸時代も奥女中の宿下がりの時期のみの上演だったのだし、きっとそんなんだろうねえという話になった。

そしてお初がどれだけ魅力的かでこの作品の後味がよくなるか、暗いままで終わるかが問われてくるのだと思う。今回の菊之助は当初男っぽさが出過ぎるとかのマイナス評があったようだ。確かにそのへんの芝居では硬さがあったように思えるが、この爽やかさは何物にもかえがたいと私は思う。千穐楽ではけっこう可愛らしさが増していたと思えるし。さらなる精進でもっともっとメリハリのある芝居ができるようになる人だと私は期待している。来月の『児雷也』での再会が楽しみだ。

なお、このところ喘息的症状がけっこう出てしまうので、薬などを飲んだりしていて遅くなり、冒頭の25分ほどの『廓三番叟』はほとんど終わっていたのがちょっと残念。

写真は千穐楽の幕のかかった歌舞伎座の正面入り口を携帯で写した画像。