ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/03/14 「上海バンスキング」千穐楽で初見にして封印!(修正追記あり)

2010-03-24 23:58:34 | 観劇

「上海バンスキング」を観て、千穐楽のロビーコンサートの盛り上がりを堪能し、シアターコクーンを出たところのショップCDが売られているのを見て、幕間にはその気がなかったくせに帰宅してすぐに聞きたくなってとうとう買ってしまい、家でもう何回か聞いている。吉田日出子がけだるい声で歌うジャズが気に入ってしまったのだ。

「上海バンスキング」の初演、再演、その他のオンシアター自由劇場の舞台は、私がちょうど観劇から離れていた頃だったので、ご縁がなかった。串田和美演出の舞台は2004年の新橋演舞場で勘三郎と藤山直美の「空想万年サーカス団」を観たのが初見。
Wikipediaの「上海バンスキング」の項はこちら
作=斎藤憐 演出=串田和美
以下、あらすじと主な配役を公式サイトより引用、加筆。
昭和11年の夏、上海の港に降りた正岡まどか(吉田日出子)とバンドマンの波多野四郎(串田和美)は、かつてジャズ仲間だったトランペット吹きのバクマツこと松本亘(笹野高史)を訪ねた。アメリカ人の顔役ラリー(真那胡敬二)の経営するダンスホール“セントルイス"に出演していたバクマツは彼の愛人・リリーこと林珠麗(さつき里香)と恋仲になった。怒ったラリーはバクマツに詰め寄るが、仲裁に入ったマドンナと四郎まで“セントルイス"に出演することになる。左翼学生でマドンナの許婚者だった弘田真造(小日向文世)も上海へやって来たが、警察の追手が厳しく、満州へと逃げた。昭和12年の夏。ついにバクマツとリリーは結婚、その祝いの席で、白井中尉(大森博史)は日本と中国の開戦を告げた。昭和13年、初春。白井は大尉に昇進して南京から戻り、上海のジャズに飽き足らなくなった四郎はまどかを残して日本に帰った。昭和15年の秋。まどかにほのかな思いを寄せていた白井はソ連国境に行くことになり、バクマツにも召集令状が届いた。そして、日本ではジャズができなくなった四郎が、再び上海に戻ってきた。昭和16年の冬。日米が開戦し、“セントルイス"は日本軍に接収された。弘田は転向して日本軍の要人となり、上海で幅をきかせるようになる。昭和18年の春。米英の音楽が追放され、演奏のできなくなったバンド仲間は散り散りになり、四郎はアヘンに手を出した。昭和20年の秋。終戦を迎えたが、四郎は重いアヘン中毒にかかり、バクマツは戦死した。そして、まどかは夢の中でみんなが元気に演奏する姿をみるのだった。
<その他の主な配役>小西康久、三松明人、内田紳一郎、片岡正二郎 他(一人で複数の役をするし、詳細な配役は各公演当日の発表ということで配役表が置かれている)

以下、率直な感想。
シロー(波多野四郎)は東洋のジャズのメッカである上海に行きたい一心で、日本で演奏していたホールのオーナーの娘のまどかを騙し、新婚旅行ということで船に乗ってやってきた。まどかだけをパリに行かせてしまうつもりが親友のバクマツのためにその地に留まるハメになり……という冒頭の展開。
とにかく串田和美のシローに魅力が感じられない。既に現役の舞台俳優ではなくなってしまったんじゃないかと思わせる声の通らなさ。何を言っているのが聞き取るのが大変だった。舞台なんだからもっと派手に若作りしてくれてもいいのにこんな初老の男でマドンナと呼ばれるようなお嬢さんのまどかが「騙されているとわかりつつもついてきちゃった状態」になるということがスッと受け止められない。深作欣二監督の映画ではシローを風間杜夫がやっているようで、それくらいの二枚目ぶりでシローはやって欲しい。
バクマツの笹野高史や学生時代の弘田の小日向文世が観客の笑いをとるくらいのズラ装着をして若作りしているのだから、串田和美はなぜ同じようにやらないのだろう。テレがあるのだろうか?白髪頭のシローというのにまず違和感をもち、声でダメ押しされてしまった。

他のキャストはみな素晴らしい。よく見ると容姿はおじさんおばさんであるが演劇の上手な嘘の範囲にしっかり入っている。吉田日出子の歌声は、CDで聞く若い頃のそれよりも今回の舞台の方が艶があって味わい深い。
笹野高史、小日向文世は映像の世界でもメジャーになっているが、舞台でも活躍しているだけあって、迫力満点の声と台詞回しを堪能。
「リチャード三世」の奇抜な衣裳のバッキンガム公で初見だった大森博史がマドンナに寄せる思いがほのかに見えるのも切なく実にカッコイイ軍人姿だった。
弘田といい、白井中尉といい、マドンナを愛する男が何人もいるのに、その中でマドンナがシローを愛してやまない説得力がこのドラマのひとつの大きな鍵だと思う。その魅力があまり感じられない以上、このキャストによる上演はこれで本当に封印していいと思った。

日中戦争の影が忍び寄り、国内で思想や文化の統制がすすみ、そこから逃げて上海まできた人間にもやがて、その統制の力が及んでいく。
小日向文世演じる弘田が左翼の活動家から転向して権力側の人間になっていることは、当時の権力の支配方法を如実に表している。左翼の中でもインテリは労働者よりも転向しやすかったようだが、思想を頭中心で理解している人間と身体で理解している人間の差だろう。その辺りもきちんと描かれている。
アメリカの影響力を削ぎ、日本が支配力を固めた後のクラブ。敵対関係にない国との情報交換の場として日本のエライさんたちが利用している。そこで「海ゆかば」のリクエストシーンになる。その正調演奏をくずしてジャズにしてしまい、睨まれるとまた正調に戻すという、ジャズメンの気概を見せる場面だが、この歌詞を知っているとよけいに皮肉が効いてくる。
Wikipediaの「海ゆかば」の項はこちら
そのクラブにまどかを借り出していく弘田がシローに阿片をすすめるのだが、これは嫉妬心でシローを破滅させるためだったのではないかと思う。日本が敗けて台湾に逃れると弘田は言うが、まどかの心がついに自分のものにならなかったことで絶望。まどかから戻ってきたピストルで死を選んだのだろう。

戦争へと時代が向かう中で、ジャズを愛した人間が気概を見せつつも時代に流されていく様子が縦糸で何組かのラブロマンスが横糸になって織り上げられるドラマ。まどかたちが間借りしている屋敷の料理人で実は元の持ち主の中国人やバクマツの妻となったリリーなど、中国の庶民たちの逞しさも描かれているのも、自由劇場作品らしいところなのだろうと思った。幕開けと幕切れはその料理人がアヒルを追いかけているというのもその象徴だろう。
その暗く切ないドラマを出演者が円熟した技術で演奏するジャズが彩る。

最後はマドンナの見る幻という設定でかつてのジャズメンが何曲もジャズを演奏するという場面で幕切れを盛り上げる(だから最初から二段になった舞台装置の上部には幻のキャストがいたのかという演出!)。そこからロビーコンサートになだれこむというのは贅沢そのもの。
麗さんの情報でしっかりと早めに席をたったので、コクーンシートからでもロビーコンサート特設コーナーの3列目をGET!しかしながら左に陣取れば小日向さん大森さんの正面に行けたのにとちょっと残念。サックスを吹くお二人は実に色っぽい(ここんとこはミーハー(^^ゞ)。しっかりデジカメで撮影したことは言うまでもない。
千穐楽らしく、3曲くらい演奏してくれて盛り上がった。「リンゴの木の下で」「ウエルカム上海」とあと何か(笑)

ついに幻の舞台「上海バンスキング」を観ることができたのは嬉しかったが、物語が予想よりも遥かに重くて辛いものだった。キャストという面でも今回が限界だと思われるので、私的にはもう封印ということにしようと思っている。
そうそう、謎の言葉「バンスキング」だが、「前借り王」ということで代表選手はバクマツ。要は「その日暮らしの奴」ってことねと納得。キングはキングでもこれじゃねぇ。バクマツの最後はもうドジというか、何というかのせつなさ。

まどかの幻で締め括るしかないという悲しい物語。でも、CDはこれからもBGMとして我が家で大活躍しそうだ。(今から買うならこちらのCDの方がお徳かな(^^ゞ)
写真は今回公演のチラシ画像。


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5 コメント

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うわっ! ()
2010-03-25 00:38:50
もう感想書けてる!(笑)

早速拝見しました。
串田さんの感想、、、全く同感です。
演出家としては素晴らしいと思うのですが、
役者としては・・・滑舌悪いのは致命的ですよねぇ。
まどかが惚れ込む程の魅力を感じなかったのも、同感です。(笑)

髪の毛増やして頑張ってた、笹野さんと小日向さん。
やっぱり髪の毛があると若く見えますね~。(笑)
トランペットやサックスを吹く姿も格好良く、
すごく素敵でした♪

>サックスを吹くお二人は実に色っぽい
きゃー!きゃー!
やっぱりサックス吹く男性ってセクシーですよね♪
ん~、やっぱり逆サイドで堪能していただきたかった!(笑)
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楽しかった♪ (mayumi)
2010-03-26 08:28:00
二階席での観劇となりましたが、台詞の聞き取りづらさは 特に感じませんでした。役と 役者の身体年齢のギャップに関しては、他に思うところもありましたが、そんな難点を払拭するだけのパワーと ワクワク感が嬉しい舞台でした。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2010-03-28 12:15:17
3/12に観る予定がどうしても抜けられない用事が入り、おけぴで譲渡してもらって千穐楽のコクーンシートで観る事ができた幸運を本当に有難いと思った舞台です。返事が遅くなって恐縮ですm(_ _)m
★「ARAIA -クローゼットより愛をこめて-」の麗さま
串田さんはもう現役の役者じゃなくなっちゃったんだなぁというのを痛感してしまいました。私は若かりし頃を観ていないのですが、シローの役にしてはもうちょっとどうかなぁ状態だったのがかなりネックになって入り込みにくく、さらに物語が予想以上に重く辛いものだったために、初回にしてもうこの一回でご馳走様になっておりました。
終演後のロビーコンサートはサックスコンビの前になる左側に陣取ればよかったのですが、反対に座ってしまったのがちょっと、いやかなり!残念でした(^^ゞ
小日向さんは舞台「ミザリー」も映画「サイドウェイズ」もよくて、しっかり感想アップしています。
★「たまごのなかみ」のmayumiさま
串田さんの演出の面白さは文句ないです。舞台装置が二段になっている必然性も最後にわかるというのも憎かった。当日のキャスト一覧表に「あの日のまどか」とかの配役で若手がキャスティングされてましたもんね。
ジャズの演奏がこれまた文句なく素晴らしかったです。しっかりCD買ってきて何回か既に聞きました!ただアマゾンでもっと曲数の多いCDがあったのでそちらの方がお得だったかもと思いましたが、「海ゆかば」はそちらにはないし、すぐに聴くことができたんだからいいかと納得しました(笑)
串田さんの演出ということでは、6月のコクーン歌舞伎をしっかり観ようと意気込んでいるところです。
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懐かしさばかりでなく (スキップ)
2010-03-29 01:34:47
ぴかちゅうさま
「上海バンスキング」は私にとってはマイルストーンのような作品ですので、無条件にOKなのですが、実は重くてかなり辛いお話ですよね。

串田さんは私が観た日は声はそれほど聞こえにくくなかったですが、確かに「もう役者さんではない」という印象はあります。
それでも、私はまどかさんがデコさんである限り、四郎は串田さんで、バクマツは笹野さんであってほしいと思っています。

あ、CD、私も買っちゃいました。
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★「地獄ごくらくdiary」のスキップさま (ぴかちゅう)
2010-03-29 02:25:47
名前欄のURLにて貴記事へのリンクを有難うございますm(_ _)m
>過去に2回観たことがあって、大好きだった作品......というのは実に羨ましいです。私はちょうど観劇から遠ざかっていた頃でした。
>まどかさんがデコさんである限り、四郎は串田さんで、バクマツは笹野さんであってほしい......私もそうあるべきだと思うのです。別のキャストでの上演はしばらくなしにして欲しい。だから封印の提案なのです。金子ゆかりのシャンソンの曲で「時は過ぎてゆく」というのが好きでしたが、まさにそういうことを痛感するできごとであります。
CD情報は追加分も追記しておきましたが、お役に立ちましたでしょうか。
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