Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

東京ニューシティ管弦楽団第67回定期演奏会 批評 2(No.1741)

2010-04-17 23:49:01 | 批評
 「続き」を書くのに、ベートーヴェンの新版スコア(私が読み込んだのは「ベーレンライター新版」)を読んだ上で、「同じ東京芸術劇場で響きを確かめたい」と考えた。ベートーヴェン「第9」は、『時期外れ』なので当分(12月まで?)見込めないので、「ウィーン古典派」の演奏会を探したところ、「本日 = 4/17 ホーネック指揮読響 芸劇マチネ」があり、運良く聴けた。これで万全に批評が出来る!


言行完全一致の原典派指揮者 = 内藤彰


である。内藤彰の「学究派指揮者」の面目躍如。「テンポ」「弦楽器奏法」「音程の正確さ」の3点は見事なまで再現された。
 「学究派演奏家」の1つの特徴として、「興味薄い点にはあまり気を遣わない」人が多い。

内藤彰「ベートーヴェン 第9」を語る


を読んで、私高本が感じたことの1つは

「ホールの響き」によって、テンポは変わるのではないか?


と言う疑問である。演奏家は「響き」を確認しながら音楽を作る。「テンポ」について断言してしまって良いのだろうか? と言う素朴な疑問である。なぜなら

楽譜に神経質なほど「メトロノーム指示」と「演奏時間」を書き込んだバルトークでさえ、実演奏時間は違っている!


ことを録音から知っているからである。

ベートーヴェンが「脳内で想定したメトロノーム速度指示」は、ベートーヴェンが知っているウィーンのどこかの演奏会場を前提としている


と考えるのが自然。東京芸術劇場をベートーヴェンは知るはずもない。残響時間は1階前方席や2階サイド席では充分に余韻が残るホールである。同ホールで ほぼ同じ12型編成で ホーネック指揮読響「モーツァルト」を聴いて確認した次第である。
 結果として「内藤彰は、テンポはベートーヴェンオリジナルを実現した」演奏となった。これは、「言うは易し、おこなうは難し」である。脱帽するばかりだ。


 但し、学究派指揮者 = 内藤彰 があまり興味を示さなかった点は以下の通りだったと感じる。

  1. デュナーミクの広さ

  2. リズムの正確さ

  3. アーティキュレーションの再現


 これら3点に優先して、「テンポ」「弦楽器奏法」「音程」を重視した演奏を徹頭徹尾聴かせてくれた。
 内藤彰 の演奏は「速い!」が最大の特徴であり美点。快速なテンポで、かつ弦楽器に全くビブラートを掛けないので、「デュナーミク」が聴感上大きくなり難い。また「アーティキュレーションを細やかに表出するタイプの演奏家 → テンポはやや遅め」の傾向も顕著。すると、上記3点は「私高本の無いモノねだり」なのかも知れない。
 しかし、第1楽章冒頭の「ピアニッシモのホルン5度」の上を、「第1ヴァイオリンがピアニッシモで降りたって来る」情景が「メゾフォルテ」に聞こえたり、第2楽章序奏8小節がフォルティッシモで轟いた直後に、第2ヴァイオリンがピアニッシモで主題を鳴らす箇所が f → mf に聞こえたりするのは残念でならない。「テンポ」「ノンビブラート奏法」「音程」の3点以外にももう少しだけ「デュナーミク」などにも気を配ったら、さらに多くの感動を惹き起こせたことだろう!


 テンポについては、「ベートーヴェンの意図通り」が99%実現したように聞こえた名演である。全曲を通して、2ヶ所だけのキズ。

  1. 第4楽章第175小節の「テノールソロ」の出だしで、福井敬 がいきなりトロいテンポで歌い出した!

  2. 第4楽章第730小節から、合唱が6拍目が前に出て来てテンポが遅くなった


 1点目は 福井敬 は、この公演の「テンポの重要性」を理解していないように聞こえた。他の3名のソリスト、特に バリトン=河野克典 は「ベートーヴェンの通りのテンポ」でソロ冒頭を歌っていたのと対照的! キャスティングミスのように私高本は感じた。福井は「朗々と歌う第9」向きである。
 2点目は 内藤彰の解釈なのか? フーガで疲れた合唱がテンポを遅くしたのか? わからない。他の箇所がどんなに難しい箇所でも全てインテンポで演奏されていたので、不思議に感じた次第である。


 先駆者は全てを1度に刷新することは難しい。「テンポ」「ノンビブラート奏法」「音程」に十全に表現した 内藤彰 + ニューシティ管「第9」は、先駆者として偉大な足跡を遺した。次に「第9」を演奏する時は、さらに上の演奏を聴かせてくれることが期待できる。私高本は楽しみでならない。
コメント
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