Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

日本ドイツリート協会第4回コンサート(大阪)批評 続(No.1860)

2011-05-16 00:15:52 | 批評
 続きである。ド頭に 大島知子+岡原慎也 だったが、休憩直後に 辻村明香 + 岡原慎也 で「シェーンベルク作品2全4曲」だった。この曲は、実は、グレン・グールド が「コンサート・ドロップアウト」直後から開始した「シェーンベルク:作品番号付きピアノ伴奏歌曲全集」の第1弾で録音している曲であり、全集の中でもおそらく最も成功した録音が残っている。

Ellen FAULL(S) + Glenn GOULD(P) : SCHOEBERG Op.2


 シェーンベルクは「変なヤツ」で高声用のピアノ伴奏歌曲はこれ1集しか作品番号付きでは残していないので、聴いて予習してから大阪に行った。辻村 + 岡原 を聴いて唖然。

辻村明香 + 岡原慎也の「シェーンベルク:作品2」の方が遙かに名演じゃん!


 グールドは「録音に人生賭けた」人だから、編集も含めて「オレを越すヤツいないだろう」と思って、少なくとも「バッハ + 新ウィーン楽派」は録音している。良い録音だ。それも認める。それを、つい半年前に聴いている 辻村明香 が越す! とは(不明にして)全く思っていなかった。曲は(チラシが不明瞭な書き方をしていたにも関わらず)ドンピシャリだったのだが。


 辻村明香 のシェーンベルクは、「声の魅力」だけでなく、「怪しげな後期ロマン派の暗いシェーンベルク」の世界を十全に聴かせてくれていた。グールドが「コンサート・ドロップアウト」した直後でさえ、実現できなかった高み! 辻村は(昨年夏のJDL夏期講習で、佐伯周子と組ませて頂いていたので)レッスンは聴かせてもらっていた。「同じソプラノ?!」って感じ。全く別人のように、声量があり、高音がのびている。(佐伯が悪かったワケではないことは明記しておく。他のピアニストとのレッスンも聴講させて頂いていているからだ!)
 「グールドのシェーンベルクを超す」は、実はあまりにも高いハードルなことは(わかる人には)わかることだろう。辻村 + 岡原 は、やすやすと越してしまったのだ! 辻村の魅力は「高音」。ソプラノでも辻村ほど、美しく引っ張れる人は少ない。後期ロマン派ドイツリートを牽引するソプラノになる予感がする。

 ここで明言しておかなければならないことがある。

「大島知子 & 辻村明香 の実力 = 2011年5月14日の演奏」である


ことだ。多くの人が「岡原先生が120%の力を引き出してくれた」みたいな賛辞を言うだろうが、そんなことは絶対に無い。「無い力」を引き出すなんて、オカルトの世界だ。岡原慎也でもできない。あくまで、大島知子と辻村明香がこれまで培って来た力が根源だ。岡原慎也が発声を矯正してくれたワケでは無い(爆
 但し、極めて多くの演奏家(ここで声楽家だけでないことは声を大にして言いたい)は

自分の力を見極める力量に欠けている演奏家が圧倒的多数


 分かり易い例を挙げると、マリア・カラス も同じ。自分自身では「カヴァレリア・ルスティカーナ」辺りが似合っている、と思っていたのが、指揮者=セラフィン にワーグナーの「イゾルデ」「ブリュンヒルデ」などが合うことを認められ、フィレンツェ歌劇場音楽監督シチリアーニに出会って「ノルマ」を歌い始めた。あぁ、セラフィンとシチリアーニに出会わなかったら、マリア・カラスでさえ埋もれていたんだよな(爆

 大島知子 と 辻村明香 には自信をもってほしい。さらに付け加えれば

岡原慎也と「CD1枚分」のレパートリーを作って録音してほしい


と感じた。もし出来たならば真っ先に購入して聴く。


 ・・・で、「岡原慎也伴奏」だけに感動したか? と言われると違う。(ちょっと拙い発言になったか?)
老田裕子の歌唱を別にして、信じられないピアニストが居たのだ。事前には何も聞いていなかった。「法貴彩子(ほうきさやこ)」と言うピアニストが、JDL副会長の浅田啓子の伴奏をした。シューマン「リーダースクライス作品39」から6曲抜粋。目の前に居るのは、岡原慎也とは全く違う若い女流ピアニストなのに、「間の取り方」とか「バランス」が絶妙。どのくらい絶妙か? と問われれば「2年前のJDL創立記念演奏会時の 浅田 + 岡原」よりも遙かに良かった! である。聴いた瞬間はマジで信じられない思い。おそらく「音楽的相性が 浅田 + 法貴」の方が良いのだろう。「合わせの時間の多少」とか「JDLの事務的な打ち合わせばかりに気が行った」などかもしれない(会長と副会長だからなあ)が、単純に「聴いた結果」ははっきり「浅田 + 法貴」が圧倒的に上だった。よくわからん(泣
 法貴は「目が離せない」ピアニストだ。


 「老田裕子のマーラー」は、歌唱は素晴らしかった。期待通り、と言うか、期待を越していた点も多かった。選曲が凝っていて「若き日の歌」から「レアンダー詩」の2曲全曲と、マーラー詩の「ハンスとグレーテ」と、不思議な角笛から「別離」。

レアンダー詩の2曲は老田裕子の魅力を引き出せたのだが、後半2曲では「マーラーのえげつない作曲」を表出できなかった


結果になってしまった。ピアニストの宇都世那は、「マーラーのあこぎな世界」に入るのをためらったようだ。ピアニストが岡原慎也か法貴彩子だったら、さらに素晴らしい演奏になっただろう! と思うと残念でならなかった。宇都世那 は「レーンダー詩」の2曲の水準を維持して全4曲を弾いてほしい。次回に期待する。今回出演者の中で、歌手&ピアニストを問わず、圧倒的に若い(見た目 & プログラムノート記載)なので、伸びは最も早いだろう。


 他にも書き残さなければならない演奏があった。JDL副会長=小玉晃 のマーラー「リュッケルト歌曲集」から3曲。ピアノ版でナマで聴くのは初めて。素晴らしい声である。ピアニスト(渡辺結実)を引っ張っていたが、小玉の思いまでピアニストが水準を上げていたのだろうか? 「間」などに疑問が残った演奏となってしまったので、次回に同じ顔合わせで聴ければ幸いである。
 そして「トリ」を務めた 赤鉾寿子 + 藤本紀子 のR.シュトラウス。締めの最後が名曲中の名曲「高鳴る胸」作品29/2であったが、(ややスケール感が小さい演奏ではあったが)極めて息の合った演奏。トリを任された理由が確認できた。


 私高本は「ジョイントコンサート」は質が低いことがあまりに多い、と常々思っていたし、今も思っている。今回のJDL演奏会の質の高さは驚くばかりである。書いてはいけないのかも知れないが「JDL関東演奏会」とは比較にならない質の高さ。(佐伯周子は、関東演奏会に出演したんだったよなぁ・・・)


日本ドイツリート協会の 岡原慎也会長+浅田啓子副会長+小玉晃副会長


は、「日本にてドイツリートを質を高め、演奏頻度の向上」を目指して、この協会を作った。(HPに書いてある)この日の演奏会を聴いて、「40分+40分のドイツリートソロコンサート」を聴きたくなった若手は以下の通り。

老田裕子(s),法貴彩子(p),辻村明香(s),大島知子(s)


 創立丸2年の団体として、若手育成の成果は極めて大きい、と感じる次第である。
コメント
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