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「美しき水車小屋の娘」の調性構造について(No.2080)

2012-07-07 18:56:05 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
演奏会プログラムノートには書かなかったことを本日号で書く。

「美しき水車小屋の娘」の調性関係は、非常に緊密な構造となっている!


 シューベルトは、シェーンシュタイン男爵の委嘱で「美しき水車小屋の娘」を作曲した、と推定されることはプログラムノートに書いた通り。だが、不思議な事に

シェーンシュタイン男爵の声域には、少し高い曲が多い!


のが事実。

シェーンシュタイン男爵用の移調楽譜7曲(7-9, 16, 18-20)の最高音を確認すると「2点F」が最高音のバリトン歌手だった


ことが明らかになる。つまり

シェーンシュタイン男爵はシューベルトに向かって「最高傑作を書いてくれ! 私の声域への考慮は無用。但し、私が歌える移調楽譜は作って下さい。


と委嘱したようだ。シューベルト自身の声もバリトンだったことが判明しているし、「バリトン用の連作歌曲」を作曲しても全く不都合は無かったハズ。
 それにもかかわらず、2点Aまで必要とする「テノール用」に作曲したのは何故だろう?

「ミュラーの詩」が若々しい声を要求しているとシューベルトは考え、テノールがイメージと合致したから


と推定される。


 古来から「調性には、固有のイメージ」がある。例えばイ長調は「伸びやかな感情」に用いられる。「美しき水車小屋の娘」では、第7曲から第10曲までの4曲中3曲に用いられ、しかも全4曲が「有節歌曲」で構築された。曲集中の最高音3点Aを歌い絶頂感を有したまま、美しき水車小屋の娘とのデートに漕ぎ着けるまでの至福の時である! ニ長調は、極めて元気の良い調性で、ファンファーレ、行進曲 などに頻繁に用いられる。「美しき水車小屋の娘」では唯1曲だけ、第11曲「僕のものだ!」で用いられているが、まさに「行進曲」である。ハ短調は、ベートーヴェンの「運命」「悲愴」などでお馴染みのように、「雄大な悲しみに包まれたモノ」に用いられる。「美しき水車小屋の娘」で唯1曲だけ、第14曲「狩人」で「避けることのできない運命を垣間見てしまった衝撃事実」に用いられる。運命の瞬間を見てしまった後、主人公の心は「暗」と「明」の境を行き来するようになる。第15曲から第19曲までの5曲中4曲で「曲が同主調に転調する」となる。第14曲までは「1曲の気分は一貫」している曲が13曲であり、唯一の例外が「デート → 私家へ帰る!」の第10曲であった。

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