亡くなった井上ひさしさんと共に「憲法9条の会」を立ち上げた大江健三郎さんが国民必読といって薦められている記事を読むために、1フロア上の研究所の書架から借りてきた『世界』2011年9月号。
肥田舜太郎さんへのインタビュー記事「放射能との共存時代を前向きに生きる」がそれだ。この間、鎌仲ひとみさんとの共著『内部被曝の脅威』(ちくま新書)も読んでいるが、インタビュー記事はなおさら読みやすい。
肥田さんは広島で原爆を受けた時にちょうど軍医として赴任中だったので、直後から被爆者を診ることになった。そこでピカにもドンにもやられなかった人たちが広島にいるはずの家族を探しに行ってしばらくして急に劇的な症状が出て亡くなるという事態に次々に直面。放射性物質の漂う空気を吸い込んだりして内部被ばくしたことによる症状だと確信をもったという。アメリカ軍と敗戦後の日本政府は占領政策の中で原爆に関わることは機密とし、医療現場で被ばくした患者のカルテ作成まで禁止したという。アメリカは徹底して「内部被ばく」の問題を隠した。核実験に関わった兵士たちの被ばくに関しても一切認めない政策をとっている。
核の軍事利用=兵器開発・保持と平和利用=原子力発電をセットにして推進するためには、「内部被ばく」の危険性の認識が広まることが大きな邪魔になるからだ。
さらに放射線の細胞との関係として、放射時間を長くするほど細胞膜の破壊に必要な放射線量は少なくてすむという研究結果をカナダ原子力公社の研究者ペトカウ博士が発表。それを翻訳するという仕事もされている。この低線量の内部被曝によって細胞膜が破られ、中が傷つけられるメカニズム=ペトカウ効果を原発推進派は認めないのだという。
またアメリカの統計学者による癌の発生率上昇の分析結果が恐ろしい。発生率が上がった1300以上の郡に共通する因子として全部に関係する因子は一つだけで、核施設から100マイル以内ということだった(核施設とは、原子力発電所だけではなくウラン採掘鉱山、核に関わる工場など全て。100マイルは160㎞)。核兵器を作る過程原発の通常運転でも許容量以下を前提に放射性物質が出てしまっていて、それによって被曝問題が起きているわけだ。
そしてさらにショックなのは、日本はほとんどの地域が原発から160㎞いないだということ。これはもう既に許容量以内で放出されている放射性物質によって日本人のほとんどが汚染されているということだ。
放射能問題は福島の原発事故の問題だけではなく、日本の国民すべての問題であり、放射性物質を出す元の施設をなくしていく努力をしていかなければならないという肥田さんの主張は実に胸にストンと落ちた。
記事のタイトル「放射能との共存時代を前向きに生きる」とはどういうことか?
自らも被爆者である肥田さんが90歳を超えて元気に活躍されているのは、健康的な生活をする努力を続けられているからだという。被ばく後も病気の発病を防ぐためだ。一番大事なのは食事の食べ方で、30回以上噛み、食後は20~30分安静にする。楽しくなる話題で食べることも大事。早寝早起きは朝食の時間を十分とれるので健康によいとのこと。
今多くの人が放射能汚染されていない食べ物を得ることばかりに意識を向けているが、どのように良い食べ方をするのかが大切とのこと。
開き直って、世の中を変えていく努力と日々の生活を健康的なものにする努力の両方を続けることが大事なのだという肥田さんのこの記事は、まさに必読だと思った。
ここしばらくの間、体調不調になっていた私は後者の努力が圧倒的に足りない。だから、えらそうには言えないのだが、やはり皆さんにお知らせしておこうと久しぶりに気合を入れて記事アップした次第。
肥田さん以外の記事も読みごたえがあるものが多かった。図書館などにはバックナンバーもあると思うので、是非ご一読をおすすめしたい。
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アマゾンの該当コーナーはこちら(内容紹介は10月号のものと思われるが、カスタマーレビューも読みごたえあり)