Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

作曲家論 : シューマン第14回(No.1409)

2006-11-03 18:51:27 | 作曲家・シューマン(1810-1856)

シューマンの「幻想曲」の秘密


シューマン自身が「最高傑作」と思っていたピアノ曲は、昨日書いたように

  1. 幻想曲 ハ長調 作品17(リストに献呈)

  2. 幻想曲 または クライスレリアーナ 作品16(ショパンに献呈)


である。この2曲は『幻想曲』と名付けられており、作品番号も隣り合わせで共通点が多い。共通点を挙げてみよう。

  1. 終楽章が「穏やかな軽やかな」主題で開始され、
  2. 全曲が「ささやくように、ゆっくり閉じられる」
  3. 全曲演奏時間が 30分程度の多楽章構成であるにも関わらず
  4. 全曲構成が「シューマン以前のソナタ」に慣れ親しんだ人にはわかり難い = 斬新

である。
 「30分程度のピアノソロ曲」と言えば、既にモーツァルトから存在する。「繰り返し」をモーツァルトの指示通りに実行すれば、相当に時間的には長い!
 モーツァルト → ベートーヴェン → シューベルト のウィーン派3名は、30分程度ピアノソロ曲の伝統を「ソナタ」として脈々と受け継いで来たのである。
 「ソナタ」以外では、「変奏曲」も時間的に長い曲がある。シューマン以前だと

  1. バッハ:「ゴルトベルク変奏曲」BWV988

  2. ベートーヴェン:「ディアベリ変奏曲」作品120


の2曲が存在していた。シューマンは少なくとも、ベートーヴェン:「ディアベリ変奏曲」は知っており、

対抗作品として「交響的練習曲」作品13 を作曲


したと考えられる。他にも大規模変奏曲を構想した後はあるのだが、どうやら

多楽章形式楽曲 > 変奏曲 と結論付けた


ようである。シューマン自身は「交響的練習曲」を最高傑作扱いした形跡が無い。さらに付け加えれば、「交響的練習曲」は
  • 通常の変奏曲の間に
  • 2曲の「主題と無関連」の練習曲が2曲挿入された上
  • 終曲は「全く異なる主題」で開始される「ソナタの終楽章」に相当する曲

である。これは、改訂版でも「基本設計」を変えて、2曲の練習曲をハズしたが、それでも終曲の問題は残ってしまった。

もう1度、2曲の「幻想曲」に戻ってみよう。シューマンが特に工夫を凝らした終曲について、以前に作曲した「多楽章ピアノ曲」とともにまとめて見る。わかり易いように 作曲順に並べてみた のでご覧頂きたい。

  1. 交響的練習曲 作品13(1834/09-1835/01以降) → 速いテンポ f 開始 ff 終了

  2. ピアノソナタ第1番 作品11(1835) → 速いテンポで ff 開始 ff 終了

  3. ピアノソナタ第2番 作品22(1835)初稿 → とても速いテンポで pp 開始 ff 終了

  4. 謝肉祭 作品9(1835) → 中庸テンポ ff 開始、速いテンポ ff 終了

  5. ピアノソナタ第3番 作品14(1836) → やたら速いテンポで p 開始 ff 終了

  6. ダヴィッド同盟舞曲集 作品6(1837) → 中庸のテンポ pp 開始pp 終了。但し 1頁 59小節しか無い

  7. 幻想小曲集 作品12(1838) → 中庸のテンポ f 開始 pp 終了

  8. 子供の情景 作品15(1838) → 中庸のテンポ p 開始 pp 終了


  9. 幻想曲 または クライスレリアーナ 作品16(1838) → 「速く遊ぶように」の速度指示だが、中庸テンポ pp 開始 ppp 終了

  10. 幻想曲 作品17(1839) → 遅いテンポ 強弱記号無し 開始 p 終了



 見れば「一目瞭然」でしょ!

シューマンは 1836 → 1837 に「幻想曲」理想に燃えた作曲家!


である。 シューマンの「幻想曲」は終楽章に秘密があり、最後の最後で「意外感」を聴き手に与えてくれる! 理想の実現までに 1年少々有したが。

・・・で、「シューマン改訂問題」についての結論を出そう。


  1. R.シューマンは
  2. 1836年以前作曲の作品について
  3. 「終楽章 または 終楽章 の直前の楽章」 と 「曲の全体構成バランス」について、極めて懐疑的になり
  4. 改訂を重ね
  5. 「作品全体像」を後世の人たちに見極め難くした

である。このことは Gregorio NARDI  と言う 1964年産まれのイタリア人ピアニストのCDを 偶然に タワーレコード で購入し、聴き、いろいろと自問自答して、やっと気付いたことである。 近い内に Gregorio NARDI についても書きたい。(素晴らしいピアニストである!)
 私高本のシューマン理解は

  1. Gregorio NARDI
  2. 岡原慎也

のおかげが 100% である。
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