ぱたの関心空間

関心空間と徒然なるままに。

空母いぶき @ T・ジョイ京都

2019-05-24 17:19:58 | 映画感想
佐藤浩市さんの一件以外の前知識一切なしで来てしまったレイトショー。どうかな?と思ったけれど、これは見た方が良い映画。



最初から最後までキリキリと胃の痛くなるような切迫感。

ざっくり一言で言うのなら、他国の軍隊以上にその神経が擦り切れそうな極限をストイックに求められている自衛隊というリアルを可視化した映画、なんじゃないかな。

かわぐちかいじといえばやはり「沈黙の艦隊」である。
(「である」とか偉そうに言っているとが実は儂、最後まで読み切ってない。儂が読んでるのは国連総会に出席する直前まで。てへぺろ。艦長狙撃されちゃうって噂聞いたけど、ホント?)

沈黙の艦隊の海江田と同様、秋津艦長も涼しげな表情を崩さない。コミックと実写の違いはあるにせよ、海江田の表情には確固とした勝算という余裕があるようで、(勿論ハラハラはするんだけど)安心して読んでいられる。しかし秋津艦長の静かな表情は危うさを孕んでいるように思えるのだ。
勿論、予測可能な(基本的には)攻める側と相手がどう出るかわからない守る側という違いもある。しかも日本の自衛隊には専守防衛という枷がつきまとう。

この映画のような事が明日にでもおこる、とは考えられない。
徒らに中朝韓の脅威を喧伝し、世論を誘導しようという向きもあるが、国際情勢はもっと大局的な情勢の中で動くものであり、そんなまさかを引き起こさない為の外交という絶対的な予防線がその前には存在するからだ。

しかし待て。
外交?
そーいえば「がいこーのアベー」とか吐かしとったな。。。
あっかーん。金ばらまくだけばらまいて、成果の一つも稼げんと信用は失う一方、あんなんが外交か?
日本、予防線ないも同然ですが!?

さて、
冗談にならない冗談はさておき(をい)、

全く同じようなことが起こるとは考えられないけれど、ぶっちゃけ今の米国にこびへつらいアベちゃん外交の状況下ではいつ何時想定外の状況で自衛隊が戦闘に巻き込まれるとも限らない。っつーか、すでにそんな事例はあるんじゃないの?武力衝突と言い換えられちゃったけれどスーダンのあれはどうだったのだろう。
あれを武力衝突と言い換えてしまったことは、儂らが自衛隊が置かれている現実から目を背け続けることを許してしまっているのじゃないかとも思う。
「空母いぶき」を観なければこの重大さに気づかなかった。

大事なのは日本の特殊性だと思う。
日本の自衛隊が置かれている現実が他国の軍隊と違うのは自衛隊は軍隊ではない、即ち専守防衛の為の組織だ、ということだ。

いろいろ問題は多岐にわたるので、ツッコミは極力遠慮願いたいのだけれど(←弱気〜)、前提として先に手を出すことはできないということ。明らかな攻撃があってからでないと手が出せない、つまり最初からこちらの被害は覚悟の上で臨まなくてはならないという現実。被害とはつまり犠牲を覚悟するということ。犠牲とはつまりまずやられる(戦死者が出ることもある)ことを覚悟する、ということ。

厳しい。非常に厳しい。

加えて、儂らの国の悪いところなのだけれど、おそらく軍隊でないからという建前でいろんな事が想定できないでいるということ。映画では政府の混迷が描かれているが、現場からの報告におろおろする姿は儂らの国の政治家を思い浮かべた時にとてつもないリアリティがあって辛かった。
結局、この事件は大きな犠牲をうむまえになんとか収束することができるのだが、我が国の政府が強い外交力を発揮したようには見えない。もちろん何もしてないわけではないけれど、手探り状態でなんとか乗り切れました、的な感じは311の政府対応を見るようだ。
原発事故は起き得ない、から事故が起きてしまった時の対応が想定されておらず、後手に回る。
自衛隊は軍隊ではない、から戦闘が起きた時の対応に想定が追いつかず、即座の対応ができない。

平和ボケなんて言葉があるが、ある意味その一つだろう。

つまり、今現在のところ自衛隊をめぐって過酷な戦闘状態に遭遇したり戦死者が出たりしたことはない(隠されているだけかもしれないけれど。ええええっ!?)。

だから、儂らは自衛隊の置かれた危うい厳しさに気づくことなく、過重な精神的負担を押し付けている責任について考えることもない。
軍隊であれば本来考えられるであろう色々なガバナンスがない事のヤバさについて考えることもない。

ここでも儂らはやっぱり知らんぷりの無責任でいられたのだ。

9条を守れとか、いや9条を書き換えろとか。自衛隊は違憲だ、いや自衛隊を憲法に書き込めとか。色々議論するのは構わない。
構わないけれど、現実に自衛隊がどんな状況に置かれているのか果たして儂らはわかった上で議論できているのだろうか?机上の空論では済まされない。だって、自衛隊員だって国民であって、家族もいて、大切な命なのだ。それを考慮しないことは兵士の命は消耗品と言われていたようなかつての日本帝国陸海軍のような思考につながりはしないのか?

自衛隊を今のままにするにしても軍隊にするにしても、平和ボケの儂らは現実を見る勇気を持たなくてはいけない。
いっそ自衛隊をなくしてしまう、という選択肢なら楽なのだが、当然代わりに外交力を強固にする必要はあるし、確固とした理念を持って国民を説得する胆力が政治に求められることになるのであって、それこそ一番覚悟の要るしんどい選択肢なのだと思う。
(そして、儂はそのしんどい選択肢を支持する者でもある:-p)

たかがドラマでは済まない、ほったらかしにできない現実をきちんと見せてくれていると思う。

最後にエラそうに言わせて貰えば、
みんな観ろ、ほんで自分で考えろ、ってことかな。

(あと緊張感が続く映画の中で山内圭哉さんのキャラは癒しなんだけど、でも本気になると変わるキャラって、どうなの?あまりよろしくないんじゃないの?と冷静に思ってしまう儂でした)