パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

撃てない警官

2016-12-11 | book
「撃てない警官」を読んだ。作者の安東能明は1956年(昭和31年)生まれ。1994年に平成6年に日本推理サスペンス大賞優秀作、2010年平成12年にこの「撃てない警官」の中の「随監」で日本推理作家協会賞短編部門受賞した。綾瀬署柴崎令次シリーズの1作目だ。所収の7編は2007年から2010年にかけて月間文芸誌に掲載された。

「撃てない警官」
35歳の柴崎は警視庁企画課係長だったが、部下の拳銃自殺の詰め腹を切らされ、足立区の綾瀬署警務課課長代理に左遷される。上司はそのままの処分だった。

「孤独の帯」
綾瀬署管内のアパートで一人住まいの老婦人の縊死肢体が見つかった。長く現場から遠ざかり、逮捕経験のない柴崎は副所長の助川に現場に連れていかれる。助川は2年前34歳で警部に承認した時の研修教官の一人だった。自殺か他殺か。一人娘が最近母親に保険をかけた。他殺の可能性も出てきた中、柴崎は通帳の出し入れを気に掛ける。

「第3室第12号の囁き」
綾瀬署で世界大会の要人の警備計画書が無くなった。内部の犯行だと誰もが感じるが、その可能性があるのはだれか。そんな折留置場でのほう助の事実が明らかになる。青木巡査長28歳だった。でも青木は警備計画書は結んでいないと言い張る。

「片識」
綾瀬署の交番の警官、森島がストーカーをしている。その事案を追う柴崎。警視庁の本庁の中枢に勤めていたのに、今は、所轄のストーカーの尻尾を追い回す立場だ。その森島の息子が若い女性に刺された。

「内通者」
柴崎は、自分をはめて、本庁から追いやった上司の企画課長の中田の不正の証拠を探し当てる。柴崎は、義父の元警官、山路に相談を持ち掛ける。

「随監」
綾瀬署の交番に随時監査が入った。傷害の被害届が放置されていた。所長の広松が指示したらしい。コンビニで大人を殴り、けがをさせたのは、中学生の子らだった。大人は付近のコンビニで有名なクレーマーだった。

「抱かれぬ子」
ショッピングセンターで女子高校生が子供を産んだ。親子は義父の山路が勤める病院に搬送される。その子が病院から姿を消す。その顛末を山路に問う柴崎は、中田課長の不正を暴く証拠を山路に見せる。

警察という組織の中で、もがく警察官たち。それぞれに家庭を持ち、ジレンマを抱えながら生きている。警察小説の面白さは、そんなドロドロした人間関係を抱えながら、犯罪という行為に立ち向かう泥臭さにある。けっしてスマートではないが、だれも人間なんだということに気づかされる。安東の語りは、時代小説に通じるものがある。うごめく人間像だ。それが江戸時代の市井か、綾瀬署かという場の違いしかない。
コメント
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